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転職コラム”展”職相談室
キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。
“展”職相談室 第59回2009.02.26
~特別版/不確実性が高まる時代のキャリア開発(4)~
“経済状況や企業動向など、予想もしない変化が起こるこの時代に
自分のキャリアをどのように考え、選択していけばよいのか?”
そんなご相談をお受けすることが多くなりました。
今回の特別版は、それらの疑問・質問・お悩みに対し、
少しでもヒントにしていただければと企画したものです。
全4回の連載形式で、お届けします。
不確実性が高まる時代のキャリア開発(1)~冷え込む転職市場と”意外な求人”
不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~戦略的キャリアデザイン・七つの提案
不確実性が高まる時代のキャリア開発(3)~35歳までのキャリア形成のポイント
不確実性が高まる時代のキャリア開発(4)~35歳以降のキャリア形成のポイント
Answer
35歳以降のキャリア形成のポイント
2009年の始まりとともに、特別版として連載してきました本コラム。最終回は、35歳以降の方に知っていただきたい注意点等について述べたいと思います。
キャリアにとっての本番、すなわち35~60歳ぐらいまでをどう過ごすかが、職業人としての人生の充実に大切なのはいうまでもありません。前回のコラムをお読みいただいた方の中には「35歳までに○○すべし、と今さら知らされても…」とお感じになった方がきっとおられるでしょう。確かに35歳までにキャリア形成の基礎や道筋が構築されていればそれに越したことはないのですが、私は同時に「もう遅い」ということもないと強調したいと思います。
もし転職を含めたキャリア形成をお考えなら、ぜひ以下のポイントをご認識いただき、今このときからすぐに、いくつでもかまいませんので、実行していただくことをお勧めします。
【Point.1】求人サイト・求人広告だけでは、見つからない
35歳以下のときとは違って、Web上の求人サイトや求人広告を探してみても、なかなか案件は見つからないでしょう。なぜなら、そこに公開されているものの大半は、スタッフ層のポジションがほとんどだからです。責任の大小はあるにしろ、何らかの意思決定権を持つようなマネージャーからマネジメント層の求人は、通常は機密性が高く、広く一般に(特に実名では)公開されることが少なくなります。
求人サイトや求人広告に案件がないからといって「チャンスがない」と思い込むのは早計。これらの情報収集を怠ってはいけませんが、本気で転職を考えるなら、別の手段(例えば人材紹介会社、友人・知人のネットワーク等)もフル活用して、活動を進めなければならないと肝に銘じてください。
【Point.2】ハローワークが使える時代
昔とは違って、ハローワークがかなり使える時代がきたと個人的に感じています。勿論、経営層等のエグゼクティブを対象とした求人情報はありませんが、意外と前述の求人サイトや求人広告よりも、良いオポチュニティを発見できる場合があります。IT化が進んだおかげで日本全国の求人が細かくデータベース化されていますので、「失業者がいくところ」といった思い込みを万一お持ちなら捨て、こちらもぜひ活用すべきだと思います。
【Point.3】「経験」そのものは売り物にならない
経験を積み、年齢を重ねれば重ねるほど「私は、○○も○○もやってきた」という視点でご自身を売り込もうとする方が多いように思います。しかしながら、採用企業にとっては”過去に経験したことがあるという事実”より”その経験の中でどんな実績を出したか”が最大の関心事であることをご承知おきください。業界知識と経験だけしかアピールできないなら、候補者としては不十分と言わざるをえません。ご自身のアウトプットを明解にして、他者にも分かる形でまとめておくことが35歳以上では必須になります。
学歴・職歴も含めた「経験」は、あくまでご自身が運用すべきキャリア上のアセット。アセットそのものを「どうだ!」と声高にアピールするのではなく、それらのアセットをどのように使っていくか?という視点に切り替えましょう。別の言い方をすれば、アピールすべきは、それらのアセットをどのように有効に使ってこれまで歩んできたか、あるいはどのように使ってリターン(実績)を生んできたか、ということになります。
【Point.4】自己の価値観を疑ってみる
これまでの業界知識と経験に基づいた価値観は大切なものですが、一度疑ってみる、という作業をすることも重要です。知らず知らず偏ってはいないか? 時代に通じない可能性はないか? など。誰しも年を経るごとに、何らか固まった価値観を持ってしまうものですが、自己改革の意識を忘れてはいけません。十分な実力をお持ちであるのに、自らを変えていくことに抵抗感を持ってしまい、それが阻害要因になってなかなか転職ができない(うまくいかない)方が見受けられます。
【Point.5】転職経験ゼロも、転職5回以上も、厳しい
もしあなたが40歳以上で転職経験をまだお持ちでないなら、活動は厳しいものになることが予想されます。その理由には、二つの側面があります。ひとつめは、採用企業から「外の世界を知らない(競争にさらされていない)のでは」「スキルの範囲が狭く、不足なのでは(特に大企業に勤務の場合)」「決断力がないのでは」との疑念を持たれてしまいがちなこと。ふたつめは、転職希望者自身が、転職市場の現実や需要側の声(採用企業のニーズ)を理解するのに時間がかかりがちなことです。
過去にこんな方がおられました。事業内容も職務内容も納得のいくオファーが出たのですが、年収のアップを強く希望されており、結局辞退することに。その後も活動を続けられ、現在年収と同等額を担保できるチャンスはいくつかあったのですが「必ず年収をアップでき、仕事内容も満足できる案件があるはず」とおっしゃって、半年、一年、二年…時間が経ってしまいました。その結果、年齢を重ねた分、チャンスが少なくなり、現在年収でもそれ以下でも転職が難しくなったのです。
この方は今も元の会社で勤務しておられます。この方の場合にはその方が良い選択だと考えますが、きっと「自分の力を試し、もっと活躍したい」と言っておられた心の内は、悶々としたままでしょう。家族・家庭・生活を守るために年収の確保は絶対に必要なことです。しかし、職務職責に対するマーケットでの適正価格という視点や、現在価値のみに拘るのではなく将来価値(生涯年収)を上げていくという視点を、もう少しお持ちいただけていればと感じたケースでした。
また一方、転職回数が5回以上の方も、活動が非常に厳しくなってしまう現実があります。株主あるいは経営者からは「すぐに辞めてしまうのでは」と、どうしても敬遠されがちです。もし転職回数が多い場合には、これまで会社を移ってきた理由について、明解に、しかも納得性のあるかたちで説明できるよう、しっかり準備する必要があります。
【Point.6】「マネジメント」という単語は注意深く使う
企業との採用面談に臨む際に、ご注意いただきたいことがあります。それは「マネジメント」という単語を安易に使わないことです。部門のマネジメント、チームマネジメント、ピープルマネジメント、プロダクトマネジメント、企業経営etc。「マネジメント」という言葉は、様々な意味で使用されます。もし深く考えることなく「私はマネジメントの経験がありますので、十分実行できる自信があります」と話してしまったとしたら…ご自分の意図とは違った解釈をされて誤解を生じ、またその誤解がもとで「実務をわかっていない表面的な人物だ」との評価を下されることだってありうるのです。
ばかばかしい話のようですが、ハイクラスなポジションの採用現場で、案外このようなボタンの掛け違えによる齟齬が起きることがあります。ですから、軽々しく「マネジメント」という単語を使わず、しっかりと採用側の要求要件に合った形で使用していただきたいと思います。
【Point.7】少ないチャンスを、少ない情報で判断する
採用側に絶対的なアドバンテージがある現在のような買い手市場では、候補者には「トレードオフ力」「リスクテイク力」「決断力」がより強く求められます。
35歳までなら、約3ヵ月間の転職活動でいくつかのオファーを手にし、現職とも比較しつつ、その中から最も良いものを選ぶという進め方もできるでしょう。しかし、35歳以降では、そのようなやり方は簡単ではありません。35歳以降の方が狙うであろうマネージャー以上の求人は、もともと数が絞られているうえ公募がされず、不定期にポジションがオープンになります。それらの求人案件をキャッチし、複数のオファーを同時に手にすることの困難さは、想像に難くないでしょう。ですから、ひとつひとつの案件について、限られた情報の中で判断していくしかなくなります。
そんな状況下でより良い判断をするには、日頃から自分自身の価値観(キャリア、人生について)、優先事項等を洗い出し、整理しておかねばなりません。色々とテーブルに並べて比較した後で選択することができない。ときには何かをギブアップしてもチャンスを掴みにいく判断をしなければならない…だからこその「トレードオフ力」「リスクテイク力」「決断力」なのです。
【Point.8】40代と、50代の違い
キャリア形成上の、40代と50代の違いは何だと思われますか? それは「リスクをとってでも勝負に出ていいか?」という点だと私は考えています。40代なら、年収を大きく下げてでもベンチャー企業にマネジメントとして参画する、撤退の危険はあるが外資系の日本支社の立ち上げに携わる、といったチャレンジをしてもいいかもしれません。もちろん個々人の事情にもよりますが、50代の方には、私はそのようなチャレンジをお勧めしません。
なぜなら40代は、例えそのチャレンジが失敗に終わったとしても、リターンマッチの機会があるからです。50代では、その機会は著しく減ってしまうでしょう。
何度も繰り返し申し上げていることですが、やはりご自身の年齢(人生の時間軸)を意識し、キャリアの選択は行うべきものだと思います。
加速度的に悪化してゆく雇用情勢に矢も盾もたまらず、「何とかしなければ」との思いに突き動かされて筆をとってきました。本来、キャリアコンサルティングとは、ご相談者とコンサルタントが膝を突き合わせて対話し、個別の事情・状況をお互い認知しあった上でこそ、有用なものになります。
その意味では、このようなコラムでキャリア開発について述べ、どれだけ読者の方々に価値ある情報をご提示できたか自信がありませんが、私のこれまでのコンサルタント人生で得たもの(多くの方との対面相談から得たもの)のエッセンスを、できるだけお伝えしたつもりです。少しでも、何かひとつでも、キャリアについて考えるヒントになるものがあれば幸いです。
まだしばらくは、日本の転職市場には厳しい風が吹き続けることでしょう。でもだからこそ、この状況を乗り越えられた後に、皆さんが得られるものも大きいのではないかと私は信じています。
不確実性が高まりゆく時代にあって、キャリアコンサルタントという職にある自分の責任の重さを再認識するとともに、「微力ながら、ひとりでも多くの方のCareer Developmentをお手伝いしたい」との思いを益々強くしています。
※次回からは、通常どおり、皆様からのご質問にお答えするかたちで「展職相談室」を再開させていただきます。
コンサルタント
インタビュアー/担当キャリアコンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)