転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第58回
2009.02.12

~特別版/不確実性が高まる時代のキャリア開発(3)~

“経済状況や企業動向など、予想もしない変化が起こるこの時代に
自分のキャリアをどのように考え、選択していけばよいのか?”
そんなご相談をお受けすることが多くなりました。

今回の特別版は、それらの疑問・質問・お悩みに対し、
少しでもヒントにしていただければと企画したものです。
全4回の連載形式で、お届けします。

不確実性が高まる時代のキャリア開発(1)~冷え込む転職市場と”意外な求人”
不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~戦略的キャリアデザイン・七つの提案
不確実性が高まる時代のキャリア開発(3)~35歳までのキャリア形成のポイント
不確実性が高まる時代のキャリア開発(4)~35歳以降のキャリア形成のポイント

Answer

35歳までのキャリア形成のポイント

前稿では、戦略的なキャリアデザインを行うために必要な基本的な事柄、私からの提案をいくつか述べさせていただきました。今回は、35歳以下の方に向けて、キャリア形成のポイントや転職にあたって注意いただきたいことを、もう少し具体的にお伝えしようと思います。(ちなみに、35歳以降のポイント等については、次回にお話しするつもりです。)

【Point.1】気やすく、転職をしない

35歳前の方々に、いちばんにお伝えしたいのは「安易に転職をしない」こと。転職が身近になり、当たり前のような世の中になったからといって、きちんとした目標や目論見もなく転職をしてしまうことは、キャリアにとってマイナスでしかありません。実際、転職を試みたとしても「何を本気でやりたいのか?」を求人企業に伝えられなければ採用には至りません。単に合格したいがための志望動機書では、相手の心に響くことはありませんし、企業・個人の双方がハッピーになれる出会いは生まれないでしょう。

もし「何を本気でやりたいのか?」が言えない状態なら、早まって転職はしないことです。若いときだからこそ35歳以降のこと考え、時間を大切に、有効に使わねばなりません。なかなか見つけられなかったとしても「自分はいったい何を本気でやりたいのか?」と考え続けることが、まずは重要であると思います。

【Point.2】28歳までに自己の特性を知り、35歳までに実績と自信を

できれば28歳頃までに、ご自分の特性を自己認識し、何らかひとつでも明解なスキルを獲得しておければベストです。その下地があれば、その先のキャリア形成がぐっと楽になると思います。そして、32歳頃までなら、新たなスキル・知識・経験・見識等を得るために、場合によっては業界や職種を変え、キャリアチェンジを行うのも選択のひとつです。

(32歳以上で業界と職種の両方を変えるとなると、それなりのリスクが伴います。「事業会社で営業職をしていましたが、MBAを取りました。戦略コンサルタントになりたいと希望しています」という方がいらっしゃいますが、この場合は業界・職種の2つを変えることとなります。ご自分が32歳以上なら、相応の困難さとリスクが伴うチャレンジになることを、ぜひ認識してください。)

35歳ともなると、求人企業から「あなたは他のスタッフではできない”何が”できるのか?」「”何をして”企業価値を上げてくれるのか?」との問いを突きつけられることになります。(40歳になってまだ「キャリアアップをしたい」などと決して言わないように。)ですから35歳頃までにはしっかりとした実績を作り、同時に自分に自信を持てるようにしておかなければなりません。また、その実績を他者にも分かりやすい形で表現できるよう、ご自分の中で整理しておくことをお勧めします。

その実績と自信のふたつを持てていれば、35歳以降、キャリア形成や転職についてコントローラビリティを非常に持つことができます。

【Point.3】「投資対象となるのは35歳まで」と知る

会社の研修、ジョブローテーション、ポテンシャル採用……他者が投資をしてくれる(様々な機会を与えてくれる)のは、35歳頃までです。自分が自分に投資して価値がある=その後の十分なリターンが期待できるのも、やはり35歳までのように思います。

よく「ビジネススクールへ留学したいのだが、キャリアにプラスになるか?」というご質問をいただきます。もちろん個別事情によって回答は違いますが、基本的に留学終了予定時のご年齢が35歳までであるなら、お勧めをしています。極端ではありますが、こんな場合を考えてみてください。60歳になってHarvardでPhDを取得した方がいたとして、あと何年、ご自分のキャリアのためにそれを使うことができるでしょうか? 学ぶという行為そのものの価値や見識は得られるかもしれませんが”職業人”としての自分に役立てられる時間は、かなり少ないといえます。

ですから、なるべく早くキャリアの設計図について考え始め、それに沿った投資を35歳までにする、という視点を持っていただきたいと思います。

【Point.4】マルチプルな人材たれ!

スペシャリストがいいのか、ゼネラリストがいいのか、という議論があります。転職を視野に入れたキャリア形成を考えるなら、私の答えは「両方ともノー」です。スペシャリスト人材であることそのものは素晴らしいと思いますが、転職を考えた場合、先々の選択肢は著しく狭まり、また今日のような厳しい状況下では、益々チャンスが限られてしまいます。

ゼネラリスト人材は、営業から人事あるいは財務までと、いっけん広範囲なスキル・知識・経験を持っていてキャリア選択が広がるように感じますが、どの分野についても他者に示せる実績が漠然となりがちです。(ある求人企業から「使いどころがない」など辛辣なコメントを伺ったこともありました。)

私がお勧めしたいのは「マルチプルな人材」。しっかりとしたコアを持ち、そこからたくさんの突起物が出ている金平糖のようなイメージです。法人営業での実績があり(コア)、英語が得意(突起1)で海外営業の経験(突起2)があり、営業企画・管理の業務(突起3)を経て事業企画を手がけている(突起4)。戦略コンサルタントとして実績を重ねてきたが(コア)、プロジェクトは様々な業種(突起α)について行ったことがある、など。

つまり、相互に脈絡のある強み=フックを多く持っていただくことが、ご自身のマーケットバリューに繋がると考えています。そしてそのフックは、ビジネス上の事柄はもちろん、プライベートな事柄の中からも作れる可能性があり、それらがリスクの読めない時代にあって、案外”身の助け”になったりする気がしています。

【Point.5】あれこれ経験することが、重要ではない

とはいえ誤解しないでいただきたいのですが、あれもこれもとフックになりうるような経験することが大切だ、と言っているのではありません。特にマネジメント人材を目指されている場合、それは大きな間違いです。日本では「色々と経験していけば、いつか経営人材になれるだろう」「何の領域かは決めていないが、色々と経験して、いつかボードメンバーに入れたら」という考え・希望をお持ちの方が少なくないように思います。しかし現実には、そんなことは決して起こりません。

日系・外資系・ベンチャー、あるいは大手・創業・再生など、企業の資本系や規模やフェーズによって、必要とされる経営人材の要件は異なります。会社ごとに違うと言ってもいいのかもしれません。CEO、CFO、COO、CMO、CIO…これらに求められるものが異なるのは、自明の理です。どこにでも当てはまる経営人材など存在しないのです。

ですから、設計図もロードマップも何もないまま漠然と走るのではなく、20代・30代といったできるだけ早い段階でそれらを設定し、キャリアを創っていただきたいと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)