転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第56回
2009.01.15

~特別版/不確実性が高まる時代のキャリア開発(1)~

“経済状況や企業動向など、予想もしない変化が起こるこの時代に
自分のキャリアをどのように考え、選択していけばよいのか?”
そんなご相談をお受けすることが多くなりました。

今回の特別版は、それらの疑問・質問・お悩みに対し、
少しでもヒントにしていただければと企画したものです。
全4回の連載形式で、お届けします。

不確実性が高まる時代のキャリア開発(1)~冷え込む転職市場と”意外な求人”
不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~戦略的キャリアデザイン・七つの提案
不確実性が高まる時代のキャリア開発(3)~35歳までのキャリア形成のポイント
不確実性が高まる時代のキャリア開発(4)~35歳以降のキャリア形成のポイント

Answer

冷え込む転職市場と”意外な求人”

連載の第一回目にあたり、まずは皆さんに現在の転職市場の状況をお伝えし、ご理解いただきたいと思います。

2007年に端を発した米国のサブプライム問題は、金融業界の求人に大きな転換を引き起こしました。日本では一年ほど遅れて、2008年の4月頃から金融関連の求人が減りはじめ、そして秋には状況がさらに悪化。産業全体としても求人数が激減しています。

具体的には、金融業界では求人数が以前の20%程度にまで減り(※)、同時に候補者/転職希望者が約20倍に増加しています。外資系・日系・大手・中小を問わず様々な金融出身の人材がマーケット・インしており、候補者間の競争は過去に例がなかった程の厳しさ。「金融業界でのキャリア」といった選択そのものを考え直さねばならない局面にまできたかの印象です。

また、コンサルティング業界を見てみると、米国では既にダウンサイジングの動きが始まりました。金融業界が冷え込んだ後、コンサルティング業界も同様に冷えていくという図式は過去にもあり(1998年・2002年)、今後は日本でも人員削減・規模縮小が予想されます。加えて、金融業界を離れようという人材がコンサルティング業界に流れ、応募が殺到。候補者のボトムアップが起こり、選考のハードルが高くなっています。昨年であれば順当に面談に進めたはずの人材が、今は書類選考で落とされてしまう…そんな事態が見受けられます。

売り上げの下方修正や投資縮小が相次いでいる製造業、サービス業でも採用の凍結が聞かれます。ただ、一部Webポータルサービス等の分野では、緊縮ながらも積極的に人材を確保しようという動きがあります。

上場企業は会社間で採用意欲の格差が大きく、ベンチャー企業は軒並み資金調達が難しくなっている影響で、求人もはかばかしくありません。ベンチャーに関しては、個人の側も「創業しよう」という人は一定数いるものの「飛び込もう」という志望者は激減しているようですが……。

以上のように書き連ねてくると、厳しい状況ばかりで暗澹たる気持ちになりますが、全体の冷え込みの中にあって”意外な求人”というものが存在します。この点をぜひ皆さんに知っておいていただきたいと思います。

金融関連の求人が以前の20%になってしまったと述べましたが、これから日本には欧州系のIBが上陸してきます。縮小一辺倒に思える同業界の中で、逆の戦略を掲げる企業も出てくるはずで、要求要件は非常に高くなることが予想されるものの、良いキャリア・オポチュニティもきっとあるでしょう。

つぎに、「採用凍結」の情報ばかりが目立つ外資系企業ですが、年末の求人のストップやダウンサイジングの情報に関しては、過度に反応しすぎないことが大切です。外資系企業では、年度が変わるこの時期には、例え景気が良かったとしても「一時凍結」のような動きが見られることが多々あります。もし、面談が進んでいる企業があり年末に縮小等のネガティブなニュースを耳にされたとしても、その情報だけを材料に「この会社はもうダメだ」などと判断されないよう注意してください。

また、規模縮小とみえる外資系企業でも、その裏側に個人にとって大変バリューの高い重要求人が隠れていることがあります。こんなケースが実際にありました。ある外資系事業会社の事業部長の求人があり、オファーを手にされた方がおられたのですが、オファー後に上司となる日本支社長との会食がセッティングされて出向いたところ「じつは近々、私は退任する。その後任として、事業部長ではなく支社長をお願いしたい」との言葉。表向きは部長の求人でしたが、内実はマネジメント(経営陣)を探されていたのです。

このように、市況・業績が厳しい中でも敢えて人材を求めている場合には、企業にとっての戦略的重要ポジションを想定していることがあります。個人にとっては大いなるキャリア・ディベロップメントの機会になります。この貴重なチャンスを掴むには、やはり実際に企業側と会い、自分の目や耳や足やハートなどすべてを使ってその意図を感じ取っていくしかありません。その行動力と情報収集力と判断力を発揮できた方が、この逆境の転職市場の中で道を切り開けるといえます。

それから、別の”意外な求人”についてもお伝えしたいと思います。それは、再生やM&A等に関わる領域での求人です。空前のPEブームは2007年に峠を越え、2008年には一気に冷めてしまった感がありますが、企業再生・事業再生の必要性やそれに伴うM&A自体は世の大局として増える傾向にあります。そして、そのような領域での求人自体も減ってはいません。ファンドやマネジメント(経営者)次第ではありますが、好調な企業/ファームが存在し、この機会に優秀な人材を確保したいという強いニーズを感じるのも正直な印象です。

ただし、一点だけご注意を。再生の現場はまさに修羅場で、ある種、ベンチャーへ飛び込むことよりも厳しい現実が待っています。安易な興味等で選択すべきものではありません。「本当にこの仕事をやり遂げる」「それが自分のキャリアの目標だ」という確固たる意思を持てている方だけに、お勧めしたい選択肢ではあります。常々申し上げていることの繰り返しになりますが、やはり、厳しい状況下だからこそ長期的な視点や展望がますます大事で、それに基づいてこそ、後悔のない判断ができるのだと思います。

次回は、「戦略的キャリアデザイン」に関する私からのいくつかの提案について、お伝えしたいと思います。


(※)アクシアムで受託したポジションについて、2008年3月時点と2008年12月時点を比較した数値です。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)