イベントキャリアフォーラム

次世代マネジメント・リーダーシップ論2005.11.21

次世代マネジメント・リーダーシップ論2005年11月5日(土)、東京・六本木ヒルズにて、新展地キャリアフォーラムを開催いたしました。

多くの方々にご参加をいただき、誠にありがとうございました。

今回のフォーラムのテーマは、『次世代マネジメント・リーダーシップ論』。パネリストとして世界的企業グループのマネジメントとして活躍されている日本ゼネラル・エレクトリック株式会社・代表取締役社長兼CEOの伊藤伸彦氏、ロンドン大学・インシアードといった欧州を代表するビジネススクールで教鞭を取られ、現在は独自の経営教育プログラムの提供等を行うNPO法人・ISLの代表理事である野田智義氏をお招きし、アクシアム代表の渡邊光章がコーディネーターを務めました。


500名ものビジネスパーソンが六本木に集結

いま日本で最も注目を集めるビジネス&カルチャースポット、六本木ヒルズ。その中心でひときわ存在感を放つ森タワーの40階「アカデミーヒルズ40」が今回のフォーラムの舞台です。

これ以上ない秋晴れの空の下、続々とつめかける人の群れ、群れ。開会の30分以上前から、熱心な参加者の方々が足を運んでくださいました。

この日、会場に集まったのは、なんと500名にのぼるビジネスパーソン。事前にパネリストへの質問としていただいたご意見は400件を超えました。「次の時代を担うマネジメントに必要な資質とは?」「リーダーシップって、具体的にはどんなもの?」など、今回のテーマへ皆さん高い関心と問題意識を持たれており、静かながらも熱気に包まれた幕開けとなりました。

Program1. オープニングスピーチ

まず最初に、アクシアム代表取締役社長の渡邊光章がご挨拶。今回のフォーラムの開催意図について簡単に述べました。

「当初の予想をはるかに上回る数のお申し込み、ご参加をいただき、ありがとうございます。現在そして未来の日本を担っていこう、変えていこうという意気込みを持ち、マネジメントやリーダーシップに興味のある方がこんなにたくさんいらっしゃることが分かって、本当にうれしく思っています。本日はパネリストのお二人に、カジュアルかつ主観的に、ぜひ本音で語っていただきます」

ここで、どのような方々にご来場いただいているかを知るため、渡邊から「20代の方は拍手をお願いします」などと会場へ質問。年代としては20代、30代の方がほぼ同数で最も多く、また、「マネジメントを目指している方は?」「起業を目標にされている方は?」との問いに対する反応も多かったのが印象的でした。

Program2. パネルディスカッション

次世代マネジメント・リーダーシップ論つぎに、メインイベントであるパネルディスカッションへ。日本ゼネラル・エレクトリック株式会社の伊藤伸彦社長、NPO法人・ISLの野田智義代表にご登場いただき、お二人の自己紹介からスタートしました。

「じつは、伊藤さんと野田さんのご経歴には、いくつか共通点がおありになりますね。大学を卒業された後、まず企業へお勤めになったこと。それから海外のビジネススクールへ留学されたこと。そして人生の転機(会社を変える、仕事を変える)をむかえられたことなどです」と渡邊。お二人それぞれ、留学のいきさつやキャリアを変えられたきっかけ、当時の目標や展望に触れながら自己紹介をしてくださいました。

今回のディスカッションは、以下の5つのポイントに沿って進められました。

  1. マネジメント(経営者)に求められるものは何か?
  2. リーダーシップとは何か?
  3. 現在の組織は、次世代のマネジメントやリーダーを生み出せるか?
  4. 日本と欧米におけるマネジメント育成の方法論の違いとは?
  5. マネジメント/リーダーを目指す人材が、20代・30代でやっておくべきこととは?

各項目の中で、伊藤社長からは実際のマネジメント現場でのエピソード、実感として持っていらっしゃるご意見、実践者だからこその言葉などが出されました。一方、野田代表からは、言葉の整理・定義にはじまり、多くの企業の人材育成を研究された観点から、マネジメント/リーダーシップ論を伺うことができました。

このようなお二人の持論の違い、共通点、コントラストが興味深かったという方も多いのではないでしょうか?

1.マネジメント(経営者)に求められるものは何か?

渡邊:本日は、お二人にできるだけパーソナルに、本音でお答えいただきたいと思います。マネジメント/リーダーシップについて語るにあたり、5つの切り口を挙げてみました。これらを足がかりに議論を深めていきたいと考えています。では、早速ですが野田さん。マネジメントに求められるものは、何だとお考えですか?

野田:最初から、すごく難しい問題ですね。そもそも「マネジメント」と「リーダー」を分ける必要があるのか、という議論もできると思いますが、本日はテクニカルに「マネジメント」と「リーダー」を分けましょう。じつは今の時代は、“マネジメント(能力)とリーダーシップの両方を持つ人間が経営者として求められている”というのが正確だと思います。社長はどこでも「マネジメント」であるわけですから“社長に求められるものとは何か”と考えるのではなく、“今の時代に求められる社長とはどんな人物なのか”と考えるべきだということです。だとすると、社長=経営者には「マネジメント(能力)」と「リーダーシップ」の両方が必要であると結論付けられると思います。
では、さらに「マネジメント(能力)」って何ですかと問われれば、いくつか要素があると思います。私が属していたハーバードビジネススクール的に言えば、ジェネラル・マネジメント、つまり「全体の活動をちゃんと見通せる人=木を見ずに森を見られる人」という項目がまず出てくると思います。当たり前のことのようですが、日本企業の多くが、この条件を満たす人間を「マネジメント」に置いていないのではないでしょうか。「マネジメント」とは、バリューチェーンの全てのサイクルを分かる人でなければならないはずです。しかし、これが意外に忘れられています。
二番目は、「コミュニケーション能力」だと思います。人に伝え、人を説得し、人の話を聞く。その中で、物事を生み出していく。これがすべての力の源だな、と感じています。
三番目は、じつはこれが今の日本企業をダメにしている原因だと思うのですが、「目的と手段をはきちがえないこと」です。組織が自己目的化する、またはプロジェクトが本来の目的を忘れて目的化するなど。
四番目は、「自分に厳しいこと」だと思います。つまり「Discipline(自己規律)があること」。人は嫌われたくないものですから、あいまいに周囲に優しくし接しがちです。しかし、それで事業を立ち行かなくしてしまったり、部下を成長させられなければ、本来の意味で人に優しいとはいえません。「Discipline(自己規律)」をもって自分に厳しくし、さらに必要とあらば人に厳しくもできることが重要だと考えます。
最後は、「自分に厳しいこと」のくだりでも触れましたが、「人を育てられること」です。経営者の最大のミッションは、人材育成です。“人に優しく”といって社員を甘やかして育てず、経営が行き詰ったときになって、他の場所では通用しない人材を外へ追い出してしまった…という現象がかつての日本企業と組織に見られたのはご承知の通りです。

渡邊:ありがとうございます。野田さんからは5つの必要条件をいただきましたが、伊藤さんはどうお考えですか?

伊藤:この問いに答える前に、企業の目的あるいは存在価値って何ですか?という前提を確認しておかないと、答えが随分違ってくると思います。欧米では、企業の存在価値とは株主の利益の最大化、企業価値の最大化です。この前提で了承いただけるのであれば、経営とはその目的に向けて「Decision Making」をしていくこと、つまり「やるか、やらないかの判断」に尽きると考えます。これは今日やる、これは明日でもよい、これは来年でもよいなど。五年後、十年後、経済環境が変化して求められる経営者像は当然変わると思います。しかし、その時も間違いなく「やることと、やらないことの峻別」が経営の本質であることは、変わらないでしょう。
最終的に経営者に課せられた使命は、その企業の成長を持続させること。そして当然、野田さんもおっしゃられたとおり成長の手段は「人」に行き着きます。日々自分を成長させ、磨き、部下がついてくるような人間としての役割を果たす。そしてさらに、後継者を育てていく。これらが経営者に求められているものだと思いますね。

2.リーダーシップとは何か?

渡邊:では、リーダーシップとは何でしょうか?リーダーシップについて講演されることも多い野田さん、いかがですか?

野田:「リーダー」って何をする人ですか、と考えていただければ分かりやすいと思います。僕が考える「リーダー」とは、変革と創造をつくる人です。ちなみに「マネジメント」とは、現状を発展させる人と定義できます。つまり、変革と創造をリードする=リーダーであり、現状をマネージする=マネジメントです。じつは、この定義は過去有効だったのですが、現在求められている「マネジメント」がこの現状発展型に収まらないので、「リーダーシップ」と混同されがちなのでしょう。
変革と創造は、起こってしまうまで目に見えないですし、起こるとはまず思えない種類のものです。そして一旦起こってしまえば、それがさも当たり前に感じられるという特性があります。例えばソビエト連邦の崩壊しかり、日産のゴーン氏の改革しかり。ですから「リーダー」とは、見えないものを見ようとして、自らリスクをとって実現しようとする人であるといえるのです。
よく「リーダー」というと、人を束ねてある方向へ導くというイメージがありませんか?僕はそうではないと思います。「リーダーシップ」とは、見えないものを一緒に見ようと言い、周りを説得していく力。つまり、周囲の共感を得て、自発的についてくるフォロアーを生む力だと考えます。こう考えてくると、「リーダーシップ」は私たちの非常に身近に存在し、どのレベルでも発揮できるものであるといえます。

渡邊:「リーダーシップ」がそういうものだとすると、「リーダー」とは、なろうと思ってなるものではないということですか?また、誰でもなれるものとお考えですか?誰でも持てるものだとは分かったのですが。

野田:僕は、「リーダー」になろうと思ってなった人をほとんど知りません。やりたいことをやり遂げた結果として、人が彼を「リーダー」と呼ぶのであって、「リーダー」とは目的ではないと考えるからです。そこで、誰もが(結果としてにしろ)「リーダー」になれるかというと、運・能力など様々な要素が絡んできますから、全員がなれるのではないという答えに行き着きますね。ただ、誰にでもポテンシャルはあると思います。

次世代マネジメント・リーダーシップ論伊藤:僕自身は、誰もが「リーダー」になれると思っています。何かの会の幹事でもいいし、何か場や物事を仕切るような経験をたくさん積んでいけば、おのずから「リーダー」になる力が身につくと思っています。
一方で、「リーダーシップ」って何?と問われれば、“あの人が言うならやってみよう”“あの人のいる組織で働いてみたい”などと周囲に言われる様々な要素が、「リーダーシップ」を構成するのだと思います。さらにひと言で表現するなら、「リーダーシップ」とは「Make a Difference(違いを創る)」ことです。ある部署の責任者が代わったとき、後任者が前任者と同じ仕事をしていたら成長は生まれません。新しい手法を実行し、違いを創るからこそ部下がついてくるのではないでしょうか。これが三十年以上、企業人として生きてきた私が考える「リーダーシップ」です。
また、「リーダー」になりうる人材は鍛えて作ることができると考えています。その際、座学のトレーニングもあるでしょうが、知識だけでは企業・組織・社会は動きません。一番大事なのは経験です。世の中に溢れる情報から知識を取り込み、知識に経験を加えて知恵を作っていくことが求められます。ただおそらく、今後のリーダーには、さらに知恵だけでは足りなくなり、感性も必要になるでしょう。どうやって、従業員あるいはお客様の気持ちを取り込んでいくか。おそらくその点がこれからの「リーダーシップ」の課題でしょう。もっと言えば、感性だけでもダメだといわれる時代が来るはずです。そのあたりのことは野田さんのチームが研究してくださるでしょうから、我々GEは、他の企業より半歩早くその新しい研究成果を取り入れ、競争優位を確保したいものですね(笑)。

3.現在の組織は、次世代のマネジメントやリーダーを生み出せるか?

渡邊:ありがとうございました。では、つぎのポイントへ参りたいと思います。従来日本では、コントロール重視の役割が「マネジメント」と呼ばれてきた側面が強いと感じています。しかし、これからの「マネジメント」に求められるものは、時代に合わせて企業価値を創っていくことではないでしょうか。そのような「マネジメント」あるいは「リーダー」を、現在の組織は育て、輩出していけるとお考えですか?特に伊藤さんには、人材輩出企業として知られるGEの人材育成法を含めてお話いただければと思います。

伊藤:では、GEがどのように次世代の「マネジメント」あるいは「リーダー」を育てようとしているか、どのようなシステムを持っているかについて、お話しようと思います。例えば先般、ジャック・ウェルチはジェフリー・イメルトを後継者に選びました。その際、彼は膨大な時間と労力を費やしています。なぜでしょうか?その理由は、常に企業として成長し続けていくためには、変化が絶え間なく起こる環境の中でGEの企業価値を最大化し、GEを高いレベルに引き上げられる人物を選びだすことを課せられているからです。
これから十~二十年後、イメルトもいつか後継者を選びます。そのときにも、膨大な時間と労力をかけてベストな判断が下されるでしょう。
私は毎年春に直属の部下、人事部門の責任者とともに従業員のパフォーマンスについて話し合ったり、GEバリューの実践度を測ったりする場を持ちます。高い実績のあった方にはつぎの機会を与え、低い実績しか残せなかった方には、別の活躍の仕方を考えていただくわけです。また、私の後継者として、即役割を引き継げるのは誰かということも考えます。毎年、毎年です。GEの各所でも同じ作業が行われています。このような作業が、愚直なまでに繰り返し行われていることが、GEの面白い所でありタフな部分であると思います。ただ、労働力の流動性が極めて低い現状の日本社会においては、以上のようなGE式のやり方が必ずベストであるとは思いませんが。

渡邊:ありがとうございます。では、野田さん。世界の様々な企業・組織を知ってらっしゃる観点から、どのようなご意見をお持ちですか?

次世代マネジメント・リーダーシップ論野田:次世代の「マネジメント」や「リーダー」を生み出せるか……答えはYesです。ただ、現実には生み出せる企業と生み出せない企業が存在しています。伊藤さんのお話を伺っていて感じたのですが、私たちは、企業によって人の育つスピードに違いがあることを、ともすると忘れがちではないでしょうか。GEに入ると、どうやって、どのような速さで人が育っているのか外からは分からないからです。GEはじめ人材輩出企業といわれたIBM、一時期のソニー、リクルートなどは日本でも明確に人を育ててきましたよね。仕事の与えられ方、指示の出され方、権限の範囲をはじめとする機会の与えられ方が、きっと他社とは違うのでしょう。
では、どんな組織なら「マネジメント」や「リーダー」になる人材を生み出せるのでしょうか?僕は、何か決められたトレーニングメニューのようなものでは、人はなかなか育たないと思っています。やはり機会を与えられ、責任をもたされることが一番ではないかと。これは、かなり荒っぽい育てられ方かもしれません。ですが厳しい環境であがき、早く成長することが人材の輩出につながるのでしょう。
余談になりますが、個人的にリクルートという企業は、もっともっと研究されるべきだと考えています。リクルートの強みは、組織と個人の関係が逆であることです。組織のために個人を育てようとすると、じつは個人は育ちません。逆に、組織を面白いおもちゃ箱だと捉えて、何でもやりたいことをやってみろ!自ら機会を作り出してみろ!といって自由に活動させてみる。個々人が組織(会社)内で自分のための小さな組織を作り、何かを生み出し、結果として元の大きな組織(会社)が強くなる……これがリクルートのパラダイムだと思います。つまり、自ら機会を作り出し、機会と共に成長するというサイクルが働いているのです。
このような意味で、これからの組織が人を育てられるとすれば、“組織のために個人を育てようとすると、じつは個人は育たない”というパラドックスを理解している経営者がトップに立つことが条件だと思います。

4.日本と欧米におけるマネジメント育成の方法論の違いとは?

渡邊:では、つぎの「日本と欧米における育成方法の違い」についてお伺いしたいと思います。先程のお話の中で、既に一部伊藤さんからはご解答をいただいた感もありますね。伊藤さん、さらに欧米での人材育成の特徴などあれば教えていただけますか? 野田さんには、ビジネススクールという人材教育の現場から感じておられることについてお話いただければと思います。

次世代マネジメント・リーダーシップ論伊藤:日本の企業の方が、時間をかけてから人材を峻別していると感じます。一方、欧米企業、ことGEの場合には入社一年目から差がつきます。金銭面でも、つぎに与えられる仕事においても。こうして常に差をつけていくことは、我々GEの非常にタフな一面といえるでしょう。
欧米企業において、ある人間を上のポジションに引き上げたい場合には、一旦別の組織へ行かせ、本当に素晴らしい能力が発揮されるのかテストする手法がよく取られます。その結果、元の上下関係が逆転してしまうこともあるほどです。このようなやり方は、アメリカの社会においては間違いなく優れていると信じています。ただ、現在の日本の環境下では、まだ時期尚早な部分があるとも感じていますね。

野田:僕はいくつかの欧州企業の人材育成についてお手伝いしたことはありますが、専門分野ではありませんのでビジネススクールの観点で、人材育成・教育についてお話しようと思います。
日本人は、どちらかといえばビジネススクールの教育を学位=スタンプ機能として捉えています。一方、欧米では約半数の人がアントレプレナー(起業家)を目指して入学してきます。起業のためのアイデアを練り、ネットワークを作る場所だと割り切って入ってくる方が結構いらっしゃるのです。
つまり、明確にどういうことをするために来る場所であるかを考えて参加している人間と、単にモラトリアムの延長としてビジネススクール(MBA取得)に行ってみようと考える人間の違いが明確にあるなぁと感じています。前者のように目的がはっきりしている人には、こんなに素晴らしい学びの場・成長の場はないと思いますが、後者のような意識の方には、本当につまらない場所になってしまうといえます。

渡邊:ありがとうございます。少しお話がそれるかもしれませんが、本日の参加者の中には、海外のビジネススクールへの留学を考えていらっしゃる方もおられると思います。その方たちへ、何かアドバイスなどありますでしょうか?

野田:そうですね……迷っていらっしゃるんであれば、留学してしまった方がいいと思います。いま悩んで思い留まったとしても、きっと三年後も五年後も「行くべきだったろうか…」と迷い続けられるでしょうから。それならば時間を節約し、さっさと行ってさっさと帰ってくる(笑)。そして「ビジネススクールなんて所詮こんな所だった」と言ってしまった方がいいと思います。あとは、どうせ行くなら良い(ランキング上位の)スクールに行かれた方がいいと思います。それも、できれば一年制に。通常の二年は若干長い気がしています。
ビジネススクールに行けば、何か魔法のような力で「マネジメント」になれるとか起業できるとかいうことはありません。ただ、「Discipline(自己規律)」をもって自分を成長させたいという人が世界中から集まってきますから、そのような人々の中である一定の時間を過ごし、価値観を形成することは、何物にも変えがたい経験になることは間違いありません。

渡邊:伊藤さんもMBAホルダーでらっしゃいますが、何かご意見はありますか?

伊藤:野田さんのおっしゃるとおりですが、ビジネススクールで学べるテクニックも確かにあると思います。理系のバックグラウンドの方であれば、ぜひファイナンスを学んでほしいですし、文系のバックグラウンドの方であれば統計学の基礎ぐらいは理解できるようになってほしいですね。あとは、留学されたらぜひ同じクラスの欧米人、アジア人の仲間と人的ネットワークを築き、彼らとの価値観の共通点あるいは相違点をお知りになるといいのではないでしょうか。きっと実際のビジネスの場でも活かせることと思います。

5.マネジメント/リーダーを目指す人材が、20代・30代でやっておくべきこととは?

渡邊:じつは、事前に参加者の方からいただいたご質問の中で、この最後のポイントに関わるものが最も多かったんです。20代・30代でやっておくべきことを知りたい、という方がいかに大勢いらっしゃるかがわかりますね。そんな参加者の方々へ、メッセージあるいはアドバイスをお願いいたします。

野田:僕自身、20代・30代のときに明確なビジョンを持っていたわけではありません。自分が何をしたい人間なのか、考え続けてあがいていたような気がします。ですから「ビジョンを持て」などと偉そうなことは言えないのですが…僕が一番大切だと感じているのは、“自分の人生の中でその時々にしかできないこと、しかも自分だからできることを見つけ、成果を出しておく”ことではないかと思います。
いわゆる日本的組織、企業に漫然といては、じつはこのような行動は難しいかもしれません。皆さんちょっと振り返ってみてください。この四、五年で「自分がいたからできた」と思えるものが仕事上でありますか?もしないなら、本当の意味で皆さんは成長していない、さらには未来に向かってきちんと何かを積み上げられていないといえると思います。
もう一点、僕は“適度な”自己中心主義がいいと考えています。“適度な”と断りをつけたのは、つまり、自分がやりたいと思ったことをやり遂げるという意味では自己中心的でいいのですが、「あいつって自分のことばかりだよね」と周囲にレッテルを貼られてしまうと、どんどん自分の信用力が低下して身動きが取れなくなってしまうからです。だから、“適度な”自己中心主義がいいと考えています。

伊藤:日本の社会あるいはビジネスは、これから間違いなくどんどんグローバル化が進みます。その意味では、今からでも遅くないので英語力を磨くことをおすすめします。
それから、自分に与えられた仕事に絶対に手を抜かないでください。手を抜かずにいい仕事をしても、誰にも褒められないかもしれません。しかし、もし手を抜いたらそれは必ずきちんと見抜かれます。私には「他の人が80点あるいは90点を目指すなら、おまえは常に100点を目指して仕事しろ」と諭してくれた先輩が何人もいました。その教えを実行してきたことが、今につながっているのかな、と感じています。
最後に、あなたの上司に何らかの提案をしなければならない場合へのアドバイスです。ご自分の視点からだけでなく、あなたの上司ならどんな見方をするだろう?そんな視点で提案をまとめられると、一年ごとにあなたの能力、評価が上がっていかれると思います。

渡邊:ありがとうございました。

Program3. 参加者とのトークセッション(質疑応答)

当初、参加者の方を交えてのトークセッションを予定しておりましたが、予想よりはるかに多くの皆さんにご参加をいただいたこと、お申し込み時点で400件以上の質問をいただいたことから、事前にいくつか選んだものについて、パネリストの方にお答えいただく形をとりました。

Q.今までのキャリアの中で、もっともチャレンジングだったことは?

次世代マネジメント・リーダーシップ論A.(野田代表) 人と組織について長年研究してきましたが、実際にマネジメントした経験はなく、現在NPOを立ち上げてみて苦労の連続です。その意味で、今がまさにチャレンジのとき。人を動かそうと思ったら、自分が変わらなければならない、そうしないと動いてくれないと実感しています。自己変革がすべてであり、その壁を乗り越えられるかが勝負ですね。

A.(伊藤社長) ビジネスでは、毎年チャレンジングなことばかりですが、ひとつ挙げるとすると3年前のことが思い出されます。GE横河メディカルシステムからGEエジソン生命保険に移り、その半年後に売却の指揮を取れ、といわれたときです。やはり、さまざま難しいことや苦労がありました。

Q.ご自身のこれからの夢や展望は?

次世代マネジメント・リーダーシップ論A.(伊藤社長) 昔から、ずっと教育に携わりたいと思ってきました。学問は、本来とても楽しく、面白いものです。ですからいつか私塾を開き、子供たちが学問を好きになれるような教育を提供できればと考えています。

A.(野田代表) 現在、ハーバードの卒業生の20~30%は、実はビジネスの世界に進まずに「ソーシャルアントレプレナー」「ソーシャルエンタープライズ」「ソーシャルイノベーション」といわれる分野へ行きます。社会に役立つことってかっこいい、と考える人を応援したいと思いますし、今後、そのようなパラダイムが開けている気がしています。

フォーラムを終えて…

終了後、白熱の議論をみせてくれた三者に、今回のフォーラムの感想を伺いました。

GE・伊藤伸彦社長
「大いに楽しませていただきました。野田代表が言葉を整理してくださったこともあり、私としてはお話ししたいと考えてきたことのほとんどをお話しできたように思います」

ISL・野田智義代表
「今回のディスカッションに望むにあたり、聴いてくださる方の役に立つ話をしよう、と意識していました。どこまで参加者の皆さんの有益なアドバイスとなれたか……不安が残りますが、伊藤社長の“経営とは決めること”とのお話をはじめ、私自身は大いに学ばせていただいた時間でした」

アクシアム・渡邊光章
「伊藤社長の簡潔で強いメッセージの数々は、これから経営を目指そうという方を大いに鼓舞したでしょうし、野田代表のお話は、マネジメントやリーダーシップについて整理したい・考えたいと思う方々には、非常に参考になったと思います。とても2時間では聴講者の方のご期待に十分にはお答えできなかったのではないかと思いますが、参加者の皆さんが、お二人のお話しを最後の最後まで、真剣かつ熱心に真摯な姿勢で聞き入っておられたことが何よりも私には印象的でした。」


フォーラム終了後、参加者の皆さんにアンケートをお書きいただきました。
その中から、フォーラムの感想を一部ご紹介いたします。

  • マネジメント、リーダーシップの形成について、貴重な話が聞け大変良かった。 「リーダーシップとは?」について、これまで漠然と考えていたが、理解が深まった。(20代・男性)
  • 「GEの社長」と「NPOトップ」という2種類の視点(ビジネス、人格)の比較ができ、その相違点が非常に勉強となった。今後も様々な分野の人たちの話が聞きたい。(20代・男性)
  • 洗練された思考とその結果としての意見を聞けた。(50代・男性)
  • 今日、セミナーに参加して視野が広がりました。経営については、将来やってみたいと思っていました。今までは、時代に合わせての経営を考えていましたが、今日お話を聞いて、自分で時代を作り上げる経営という考え方も面白いと感じました。(20代・男性)
  • 尊敬すべきキャリアを持った方々の発言は、大変興味深かった。自分は典型的日本企業に属するが、その環境はどれ程恵まれたものなのか、さらに具体的なアドバイスを今後聞けるとうれしい。(30代・男性)
  • 自分の価値観と他の方のそれを比較してみなければ良し悪しは分からない。 自分を見直すいいチャンスをいただきました。(40代・男性)
  • GEの人事評価制度の一端がわかってよかった。日本と欧米の労働市場に相当の差があることが語られ、再認識した。(50代・男性)
  • 野田様の「自分だから出来る事を」という言葉に感銘を受けました。(20代・女性)
  • 今後、日本で成功する企業で修行したいと思いました。MBA論は参考になりました。 将来を見通せる人間になるために効果的な場所を知りたいです。(20代・女性)
  • 現在いる会社に対し、多くの不満があったが、それに対して答えをもらえた気がします。(20代・男性)
  • 日本企業でずっと働いてきたため、外資への憧れが強いが、伊藤社長のお話を通し、その厳しさも理解できた。再度自分の仕事のあり方を見直したい。(30代・女性)
  • 時間が足りないと感じるほど、興味深く聞かせていただいた。 これからのことをワクワク考えられるような気がします。(30代・女性)
  • 今回は概要的な内容でしたので、今後さらに深い内容が聞けるセミナーなどを開いていただけるとうれしいです。(30代・女性)
  • 非常に興味深い内容でよかったです。 ただ、具体的な策が述べられていなかった点が残念でした。(20代・女性)
  • パネルディスカッションを聞き、内容を踏まえた質疑応答がしたかったです。(30代・男性)

アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。いただいたご意見・ご感想は、今後のイベント運営に活用させていただきます。

アクシアム一同

講演者/パネリスト 略歴

日本ゼネラル・エレクトリック株式会社
代表取締役社長兼CEO 伊藤 伸彦(いとう のぶひこ)氏
1971年東京大学工学部燃料工学科卒業。エクソン化学ジャパン、および同アジアパシフィックにて8年間勤務。79年コーネル大学にてMBA取得。89年日本ゼネラル・エレクトリック(株)に入社。99年にはGE横河メディカルシステム(株)の代表取締役社長に就任。02年9月から03年12月まで、GEエジソン生命保険(株)代表取締役社長 兼CEO、04年1月からGEキャピタルリーシング(株)代表取締役社長 兼CEOを務める。05年2月より、現職である日本ゼネラル・エレクトリック(株)代表取締役社長 兼 CEOに就任。
NPO法人ISL(インスティテュート・オブ・ストラテジック・リーダーシップ)
代表理事 野田 智義(のだ ともよし)氏
1959年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行入行。マサチューセッツ工科大学スローンスクール(MIT)よりMBA、ハーバード大学より経営学博士号(経営政策)取得。ロンドン大学ビジネススクール国際経営担当助教授、インシアード経営大学院(フランス、シンガポール)戦略経営担当助教授を経て、現職。その他、スカンジナビア国際経営大学院(デンマーク)兼任教授。稲盛財団イナモリ・フェロー。
株式会社アクシアム
代表取締役社長/キャリアコンサルタント 渡邊 光章(わたなべ みつあき)
渡邊 光章大阪府立大学農学部生物コース卒業。コーネル大学 Human Resource Executive Development Program修了。留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリア・コンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。1997年5月~1999年5月、民営人材紹介事業協議会理事。1998年8月~、日本ベンチャー学会会員。1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネジメント委員会副委員長。

お問い合わせ

本イベントについてのお問い合わせは、下記連絡先までお願いいたします。

株式会社アクシアム イベント事務局
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