イベント海外セミナー

AXIOM CAREER DESIGN SEMINAR in EURO Autumn 20192019.12.05

この秋は約2週間にわたり、欧州にてMBA留学中の皆さんを対象としたキャリアデザインセミナー、個別相談を行ってきました。訪問させていただいたのは、バルセロナのIESEとESADE、そしてロンドンのLBSの3校。計50名以上の在校生の方々とお会いすることができました。

LBSは2学年の合計学生数が40名を超えており、日本人数が増加したビジネススクールになります。3校を回ると海外MBAへの日本人留学生が増加した印象を持つほどですが、今回訪問した3校だけで欧州全体や北米、アジアを含む全体の傾向を論じることはもちろんできません(年内には、全体の日本人留学生数調査の結果を発表する予定です。)

また、MBA卒業後に現地で活躍されている複数の方々とも、時間が許す限りお話してきました。私のSNS等をご覧になって現地訪問を知り、多くの方から個別相談のご希望をいただいてはいたのですが、時間的制約で全員とお会いできなかったのは心苦しい限りです。バルセロナやロンドンのみならず、ニューヨーク、シカゴ、あるいは米国西海岸などで、留学後も勤務する人が増えてきたと実感しています。

通常のMBA留学だけでなく、エクゼクティブコースや4年制大学への日本人留学生も増えている印象ですが、本稿はあくまで欧州で感じたMBA Candidateの特徴や変化、卒業時ならびPost MBAといわれる卒業から5年程度のマーケットを視野に、感想を綴らせていただきます。

(1)“JapaneseとWorld”

“Japanese”という単語は、日本人とも日本語とも、日本国籍とも捉えられます。一方、“World”には、International、Global、Cross border、Multinational、Abroadなど、日本を含めた世界を表したり、日本の外の「世界」を表す二通りの概念があります。

じつは、東京で考えていた私の中の「日本と世界」についての概念は、今回、大きく揺さぶられることとなりました。私にとって海外ビジネススクールへのツアーは、もう30年近く続けているいわば“慣れた”活動です。しかし、今回は各地で留学生活を送り、あるいはキャリアを積み、生活している方々とのお話から、東京で考えていた“JapaneseとWorld”は、「日本人と日本人以外」に他ならない狭い視野なのだと気づかされました。これほど自分の中の定義を再考しなくてはならないと痛感したことは、過去のツアーではありません。

バルセロナあるいはロンドンで触れたのは、“Japanese”はもはや日本人を指す言葉ではなく、「日本語を話す人」「日本文化が好きだったり理解できたりする人」を内包するものであり、「日本文化圏」というべきものだということです。一方“World”とは、様々な文化、異なる文化の全体そのものであり、そこには個別文化の世界が折り重なって存在するだけで、ひとつの世界文化などは存在しないということでした。

冒頭でも触れましたが、弊社アクシアムでは、1999年から日本人MBA留学生数を長く調査してきました。昨今、概ねその数は減少傾向にあります。2018年、2019年の調査結果は年内に発表しますが、きっとその傾向は変わらないと思われます。これまで調査の際には便宜上「日本国籍を有する人」を調査対象の要件とし、その数を調べてきました。調査方法としては、各校の学生諸子へ協力をお願いし聞き取りするというものなのですが、昨年あたりから、なぜかいつも協力的な学校・幹事の方からも調査結果がなかなかいただけないという状況がみられました。

しかし今回の訪問で、この“Japanese”という概念で学生数をとらえることが、すでにかなりハードルが高い、また古い発想なのかもしれないと気づきました。“Japanese”のコミュニティーで出会ったのは、日本が好きで日本語に堪能なインド国籍の方、中国本土国籍だが日本で生まれた日本語が母国語の方、国籍は日本ではないが日本で働き欧州へ留学中の方、お母様が日本人でお父様が外国籍であり日本語と英語を含めて数か国語ができる方、などなど。そのような方たちが沢山いらっしゃったのです。

これは、うれしいこと、とても良いことなのだと思います。“Japanese”を日本人とせず、「日本文化(言語)を共有してくれる人」と再定義し、その方たちを大切にすべき時代がすでに来ていると思いました。日本で生まれ育ったいわゆる日本人が、海外で学ぶとエリートになるという遣隋使時代からの幻想は消し去って、地球のどこにいても“Japanese”のコミュニティーが元気になればいいし、個人が“Japanese”やそれ以外のコミュニティーに同時に属することがプラスになる。そんな時代の空気を各地で感じることができました。

この感覚は、特にLBS、IESEの訪問時に強く感じました。

(2)哲学について

今回の個別相談では、キャリアのお話そのものの他に、世界情勢や政治に話題が及ぶことが多かった印象です。5年目となる香港の雨傘運動、混迷を極める英国のEU離脱問題、バルセロナにも影を落とすカタルーニャ独立運動など。各国の政治劇はビジネススクールの選定にも大きな影響を与えていますが、今回お会いした学生諸子は苦慮、心配、十分な警戒をしながらも各地を留学先として選び、覚悟を持って学んでいました。

世界で起こっていることを都市圏から冷静に見つめることもできますが、アフリカやアジアの非都市圏で起きている悲劇に立ち向かうNPO、NGO、世界機関などでインターンやフルタイムを行う人が増えたのも印象的です。今回、世界情勢や政治の話に話題が及ぶたびにドイツの新鋭哲学者、マルクス・ガブリエル著『なぜ世界は存在しないのか』を推薦しておきました。宗教、政治、科学の仕組みだけでは世界の平和や維持・発展が難しくなってきている中、ひとりひとりが生きる意味の軸を自分の言葉で話すには、哲学的なアプローチもプラスになるときがあると思ったからです。前述のとおり、日本を含む世界観と日本の外を世界とみる世界観では大きな隔たりがあります。日本人と“外人”という概念も同じです。今後重要になるSDGsの世界観では、当事者として考えてみることがなおさら大切です。

(3)就職事情

日本人MBAは減少していても“Japanese”コミュニティーに属するMBAは増加している可能性はあります。日本人MBAの採用需要が拡大しているのにその数が減少している場合、採用側は苦戦を強いられますが、必ずしも“日本人”にとらわれる必要はないわけです。実際、外資系企業の多くは、日本語ができれば日本での採用対象としますし、日本の企業も最近では日本人に限らないでコンピテンスで採用するようになってきました。弊社からの紹介事例でも、日本語力や英語力は重視されますが、コンピテンスがあれば外資系でも日系でもスポンサーとなってVISAの発給がされています。

日系企業における海外勤務のポジションも増加してくると見込まれ、将来性のあるキャリアチャンスが多くなっていますし、日本人にはどんどん海外MBA留学を目指してほしいと個人的には思います。ただ、その機会は日本国籍以外の人が手にする場合が多くなりそうな気がしています。今までは「日本人がんばれ。負けるな、もっと頑張れ!」と思っていましたが、もう思いません。世界を良くするのは日本人だけではありませんし、日本を良くするのは日本人だけではないからです。

過去最も売手市場にある2020年卒生ですが、既にしっかり進路を決めた人もいますが、まだ本格的な活動は今からといった状態です。これまでの慣例や周囲の動向に流されない、多様性時代の就職の在り方が始まったと感じます。

変化する側は、マジョリティーを否定し、マイノリティーを肯定します。変化を嫌がる側は、マジョリティーに所属することを強制し、マイノリティーを否定します。採用側と応募側にとって、相互の価値観が合致しているかどうかが、益々大事になってくると思いました。

(4)ゆとり世代への期待

日本では、現在20代~30歳前後の方たちを「ゆとり世代」と呼び、自分の主張を持たない、持っていても隠す特徴があると言われています。主張しても褒められないし、損なことこそあれ得がないというように考えるそうで、私もキャリアのコンサルティングをご提供する中で、そのような傾向を感じる部分はあります。

今回お目にかかった欧州留学中の20代の方の中には、キャリアプランやキャリアデザインのゴールを決めて留学している人よりも、自分の可能性を決めないで、キャリアをどのように描こうか思い悩みつつ学んでいる人が多い印象でした。これは、とても良いことなのだと私は思います。規定路線の選択だけで世界を知ったつもりになっていては、変動社会で生き残れないからです。

過去の常識を体得するために留学したタイプの人は、ルールが変わると知識が劣化し使えなくなります。しかし、これからの人生が白紙だと思って「どんな絵を描こうか」「道具はなににしようか」などと想像したりすることは、前向きな悩みであり、歓迎すべきことです。確かに彼らは自己主張が控えめですが、現実を知りながらも、未来を見る人たちのお手伝いができればと強く思いました。ゆとり世代の中から、自由を勝ち取る人が生まれてきそうにも感じました。

また一方、企業派遣生の中で、留学中に離職する人が2年ほど前から多くなってきましたが、今年はついに渡航前に企業派遣から私費留学に変えた人が出てきました。その行動には非難する意見もあるでしょうが、しっかりものを考えた上で決心できる人が出てきたと頼もしく思いました。

今回訪問した欧州各地では、何かを掴もうという若者が、手のひらにあるものをいったん捨てて、まさに素手で学んでいました。つぎに彼らが何を掴むのかとても楽しみです。そして、それらMBA留学生たちがしっかり未来を掴めるように、今後もフルサポートをしたいと思っています。

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)

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