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転職コラム”展”職相談室
キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。
“展”職相談室 第225回2022.11.10
【特別版】「やりたいこと」「やれること」、そして「やってくれ」の声から見つけるキャリア
今回は、いつものようにご相談者からの質問にお答えする形式はなく、アクシアム代表・渡邊光章の特別コラムをお届けします。予想もしなかったような事態が次々の起こる情勢の中、持続可能なキャリアを築くには? そのために必要なマインドとは? 渡邊からの提言です。
Answer
私はこれまで30年以上にわたり、じつに多くの方のキャリア相談をお受けし、転職をサポートさせていただいてきました。その経験から、見事に転職に成功され、その後のキャリア展開でも大きく成功された方々には、ある共通点があると感じています。
それは、転職先の選定にあたり「何を重視したか」という点です。ご自分の希望職種=「やりたいこと」と、ご自分のスキル・経験=「やれること」から転職先を探す、あるいはそれらを軸に次のキャリアを探すというのは、通常かつ当然のやり方です。
ところが、ご本人が当初「やりたい」とも「やれる」とも思っていなかった、採用側の「やってくれ」との要望、すなわち初めて言われるような意外な声に耳を傾けたことで、その後のキャリアを大きく発展させた方が、一定割合いらっしゃいます。最初はさほど関心がなかったものの、選考を受ける中でだんだんと業界・ビジネス・企業・職責などへの理解が深まっていき、オファーが出た段階で意思決定。そうして入社後、大成功をされている方、さらにそこでのチャレンジをステップに再度転職し、業界も職種も変えたのに大きくキャリアを展開・成功された方々が存在するのです。
最近は特に、メンバーシップ制のキャリアからジョブ型のキャリアへと移行が進んでおり、ジョブ型でないと、持続可能なキャリアを形成できなくなっていることは説明するまでもありません。しかしその中で、あまりにパーパス(Purpose/目的)を重視するあまり、自己中心、独りよがりのキャリアデザインを目指してしまう人が増えていることを危惧しています。パーパスを持つこと自体は良いことなのですが、そのパーパスは誰のためになっているのか、あるいは社会のためになっているのか、一歩引いて考えてみてもいいのだと思います。
逆に本稿で指摘したいのは、「社会が求めるパーパス」が「採用側の求人ニーズに潜んでいる」、つまり様々な「社会課題を解決するためのキャリア機会」がそこには潜んでいるという点です。求人には、単に現在のニーズに属するものと、将来の課題=パーパスまでを秘めたものとに分かれます。単に「やりたいこと」がパーパスだと誤認している方も少なくありません。その点、注意が必要です。
「やりたいこと」と「やれること」は過去の中から出てくるものです。勿論そこから未来につながることはありますが、過去にはなかった「やってくれ」の声から未来が生まれることが、確かにあります。このような『キャリアの選び方』『キャリアの創り方』があることを、ぜひ知ってほしいと思います。
実例を挙げて、ご説明してみたいと思います。1980年代後半~1990年代、アメリカでは主に経済学博士号の取得者がIRS(Internal Revenue Service/日本の国税庁に相当する内国歳入庁)や大手コンサルティングファームで従事し、「移転価格税制」の知見を持つ税務コンサルタントとして活躍していました。そのような人材がアメリカでは多数いたのに対し、当時の日本ではわずか数名でした。日本にも経済学の博士号取得者は多くいましたが、税務については人気がなく、そのような職への応募者も従事者も少ない状態でした。
当時、「移転価格税制」が企業そして国家にとっての重要事項であると気付いていたのは、大蔵省(当時)の移転価格税制担当者、某大学の助教授で税制・経済の専門家の方、そして大手生命保険会社の財務担当者の方々くらいではなかったでしょうか。彼らに共通していたのは、アメリカの大学院で博士号を修め、日米の違いをよく理解していたことです。
そんな中、ある企業から「移転価格税制を担当できる税務コンサルタント人材」を採用したいとの依頼を受けてお手伝いをしました。当初は経済学の博士号を必須要件としていたのですが苦戦をし、修士号取得者に対象を広げても、なかなか採用が叶いませんでした。お声がけをしたほとんどの方は、今回の「税務コンサルタント」の仕事を税理士の仕事と同じようなものとみなし、関心を持っていただけなかったのです。
ところがお一人だけ、「やってほしいと言われるのであれば、まずはオープンマイドの精神で、どんな仕事が聴いてみたい」とおしゃっていただける方に出会いました。そこでまず情報交換から始め、徐々に仕事の重要性や魅力を理解いただけるよう進めました。その方の専門領域は別にあり、移転価格税制については門外漢でしたが、日本社会(特に民間の大手企業)が大きな損失を被っていること、ひいてはそれが日本全体の損失になっているとご理解いただけました。そしてそれを、多くの企業経営者、財務担当者に知らせる「税務コンサルタント」という仕事に就く決意をされました。
その方はその後、コンサルタントとして活躍されたのは勿論、某大学の教授も一時務められ、現在は移転価格や経営リスクに関するファームのパートナーになっていらっしゃいます。
上記のような例は極端かもしれませんが、求人案件の中には、『先駆的な職種』や『希少な機会』が潜んでいても、多くの人の経験からは“面白い仕事や機会であるとは思えない”ことがよくあります。古い概念や常識、思い込みに捉われていては、チャンスを見逃してしまうことがあるのです。
私をはじめアクシアムのコンサルタントは、ご相談者の「やりたいこと」と「やれること」を踏まえつつ、企業側の「やってくれ」の声や、「やってみると面白いはず」と思えるキャリア機会をピックアップし、ご提示させていただきます。ピンとこないという案件が含まれるかもしれませんが、まさにオープンマインドで、間口を広げて検討いただくのが、ご自身の『キャリアチャンスを最大化』することにつながるのではと思っています。
不安定で不確実性が高い時代の中では、「やってくれ」の声から見つけるキャリアが、案外生き残りのキーとなるかもしれません。一考の価値ありです。
コンサルタント
インタビュアー/担当キャリアコンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)