転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第156回
2016.02.04

組織に縛られた働き方に疑問。ノマド・ワーカーになるには?

ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」を読んで感銘を受け、ずっとノマド・ワーカーに憧れを持っている30歳です。大学では情報工学を専攻し、これまではスマートフォンやネットワーク系の開発エンジニア、ITコンサルタントとして大手のシンクタンクで仕事をしてきました。ただ30代に入り、組織やオフィスに縛られた働き方に疑問を感じるようになり、もっと家族との時間も大事にしたいと考えるようになりました。ノマド・ワーカーとしてキャリアを作っていきたいのですが、その際の注意点などを教えてください。

Answer

ノマド・ワーカーという言葉はここ数年、認知が広がっていますが、最近は一時のブームほどではないようですね。スキル・知名度・実績・営業力・人脈・独立心などがあれば、独立してフリーランスになることも、複数の組織に属するなどして自由な場所や環境で仕事をするノマド・ワーカーになることも簡単でしょう。しかしながら、知識・スキルは数年単位で風化しますので、継続的に自己投資を行う必要が出てきます。また、先駆的な案件を低価格でも取り扱うこと、成熟した技術を提供することが求められ、それらをきちんと提供するための時間管理を、自ら行うノウハウが大切になります。大手シンクタンクの看板のもとで仕事をしているのと、自分のブランドだけで仕事をするのでは大きな差があります。

自由な働き方を求めてフリーランスやノマド・ワーカーになったものの、3~5年で知識やスキルが陳腐化してしまい、新たな顧客を獲得できず、年齢だけが上がってしまった…というケースが後を絶ちません。経営コンサルタント、ITコンサルタント、デザイナーなど、個として嘱託契約をし、企業から仕事を受託するスキルワーカーもノマド・ワーカーのひとつですが、単なるアウトソーサー(外注受託者)になってしまっている人もおり、厳しい言い方ですが彼らには先がないでしょう。

また、日本の雇用状態からも考えてみましょう。

◆厚生労働省の「非正規雇用の現状と課題」資料(PDFファイル)

資料にもあるように、正規雇用は1994年の3,805万人をピークに2014年には3,278万人になり、20年間で527万人も減少しました。その間に非正規雇用は約1,000万人増加したことになります。時間あたりの賃金カーブを見ると、一般労働者(正社員・正職員)の場合、年齢に比例して22歳から55歳までほぼ一直線に1,000円から2,500円へと上がっていくことに比べ、それ以外の短時間労働者は横ばい状態。これが日本の現実です。

リストラや非正規雇用の問題が噴出する時代において、組織を出ても自立できる力をつけるという意味では賛成ですが、安易にノマド・ワーカーになることには反対です。ノマド・ワーカーの時間給は人により千差万別だとは思いますが、時間給社員として単価も上がらず、仕事量も増やせないようなタイプにはならないでほしいのです。

これからはICTが広がり、会社員(正社員)でも在宅勤務が可能になってきますので、ノマド・ワークができる職種は増えていくでしょう。家族のために時間をとりたいと思って組織から飛び出し、30代のいっとき家族と過ごす時間がとれたとしても、40代で仕事にあぶれて家族を養う経済力を維持できなければ、意味がないと思います。“家族を大事にする”ことと“家族との時間を大事にする”ことの真の意味を、いま一度考えてみてください。

また、ダニエル・ピンク氏の著書「ハイ・コンセプト」に感銘を受けておられるとのこと。ノマド・ワーカーと、どうつなげておっしゃっているのかわかりませんが、その著書の中では、確かハイ・コンセプト(新しいことを考え出す人)の時代に重要な資質として、以下の6つの感性が紹介されていたと思います。

  1. 機能でなく「デザイン」
  2. 議論よりは「物語」
  3. 個別よりも「全体の調和」
  4. 論理ではなく「共感」
  5. まじめだけでなく「遊び心」
  6. モノよりも「生きがい」

ノマド・ワーカーでなくても、これらの感性をもつベンチャー企業や社会起業家などはたくさん出てきています。ですから、そのような仲間・組織を探すというのも、ご希望を叶えるキャリアの選択肢かもしれません。

ノマド・ワーカーに対して少々ネガティブな回答をしてしまいましたが、組織に所属しなくとも正社員と同等かそれ以上の時間給と仕事量を獲得し、しかもそれが継続的に55~65歳あたりまで継続できる見込みがあるなら大賛成です。キャリアをデザインする際に重要なのは適材、適所に加えて「適時」の観点。組織の中か外か、オフィスの中か外か、どちらがご自分のキャリア目標にとってプラスであるのか、年齢の要素もあわせて考えてみるべきだというのが結論です。30歳のいまどうすべきなのか、45歳あたりではどうか、55歳では? 色々と未来像を描き、キャリアのプランニングをしてみてください。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)