転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第148回
2015.06.04

「カバーレター」を添付することは、本当に有効なのでしょうか?

現在、転職活動中の38歳です。外資系企業のシニア・マネージャーのポジションを狙って6社に応募しています。3社は自分で求人を見つけて直接応募し、残りの3社はサーチファーム経由で紹介されました。どの応募先にもカバーレターを作成し、英文レジュメなどの応募書類に添えて提出しています。

毎回カバーレターとしての体裁を整え、各社ごとに内容を吟味し、自己アピールできるよう手間をかけて作成しているのですが…じつは、あまり有効性がないように感じています。「応募経緯」「希望職種」「志望理由」「意欲・長所・経験」「自分の強み」「他社応募状況」「入社後にやり遂げたいミッション」などを書き込んでいますが、面談に進んでも、それらをあまり読んでいただけていないように思うことが何度かありました。

カバーレターには、時間と労力をかけて作成するだけの効果が本当にあるのでしょうか? ちなみに宛先も、事前に調べて正しい宛名(担当者の個人名)にしています。

Answer

同じ内容のものを送らず各社ごとにカスタマイズされ、また宛先も調べて担当の個人宛にされているとのこと。素晴らしいと思います。しっかり「ご自分の強み」と「採用側が求めているもの」を盛り込んで作成されているのであれば、内容的には特に問題ないでしょう。

新卒や20代の方の場合、カバーレターの出来ばえについて、応募者ごとでそれほど大きな差は出ません(もちろん例外はありますが)。きちんとした文法・文章で基本的な内容をおさえて書いてあれば、面談に進める可能性は大です。また、スカウトが基本の経営者ポジションなどの場合は、もとより作成する必要がありません。今回のご相談者のように、マネージャー、シニア・マネージャー、ディレクターレベルで応募される場合のカバーレターが、一番やっかいで難しいかもしれません。

カバーレター(応募時の志望動機書代わりとなる礼状)やサンキューレター(選考過程で送るお礼状)と呼ばれる「応募に際するレター」が、じつはその後の選考を左右することがあります。では、それらのレターについて「目的」と「タイミング」の2点でご説明していきましょう。

まず、レターの「目的」について考えてみましょう。今回のご相談者は「カバーレターをきちんと読んでもらえていないのでは?」「内容がちゃんと伝わっていないのでは?」と悩まれているようですが、そもそもカバーレターの目的は、隅々まで読んでもらうことでも、内容を詳細に理解してもらうことでもありません。まずその視点は捨ててください。応募の際のカバーレターなら、書類選考を突破し“面談に呼ばれるレターを作る”ことが目的のはずです。審査官がカバーレターを丁寧に読んでくれたとしても「うん、十分にわかった。つまらない。インタビューするまでもなくNGだ」というのでは意味がありませんよね。審査官がさっと目を通したとき「この候補者は面白い。レジュメを詳しく読んでみよう。ぜひ会って詳しく話を聞きたいものだ」と思わせることこそが、カバーレターの狙いなのです。

ですから、レジュメ(職務経歴書)に書かれている内容をレターにしただけでは目的は達せません。往々にして、レジュメを見ればわかることを要約しただけの自己満足的なレターになりがちですから、注意が必要です。また、ご自身の職務の歴史すべてをつまびらかにすべきものでもありません。冗長になりすぎ、興味を失われてしまいます。ある一定の文章量の中で、読み手にいかに“興味を持たせられるか”がポイントになります。

採用側がどんな気持ちで候補者を面談に呼びたくなるのか。過去に企業の採用担当者から伺った声を、参考例としてご紹介したいと思います。

「こんな凄い実績を一人で出したとはとても思えない。本当なら適任だが、もっと具体的に確認してみたい」
「この年齢でここまで理解ができているとは凄い。詳しく確認してみたい」
「弊社のことを強みも弱みもしっかり理解しているようだ。競合他社との違いも認識してくれている。たいしたものだ。どうやって認識を深めてくれたのか、聞いてみたい」
「業界分析をしっかりしている。応募者としての準備も万全だと思われる。さらに業界動向についてどんなスコープを持っているのか聞いてみたい」
「どうして、今までと異なる業界に来たいのか。年収を下げてでもやりたいというのは本心なのか。実際に会って聞いてみたい」
「現職でも順風満帆なキャリアなのに、何故なのか。日系から外資の厳しい環境に転職して耐えられるのか、確認してみたい」

いかがですか? 採用側のコメントを見るとよくわかりますよね。面談に呼ばれるのは、必ずしも内容が評価されてのことばかりではありません。「確認したい」「詳細を聞きたい」「実際に会って掘り下げて聞いてみたい」と思わせることができればよいのです。

つぎに「タイミング」についてお伝えしましょう。カバーレターやサンキューレターは、的確な内容であることもさることながら、「タイミング」が運命を左右するケースが意外に多く見受けられます。レターを用意するのは応募の時だけ、とお考えの方が多いのですが、インタビューが進んだ段階や最終審査手前の段階などでも、上手く使えば大変有効です。キャリア形成においては「適時」こそが重要なカギ。「どのタイミングで何を伝えるか」という応対辞令をぜひご一考いただきたいと思います。

過去にこんな例がありました。カバーレターではありませんが、サンキューレターが大きく成否を分けたという例です。

30代後半のAさん、Bさんがおられました。お二人とも経営を目指すグローバル人材。それぞれ別の企業ですが、将来の経営幹部候補としてCEO、COO直下で働く経営企画室長レベルのポジションに応募中でした。

AさんもBさんも応募先企業の社長の最終面談が終わり、まもなくオファーが出てくるタイミング。お二人は非常に優秀で、この他にも複数の企業でインタビューが進んでおり、口頭ベースでは既にオファーを伝えてきた企業もありました。極めて似た状況のAさんとBさん。現在の年収も大差ありません。ところがお二人は、この後レターひとつでまったく違った運命を辿ってしまったのです。

Aさんは応募先企業の最終決定を待つまでもなく、最終面談後にサンキューレターを作成して先方の社長宛に提出しました。ちょうどその時、企業の内部では複数の最終候補者の中で誰を選ぶか議論の真っ最中。そこへタイムリーにAさんからレターが届き、意欲の強さを確認できたことで、役員全員一致でAさんの採用を決めました。しかもあと数名残っていた候補者の面談をキャンセルしてまで、オファーを出すことを決定したのです。Aさんは無事にオファーと望外な年収提示を手にし、入社を即決しました。

一方Bさんは、採否の決定連絡を待つばかりで何らアクションを起こしませんでした。応募先企業には自分の他にもまだ有力な最終候補者が残っていると知っていたのに、サンキューレターを出すなどの手を打たなかったのです。その結果、最終面談の段階では採用側も「Bさんにほぼ決めている」というトーンを醸していたものの、その後、別の候補者が優位になり、オファーには至りませんでした。結局Bさんはその他の会社からもオファーが出ず、転職活動を長く継続する羽目になってしまいました。

運命を分けたお二人の差とは、いったい何なのでしょうか。私は、腹積もり、タイミング、伝え方、に大きな違いがあったのだと思っています。じつはAさんは、最後に社長宛に送ったサンキューレターの中で「他社からもオファーをいただいている。だが、もしそれらの条件と大きな違いがない条件をご提示いただけるなら、ぜひとも御社に入社したいと思っている」と、自分の置かれた状況、そして気持ちをはっきりと伝えていました。

Bさんには最終面談の段階になっても「自分の気持ちが正直まだわからない。そこまで決心が固まらない」という躊躇があり、自らをアピールするアクションが起こせなかったようです。厳しい言い方になりますが、オファーをもらってもいない段階で、皮算用をして選ぼうとする愚行だったと思います。意思決定のタイミングを間違っています。いくつかのオファーをもらってから、本当に最後の意思決定をすることは、企業側もわかっています。嘘は勿論だめですが、ご自分の状況と気持ちを要領よく伝える技量が、少しBさんには欠けていたのかもしれません。

このように、レターは使う目的とタイミングをしっかり意識し、率直に状況や気持ち、考えなどを伝えることができれば、キャリアチャンスを広げるとても有効なツールになると思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)