転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第128回
2013.10.03

転職活動のスピードは急いだ方が良い?

コンサルティングファームで5年、ベンチャー企業で5年勤務し、経営企画、事業開発、セールスの分野で自信をつけることができました。将来は世界市場を相手に仕事をしたいと考えています(海外で仕事をしたいということではなく)。海外の大学を卒業しているので英語は問題ありません。

ところが私の先輩が「海外に行かせると言われ日本企業に入社したが、結果的に何年経っても海外赴任の機会はなく、国内業務しかやらせてくれない。転職活動は慎重におこなって、入社前に業務についてしっかりと約束してもらわないと人生を無駄にするぞ」という助言をくれました。そのため海外勤務をさせてくれる求人をもう2年も探しており、求人情報を何十件も見てきましたが、興味を持てるものがなかなか見つかりません。どうすれば良いのでしょうか?

Answer

「グローバルキャリアを希望するがどうしたら見つかるのか」という質問でもありますが、その点については別の機会にお答えしたいと思います。今回は「特定のキャリア展望を明解にもっているが、実際にその機会をどのように見つけ出して、実現することができるか?」という質問に置き換えてご回答します。

職についていない状況で就職活動を行っている人は、それこそ応募企業数に制限はありませんし、書類選考にパスした企業と面談を行い、多数のオファーを獲得して、そこから決定するということを、時間をかけて行うことができます。従って時間の許す限り多くの企業にアプローチして、複数のオファーから一番良いものを選ぶことができます。現在職にあるわけではないので、オファーの中からどれを選んでも現実的なベストとなります。

しかし、現職がある方は時間制限があることから多数の応募ができず、また現職があるがゆえに現職よりも良いキャリアにステップアップしたいということになりますが、次のキャリアはどんな機会であってもリスクもありますし、選ぶことが必ずしもベストと言いきれない恐怖も漠然とあります。

現在のキャリアで展望をかなえられるのであれば、就職活動そのものをする必要がありませんが、現在就労中の人が自分の展望をかなえられるキャリアを探している、またはキャリアチェンジを考えているのであれば、大事なことは転職活動の色々なステージでスピードアップを図ることです。

それではスローな人に比べてスピーディーに活動を進められる人が、なぜ最終的に希望、展望をかなえる機会に巡りあう頻度や確率を高められるか、活動プロセスを分解してご説明しましょう。

 

【1】キャリアのデザイン

自分のキャリアを分解して、自分が何を目指しているのか、自分に何が足りていて何が足りていないのか、実績があるのかないのか、中長期に何がしたいのか、報酬をどうしたいのか、といったことを整理しながら、自分の展望を再確認しておく必要があります。展望が決まっていない場合でも、活動の中で最後は決めなくてはなりませんので、60%程度の精度でも捨てられるものと得たいものを決めておく必要があります。たった一回の相談で自分が目指すものが整理できる人もいれば、ご自身で考え抜いて1週間程度でデザインできる人もいますし、逆に半年、1年かかっても60%も決められない人もいます。

 

【2】応募先探し

キャリアの大まかな展望が決まってきたら、いよいよ実際にある求人情報を探す工程に入ります。(1)会社情報、(2)ポジション情報・仕事内容、(3)報酬、(4)勤務地や労働条件、などを比較します。スピードのある人はこの段階で入念な調査は行わず、4つの項目で概ね自分の希望に合っていれば、どんどん応募(アクシアムからの紹介)を進めていきます。スローな人は、応募企業の徹底調査や、(3)や(4)について友人に相談したり心配したりして、何週間も応募するかどうかの検討に入ってしまいます。(2)についてのイメージがつかないということで応募を躊躇してしまうと、せっかく応募を決心して応募する頃には先行者で決まってしまう機会損失を起こします。スピーディーな人はポジションがオープンの段階で応募するため書類選考対象になるのです。エージェントの打診から1か月も考えてから応募する場合にはポジションは埋まっていると考えたほうがいいでしょう。

情報収集するだけでは実態は分かりません。スピーディーな人は自分が気に入る先を探し当てるのではなく、落ちると考えずNGをおそれず、どんどんアプローチして(最低限のレジメ準備はもちろん必要ですが)、自分を評価してくれる先を探します。

 

【3】インタビュー

スピーディーな人は、書類選考にパスしてインタビューに進んだ段階で、面談対策として徹底的な企業調査、他社分析、市場調査、ポジションへの売り込みポイントの整理、プレゼンテーション準備などを行い、数回程度の面談プロセスをスピーディーに進め、毎回のフィードバックを密に行い、コミュニケーションを深めていくスタイルをとります。ポジションが定まってからオファーしたいと言われるまで、(3)報酬交渉は開始しません。インタビューを通じて、より生の会社情報、ポジションの理解、実際の仕事内容や会社の文化、上司や経営陣の価値観と自分のフィットを確認していきます。紙面やネットから情報収集するのとは格段に異なります。選考開始前や選考途中で応募先企業に組織変更や経営陣の変更があり、ジョブディスクリプション(職責説明書)に書かれていた内容と実際とが異なることなどは日常茶飯事です。

新卒の就職活動のような応募先企業の固定情報ではなく、中途求人という流動性の高い情報の中で、新しい情報を捉えフレッシュな感覚を持って、プロセスをスピーディーに進めていかなければいけません。イメージとして大体、5社程度にアプローチしていき、2~3社と常にインタビュー中という程度で、現業に差し障りのないタイムマネジメントを実現しています。結果的に採用側からは、そのスピード感が前向き・意欲的と映ります。逆に慎重に事前調査をやり過ぎた場合、心配な点が大きくなってしまい、プロセスが早まらないため、応募先企業から「意欲的ではない」というマイナス評価が出てしまうケースもあるほどです。

間違って欲しくないのですが、会社のIR情報やポジションを理解もせず、「とりあえず面談に来ました」というのはスピーディーではなく無謀と言います。決してそんなことを推奨しているわけではありません。どれだけ忙しくても人生を変えるチャンスかもしれないインタビューですし、面接官の方も多忙な実務の中で、面接に時間を費やすのですから、応募者のマナーとして真摯な応対辞令や最低限の準備は必要です。

少し話は逸れますが、スローな人の中には、やっと入ったインタビューにも関わらず、自分を売り込まないといけない初回インタビューで、自分の売り込みはうまくいかず、事前に調べて気になる点が大きくなり、結果、批判的な質問ばかりをインタビュアーに投げてしまい、即日見送りとなる人も見受けられます。これでは何のための事前調査かわかりません。インタビューへの回答も慎重になりがちな傾向があり、落ちることが嫌で、質問に的確に答えず回答をごまかしがちになります。選択枝が用意されないと自分の意見を言えない人もいます。何故そのような行動、選択をとったのか、それすら答えに時間を要してしまう人もこのスロータイプに多いです。結果を恐れず、自分の考えをしっかり論理的に伝えることができれば、決してそれはマイナスになることはありません。ビジネスに正解があるわけではなく、ましてや自分の過去の経験であれば、具体的にロジカルに答えられるはずです。

 

【4】オファー

無事にインタビューが終了し、条件提示とすり合わせにより初年度の年収提示も決まり切った段階こそが、もっとも重要でキャリアチェンジの是非を左右します。この段階でこそ、自分の展望にかなうものかどうかを慎重に見極め、懸念していることの確認や、将来の可能性について約束はしてもらえなくても、どのような成果・実績を出せば自分の展望がかなうのか、また期待役割についても正確に理解しておくべきです。スピーディーな人は、それまでの過程で採用側にテンポよく意欲的に見られていますので、採用側もこのような建設的な質問は歓迎し、オファー面談に追加的な時間を割いてくれます。オファーの検討期間についてもしっかり時間を与えてくれます。新製品のローンチや年次のスタートなどの事情により、どうしても急いで回答してくれと言われる場合もありますが、それまでに十分議論がなされ、内々定的に口頭で来てくれと言われた段階ぐらいから概ね2~4週間程度の猶予で決めることになります。キャリアのデザインがしっかりフィットしていることの確認やキャリアの優先順位が定まっているので決心しやすいです。一方、スローな人の中に全ての情報は確認できて、会社・ポジション・報酬や労働条件・将来性もすべてOK、展望にもかなっているという判断ができるにもかかわらず、腹落ちや覚悟ができず、「何が何でも成功する」と思えない人がいます。スローな人はオファーを得ることが困難であるばかりか、せっかくオファーが出ても決められず、いずれにしても現職を継続することになるケースが多くなります。

貴方の場合であれば、オファーが出たこの段階で、入社後すぐにグローバルな仕事に携われるのか、最初は無理だとしてもどのような実績を出せばそれが実現化するのか、しっかりと回答をもらうことです。今のように求人情報を眺めて研究していても、チャンスは100%生まれてきません。それだけは断言できます。

◆ 結論としての助言は、求人情報を見るだけではなく、スピーディーに応募を開始して、インタビュー数をこなし、現実を直視し、チャンスを見つけ、チャンスを得るまで、人に会って行く事だと思います。活動スピードは急ぐ方が何十倍もチャンスが生み出されると言えます。求人者も求職者も見送ったり、見送られたりする中で、お互いに適任の候補者が見つかったり、良いキャリアに巡り会えたりするものです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)