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転職コラム”展”職相談室
キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。
“展”職相談室 第101回2011.05.06
転職回数が多いことは不利なことか?
外資系化学品メーカーに勤める32歳です。大学を卒業後、最初に入社した会社は数ヶ月で辞め、今の会社に転職し10年程度経ちました。ずっと経理畑で仕事をしてきましたが、今後も財務会計系のキャリアを歩んで行こうと思っていて、ステップアップのため経理マネージャーでの転職ができないかと考えています。
ただ、転職回数が増えてしまうことには不安があります。今の上司は50歳で転職回数がすでに8回程度あり、「転職に際しては、タイトルだけは下げることのないよう気をつけておけ。毎回タイトルアップして実力をつけてゆけば、転職回数は関係ない。現に自分はそのようにしてきた。」といいます。本当でしょうか?
Answer
あなたの上司にとっては事実であり、きっとその考え方は「本当」なのでしょう。少なくても今までは(50歳までは)何の問題もなかったのだと思います。しかし、仮にそれがこれまでの約30年間では通じた原則であったとしても、これからも通用する考えであるとは限りません。むしろ、今の時代を反映していないと思われます。あくまでも、その上司の方はそうだったというだけのことです。悪意のない助言とはいえ、その上司の発言はちょっと無責任だなと感じます。
結論を申し上げると、転職回数が多いことは不利と言えます。都度タイトルアップしたとしても、です。
ただ、あなたが考えるべきは、助言が「本当」かどうか、あるいは正しいのか間違っているのかということではなく、あなたが生きてゆくこれからの30年、2041年まででどういうキャリアを歩むかです。
しっかりと時間軸を持って考えてみてください。未来のことを考えれば、日本経済や業界、その会社や個人のキャリアなどすべての領域で、過去のパターンやそれまでの原則が通じなくなるのは自明です。
今は非常に厳しい時代です。あなたの上司も50歳までは良かったかもしれませんが、これから先次の職を探さなければならなくなった時には、今までのように簡単に職を得られることはないと思います。
当然、回数を重ねても転職によって得られる利益はあると思いますが、被る不利益を勘案するとプラスにはならないように思います。短期的にはプラスと勘定できても、ここから先の10年のトータルでマイナスとなる可能性のほうが大きいでしょう。
ところで、転職何回以上で「多い」とみなされるのでしょう。明確な線引きは難しいのですが、もしも経営者、CFOやCOOなどそれなりの規模の会社で役員を目指すのであれば、許容されるのは3回程度まででしょう。役員になってから、即ち「経営プロフェショナル」とみなされるようになってからであれば、その回数に2~3回加算されても問題ないかもしれませんが、まだ経営者と言えないうちに4回も5回も転職していては、その後、重職に就くのが難しくなってしまいます。
いかなる理由があったとしても、転職を繰り返していれば当然、「何かあるとすぐ転職してしまう人ではないか?」と思われ、「企業経営の重要な判断を委ねるのは心配」と判断されてしまう可能性が高くなります。
これは会社へのコミットメントの問題と言えます。経営を任せる側からすれば、「困難から逃げずに、全てを背負って責務を全うしてくれること」を期待しているのですから、当然のことです。
また、自分の都合で転職することだけではなく、会社の都合で転職せざるを得ないこともあります。
外資系企業はもとより、日本の企業ももはや終身雇用が期待できなくなっているのはご承知の通りです。よほどしっかりとした経験とキャリア設計を持っていないと、せっかく転職した先でも、組織の都合ですぐに吐き出されるということも起こりえます。
転職回数の多い人というのは、必ずと言っていいほど、この自分の都合と会社の都合の両方で、転職回数を増やしてしまっています。
実際には、部長職あたりで転々とする人を良くみかけます。中には、10回以上転職している人もいます。もちろん、キャリアとは関係なく立派な方もたくさんいらっしゃいますし、その方々の生き方や選択を非難しているつもりもありません。しかしながら、年収やタイトルが高まればよしとして転職をあまりにも繰り返してしまいますと、必ずしもキャリアアップをしてきた人とは見てくれなくなるのです。いくら職能や経験があったとしても、あるいは会社の都合で転職せざるを得なかったのだとしても、「自分のキャリアしか考えない利己的な人」とみなされ、重責を任される機会はどんどん少なくなってしまうでしょう。
会社を変わるというのは、それほど重要な意味を持つものです。単に、環境を変えるのに大変な労力がかかるということ以上に、そこで失うことも多いと肝に銘じましょう。
ちなみに、経営層ではない一般の求人においても、20代なら2回までとか、35歳までで3回までとか、転職回数の限度が定められていることもあります。よく、「外資系企業は転職回数を気にしない」と思っていらっしゃる方もいますが、それは誤認です。外資系企業も転職回数は気にします。比較すれば日本の大手企業より多少寛容であるか、あるいは転職経験のない方より、1~2回程度転職を経験している方を好むという表現の方が正しいでしょう。
確かにまったく転職回数不問という会社もありますが、そのような会社では結果的に転職回数の多い人達が集まり、また早期に転職して去ってしまう人が多くなる傾向にあるなど、あまりよい環境とは言えないように思われます。
転職の目的は短期的な年収やタイトルをあげることではなく、自分のキャリアの意味を見つけることや、自分の計、家族の計、会社の計を中長期に見つけること、そして成果を上げることにおくべきです。
確かに「年収が低かったから転職した。」というのも悪い理由ではありません。実際、市場に比べて低い賃金であれば、高い会社に移ることは妥当性のある理由です。しかし、5回転職した人が毎回、年収をあげることだけを理由にしていたとしたら、そのような方が社長になることはありえないし、部下もついてゆかないでしょう。
転職によって年収や職責が上がることは喜ばしいことです。しかしそれが、自分の成長と利益のみならず、会社や社会の利益に応じていなければ、その報いは将来の負債として残ることになるでしょう。得られるべき利益を先取りしてしまうような転職は、決して行うべきではありません。
すべからく、申し上げられる助言は、「不要な転職は控えること」となります。
転職には極めて合理的な理由、すなわち10年後でも他の人が納得できる理由が求められるのです。
コンサルタント
インタビュアー/担当キャリアコンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)