転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第96回
2010.12.02

営業職から経営者になるには?

大学卒業後、中堅商社に就職し営業職として3年、西日本支社では社長賞をもらうほど実績を出してきました。ただ、商社といっても大手総合メーカーの販売子会社でしかなく、地域の家電販売店に親会社の製品を販売するだけの仕事です。就職難の中でやっと入社した会社であり、会社や仕事に不満を言えるほどの立場でもないのですが、一方で現状には満足しておらず、もっと力をつけ、将来は経営者を目指したいと思っています。

しかし、自社の社長は歴代、親会社のエンジニア出身者か営業出身者、専務や常務も親会社の管理系の出身者と決まっており、プロパー社員が就ける役員の席は一つだけです。 何十年仕事をしても役員になれる保証はありませんし、新入社員研修がある以外、管理職研修もないし、ましてや経営者になるための研修などまったくありません。また、マーケティング部門もなく、親会社が良い製品を作ってくれることを願うばかりで、まさに神頼み、創造主が作った会社なのだから文句は許さないといった感じです。親会社にユーザーの声を反映させる仕組みも当然ありません。親会社の経営状態が悪くなれば、現職のボーナスにも直結してきます。

会社の先輩や上司に相談しても、「経営者を目指しているなど何をばかなことを言っているのか?しっかり仕事していればいいのだ。」というだけです。「現実を受け止めろ。淡々と係長、課長、部長になるだけの人生でもちゃんと家族があれば幸福なのだ。」と諭されるだけです。

このような夢もない会社では、経営者を目指すことは無意味なことと思うようになり、転職したいと考えています。どのような会社に転職すれば経営者を目指せるのでしょうか?また、出身大学はいわゆる有名大学ではありませんが、それでも経営者を目指せるのでしょうか?

Answer

同様の質問はきっと数多くの方が漠然と感じておられるはずですが、ほとんどの方が何もせず、日々を過ごされています。しかし、貴殿の場合はすでに答えをもっておられます。ご自分が置かれている環境、構造、そして自分が何を目指しているのか、そのことをしっかり認識していること、そのことが、展望(経営者を目指す)を実現するには最も重要なことなのです。

営業職から経営者になるにはどうすればいいのか?

少なくとも、既にご自分で導き出しておられるとおり「今のままでは駄目だ」ということは確かでしょう。 では、どのように動けばよいのか、どのようにキャリアデザインすれば経営者を目指せるのか?それにはどのようなノウハウがあり、どのような努力をすればよいのか?ということについてお話します。

その答えは一つではなく、いくつかのパターンがありますが、それぞれのキャリアの選択には重要な共通要素や判断基準があると言えます。過去に営業マンから経営者になった方々のパターンをもとに重要なポイントや判断基準とすべきことをいくつかお伝えしますので、ぜひそれらを次のキャリアを考える参考としてください。そして一日も早くご自身の考えをまとめ、ご自身にあった行動を実行してください。しっかり考え、そして一早く行動を起こすことこそが経営者を目指すために最も大切だと思います。

 

1)目指す経営者がいる/経営が身近に見える会社を選ぶ

ご自分が目指す経営者とは、どのような経営者でしょう?知識をもった経営者でしょうか?リーダーシップでしょうか?人間性、社会への貢献性、判断力、ビジョン、志、起業家、大企業経営者など様々な切り口がありますが、どんな業界でどんなことができる経営者になりたいのか、それが明らかにできるのであれば、そのような経営者が実際に経営している会社を選ぶというのもいいでしょう。そこで、その経営を間近に見て学べばよいのです。

 

2)経営者になる努力をする

出身大学がキャリアにまったく関係がないなど信じている人は、さすがにいないでしょう。 少なからず学歴はキャリアに影響を持ちます。だからこその「有名大学卒ではないが経営者を目指せるか」というご質問なのだと思うのですが、高学歴者や有名大卒でないと経営者になれないということはありません。ただし、今からでもそれなりの努力は必要です。

例えば、経営を目指すにあたりそのステップとしてメジャーな戦略コンサルティングファームに行くことを考える方もいます。ただ、そこでは一流大卒やMBAなどの高学歴であることが求められるので、マイナーな大学卒の方の場合、海外のメジャーなTOPクラスMBAに留学して、その道を切り開く必要があります。かなりの努力が必要ですが、それを実現させている人は実際にいらっしゃいます。 その実現可能性については、ご自身の頭脳や英語力に照らして考えてみてください。25歳から28歳までに努力すれば、チャンスはさらに広がるでしょう。

一方、高学歴、有名大卒でなくともさまざまな会社、様々な業界で経営者になることは可能です。営業として秀でた能力や実績があり、そして経営に必要な本質をしっかり認識していれば、それは実現可能なのです。ただ、やはり努力は必要で、学歴ということではなくとも、企業財務、会計、マーケティング、組織論などの経営の知識、そしてそれらを議論する力、さらには実際に社会、市場で何が起きているのか見る力も必要です。MBAでなくても構いませんが、専門書等を活用するなど知識を習得していきましょう。また、外資系企業に転職したければ英語も実践的に学んでおく必要があります。

そのような知識や見識を会社に依存せず、自らの努力で獲得しましょう。

 

3)営業マンが経営者になれる機会の多い会社を選ぶ

営業が得意な方が過去に経営者になったケースをみると、小売り・流通、商社、サービス業、IT/ソフトウェア、インターネット/モバイル、コンテンツビジネスなどが多く、大手製造業などは少ないようです。 違う見方でいえば、ベンチャー企業が多いとも言えます。 ベンチャー企業でも大手企業でもないケースということでは、中堅オーナー系企業などで、同族以外で能力のある社員を経営陣に登用するなど合理的に経営している企業に多く見られます。 詳細は省きますが、それぞれ営業から経営に入りやすい傾向と理由がありますので、そうしたチャンスが多い会社を選ぶというのは重要です。

 

4)セールス職を軸に、セールス以外にも職責を広げる

昔のように、「営業、マーケティング、管理と、部門をローテーションしていけば経営者になれる」、あるいは「会社のいろいろな部署や職種を経験することで全体を理解することができるようになり、さすればおのずと経営者になれる」という考えは、今や妄想と言えます。そのような人材は、極端な言い方をすればその会社でしか通用しない人材であり、結局経営のことを深く理解していない人材、経営判断を誤ってしまうかリスクをとれない経営者となってしまう可能性が高いようです。 また、経営企画室などの全社戦略や経営管理に携わるような部門で経験を積んだとしても、それで経営者になれるわけではありません。その様な部門にいなくとも全社の戦略を理解することはできますし、むしろ部門の責任者として実績があれば、経営者になれる可能性はより多くあるように思います。

一般的に、優秀な営業マンはまず自分のことを売り込めるといいますが、これは重要なポイントだと思います。自分のこと、自社こと、そして自社の製品、サービスを売り込むことが上手なわけです。そして売り込みが上手な方は、顧客のニーズをつかむことが上手であることが多いようです。だからこそ、ポイントを外さず売り込めるのだと思います。しかも今求めているものを理解するだけではなく、この先顧客が求めるだろう潜在的なニーズや顧客がまだ理解していないニーズ、インサイトまでつかんでいる場合があります。 ここまで把握できれば、すでに単なるセールスではなく、マーケティングをも行っていることになります。そして優秀なセールスは、さらに多く売るための努力として、関心の領域や業務の範囲を商品の流通、販売チャンネル、売り方、時期、価格にまで広げ、さらには商品や製品の仕入れ、購買、商品開発にまで関わってゆきます。さらには、コストも見るようになり、ついには利益にまで責任を持つようになってくれば、一人の営業マンではなく経営に足を踏み入れることになるのです。

そうなれば当然、セールス以外の他部署との交渉も不可避となり、他部門を巻き込んで動かす交渉力、リーダーシップ力も備わってくるでしょう。同時に会社全体の利益を考えるようになり、そのための様々な経営の課題に直面するようになります。あるいは、顧客のニーズに応えるため、さらに低コストで高品質のものを提供するために、企業提携やM&Aといった投資活動も選択肢となってくるかもしれません。こうなると、その仕事は完全に経営者の領域です。

このように営業職からスタートしたキャリアであっても、自己の成長が会社の成長とリンクし、結果的に、経営者としてのキャリアにつなげていけることも十分考えられるのです。

 

5)経営者になる条件

漠然と経営者を目指しても経営者になれることはありません。 経営者を選ぶのは、社員による選挙でもないし、時代の偶然でもない、ましてや営業マンとしての実績だけでもありません。経営者を選ぶのは「株主」です。公開企業でも未公開のベンチャー企業でも、再生中の企業でも、成長中の企業でも、資本主義社会の中では、すべて株主が経営者を選ぶのです。従い、経営者になるには組織の長として社員が認めるリーダーであるということだけでは不足で、「株主から評価される経歴となることが必要になります。その職務経歴書に、経営者候補となり得る知識やスキル、経験、それに伴う実績を書き込むことができれば、スカウトの声がかかりチャンスが芽生え、株主から「やってくれ」と経営を任されるようになるでしょう。 逆に言えば、職務経歴書に書き込めるようにスキル、能力、経験、実績を、如何に積んでいくかが大事なポイントになります。

 

ところで、天才的な営業マンが営業マン時代には実績がよくても、管理職や監督者になりチームの成果に責任を持つようになると、とたんに営業実績を出せなくなることがしばしば起こります。野球やサッカーなどスポーツの世界でもよくある話ですね。やはり、リーダーとしての条件もしっかり認識した上で、キャリアを積んでいただきたいと思います。

エンジニア出身者が経営を目指す場合、財務会計の人が経営を目指す場合でも、同様の課題は存在します。営業マンが経営を目指す場合も、営業マンとしての長所を生かしながら、営業部門のみならず、いろいろな職種の社員が「働きやすい会社」であるための経営ができるリーダーとなっていることが大事です。営業マンの育成のみならず、部門のリーダーとして著しく会社に貢献していることが通過点、経営者となる条件といえます。過去に営業マンから経営者になっていった諸先輩方は営業以外の部門で成果を出しているわけではありません。営業マンを育て、新たに採用、育成を行い、部門をリードすることで実績を出し、会社に貢献していることが共通点といえます。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)