転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第91回
2010.08.19

消費財メーカーの営業職からブランドマーケティングの職を目指すには?

社会人になってから3年間、消費財メーカー(ホームプロダクト関連)の営業をやっています。エリア担当として実績を出していますが、最近、マーケティングに興味を持つようになりました。

私が勤めている会社には、マーケティングという発想はなく、マーケティングの部署もありません。研究所、生産工場、営業、というシンプルな組織で、役員のアイデアで商品開発を行っています。できれば消費者の視点で商品開発をしているメーカーでブランドマーケティング職に就きたいと思っていますがマーケティングの経験はありません。どうすればよいのでしょうか?アドバイスをお願いいたします。

Answer

お勤めの会社に本当にマーケティングの機能がないのだとすると、転職するしかないと思いますが、やみくもに応募されても要件を満たしていなければ採用に至る可能性は低いでしょう。

実際、一般消費財メーカーのブランドマネジャー、プロダクトマネジャー、マーケティング部門のスタッフ職などの募集要件を読みこんでいくと、「マーケティング業務の知識・スキル・経験が必要」というような記載が多いことがわかると思います。そうした知識・スキル・経験を身につけ、応募要件を満たしてくださいというのでは回答になりませんね。マーケティングの経験がないとその仕事に就けないのであれば、永遠にマーケティングの仕事に就けません。どうすれば未経験職種につけるのか?その点が今回のご質問のポイントになるのだと思います。

 

まず、もう少しあなたの現状を考えてみましょう。

職歴3年なら、ビジネスパーソンとしての基礎ができているはずです。若さというのも一つの武器になります。しかし、それだけでは他の候補者と変わらず、採用側が貴方を選ぶ十分な理由にはならないでしょう。ただ、幸いにも貴方は一般消費財のセールスをされていますので、マーケティングがいかに重要かは経験で理解されていますね。その経験から何故マーケティング職を目指すのか肉付けされれば、強い志望動機が説明できると思います。「志望動機」はとても重要な要素です。単なる思いつきやイメージだけでやる気をアピールするだけの方よりも、より具体的にマーケティングの重要性を感じ、それを志望する理由を伝えることができれば、しっかりした考えがあり、向上心や意欲の高い人材として評価してもらえるはずです。

しかし、それだけでもマーケティングの職に就くには不足でしょう。志望動機を明確にしても同様なアピールをする人はきっといますし、もっと直接的な経験、すなわちプロダクトマーケティングや、マーケティングリサーチ、広告宣伝関連の経歴をもった候補者がいれば、企業はそちらの候補者を採用するはずです。当たり前ですが、成果を上げる可能性が高い人材として、未経験者より経験者を採用したいと思うのは当然のことです。

 

では、どうすればよいのでしょうか?

実際に、同様の課題を乗り越えて、マーケティングへのキャリアチェンジを果たし、成功された方のパターンをいくつかご紹介しましょう。

 

1.ツー(2)ステップ作戦

ブランドマネジメントをしっかり展開している会社に、まずはセールス職で転職。セールスで成果を出して、社内転職でマーケティングの職に就くプランです。これが一番現実的です。実際、化粧品メーカーやスポーツアパレルの会社、PCメーカー等で、こうしたキャリアチェンジを果たしている方が多くいらっしゃいます。

ポイントは、セールスからマーケに変われるかどうかを、入社前に確認しておくことですね。そうした事例がある会社であれば、これが営業職(マーケティング未経験)からマーケティング職に展開する最も有効なプランになります。

なお、一旦リサーチ会社や広告代理店、マーケティングプロモーションの会社などに転職して関連の経験を積み、その後本来の希望であるメーカーのマーケティング職への転職を狙う人が多くおられますが、成功率はそれほど高くありません。経験できるビジネススケールが違ったり、経験領域が専門的になりすぎてメーカーでもとめられるマーケティングの一連の業務の経験が持てなかったり、逆に専門性が求めるレベルに至らなかったりと、案外その後のメーカーサイドへの転職はうまくいかないものです。独りよがりのプランとならないよう、本当にメーカーのマーケティング職に転職するのに必要なスキルや経験が身につくのか、しっかり検討しておきましょう。

 

2.徹底した準備でマーケティング職即戦力となることをアピールし、応募

「やりたい、やらせてほしい」ではなく、「やれる」ことを示し、採用してもらうプランです。そのために、徹底した準備をします。

まず、マーケティングの知識について徹底的に学習、修得します。マーケティングの専門書でも講座でもかまいません。コトラーなど基本の理論から最先端のソーシャルマーケティングの理論まで、10-20冊あるいはそれ以上の書籍を読むくらい、徹底的に知識を身につけます。それだけでは「やれる」ことを証明するのに不十分なので、応募先企業の商品研究を徹底的に行い、さらに競合他社商品についての研究も行うなどして、応募先企業のマーケティング戦略や施策を深く理解し、自分なりのマーティングプランを準備します。

そして、応募時から、「御社のマーケティング施策を徹底的に勉強してきました。・・・という点など大変素晴らしく、感銘を受けました。さらに自分なりに・・・というようなプラン/商品を考えてみました。ぜひ実践で成果を上げたいと思うのでチャンスを下さい。」などとアプライするのです。

ある飲料水メーカーに応募された方の例ですが、100本以上の商品を試飲して研究資料を作成し、自分なりのマーケティング論を展開できるだけの準備を行い面談に臨みました。内容もよかったのでしょうが、何よりその意欲と姿勢を買われ、見事採用されています。

飲料水は価格が安価だからそのような準備ができるが、自動車やラグジュアリーではそのようなことは事前にできないなどと考えないでください。すべての商品について購入し試してくださいと言っているわけではなく、できる限りの準備をし、能力・意欲・取り組み姿勢を示し、「できる」ことをアピールするのが重要と言っているのです。

どんなものでも、ショップ、販売店に足を運んで自分なりにリサーチしてみる、関連の専門誌や消費財関連の雑誌の全てに目を通しておく、評論家の論評を見る、サイトで一般情報、ユーザーの声を収集しまとめておくなど、商品研究の方法はいろいろ考えられます。今はインターネットでかなりの情報が得られるはずですので、これらを上手く活用して自分なりのマーケティング論を準備しましょう。

採用側が、「そうした取り組みができる方であれば、マーケティングの経験がなくとも入社後成果を上げる可能性が高い」と考えるのは、決して不思議なことではないのです。

 

3.MBAでマーケティング理論を身につけ、その後マーケティング職を目指す

海外MBAでマーケティングを専攻しMBA取得後、外資系一般消費財メーカーに転職するというパターンが考えられます。また、MBA卒業後、一旦戦略コンサルファーム、マーケティングコンサルファームに入社しマーケティング戦略の立案等で実務経験を積んだ後、消費財メーカーなどに転職するという方もいます。

 

今回、ブランドマネジメントの仕事に就くためにどうすれば良いかだけに回答しましたが、本来、このマーケティング職についた後のキャリアパスという点を考えれば、マーケティングの表層的な知識だけを学ぶのではなく、ビジネス全体、経営の次元でマーケティングを捉え、戦略に落とし込む考え方を習得しておきたいものです。そのためにも、MBA取得は有効な手段となりえます。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)