転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第85回
2010.05.13

応募中の企業について悪い話を聞いた。心配なので辞退しようと思っているのだが…。

現在、転職活動中の34歳です。一社、二次面接をパスして最終の社長面接を来週に控えている会社があるのですが、先日、その会社の悪い噂をたまたまインターネットの掲示板で見つけてしまいました。それは、社長がかなりのワンマンで、社員はそれが嫌で皆退職してしまうというもので、それがすごく気になっています。確かに二次面接でも、「うちは退職率が高いが君は大丈夫か?」と聞かれました。

あまりのワンマン経営なら自分もついていけないのではないかと心配になってきたのですが、最終面接は辞退したほうがよいでしょうか。

Answer

高い退職率やワンマン経営者への懸念ですね。良く聞く話です。

ただ、ご質問からは、それくらいの噂で判断するのはあまりにも軽率すぎと思います。もっと情報を集め、自分の目で確かめ、良く考えましょう。

前回もお話しましたが、若い成長期のベンチャーなどがよい例で、そもそも組織の新陳代謝はある程度必要であり、人の入れ替わりがあることも、決して悪いことではないものです。また、オーナー経営者や創業社長がワンマンであるといわれるのも常であり、ワンマン経営=悪いとは言えません。

今や誰もが知っている超優良ベンチャーも、大成功しているインターネットベンチャーも、そのTOPのほとんどが、かつては(中には今でも)ワンマン経営者と呼ばれています。カリスマ経営者と称される方など、当然ワンマンです。むしろ、そうした優れた経営者が、(たとえ多少の周囲の反対があっても)素早い意思決定やリスクをとる判断をされてきたからこそ成功し、成長したのではないかとさえ思います。

また、ワンマンといわれる経営者が全く周囲の話を聞いていないかというと、それも、そうとは限らないでしょう。社員の意見を聞いて、その上で意思決定をしているものの、その意思決定に至る考えをすべて説明し、関係者全員の合意をとることに時間を割けないだけかもしれません。

そこをつなぐラインマネジャーや現場のリーダーがいればよいのですが、なかなかそれができる人材もいないものなのです。余談ながら、ほとんどすべてのベンチャーの社長が、この悩みを抱えているのではないかと思います。権限委譲や後継リーダーの育成はなかなか難しいものなのです。

 

ここで、以前あった実話をご紹介します。

Xさん(当時34歳)は、某ベンチャー企業A社の最終面談で社長と会うことになっていました。

面談の当日、そのビルの入口に差し掛かった時、エレベーターから自分より少し年上と思われる人が降りてきたかと思うと、おもむろに「君、採用面談に来たの?」と聞いてきました。

Xさんが「はい」と回答したところ、「この会社は止めておいたほうがいいよ。社長は社員の言うことに耳を貸さないワンマンだ。私も1年、この会社のことを考えて散々努力してきたが、傲慢な社長は耳を傾けないし、やる気のない社員を意識改革しようとしても孤軍奮闘で無理だった。この会社は成長する会社じゃない。絶対にやめておいたほうがいい。私も今、辞表を出してきたところだ。」と捨て台詞を残して、立ち去ったそうです。

Xさんは、それが気になりつつも社長との面談は盛り上がり、つつがなく終わらせることができました。

そして「ぜひ入社してほしい」と正式な内定/オファーをもらえたのですが、Xさんとしてはどうしても気になる、この退職者のコメント。

確かに、社長との面談でもその豪腕ぶりはうかがえ、話を聞かないワンマンと言われればその様に見えてしまいます。

なお、Xさんは、実はもう1社別の会社からもオファーをもらっていました。そこでXさん、このA社はやめてそちらに行こうとほぼ決めて最終の相談をされてきたのですが、私は次のような助言をしました。

「貴方は、自分という会社の経営者であって、どの企業に(自分のキャリアを)投資するかの経営判断をするのだと思ったらよい。当然、印象だけで判断するようでは会社の経営はできない。気になること、リスクと思うことがあればできる限りの情報を集め、事実に基づいて判断すべき。すべて情報が揃うことがないかもしれないが、少なくとも、まったくの赤の他人の言葉や風説だけで判断してはいけない。そんな噂レベルのものは、まず貴方の利益など考えたものではなく、むしろ、その話をする本人の利己的な目的によるものであり、偏った見方からくるものであることのほうが多い。」

するとXさん、ベンチャー企業A社の成長性が魅力であったことを考え、もう一度行動を起こし、二点、自分の目で確かめることにされました。

  • 再度、若手社員と会ってみたいとA社に要請し、そこで実体を聞き出す。
  • 社長に対して自分の意見をぶつけてみて、その反応をみる。「本当に人の意見に耳を貸さない人なのかどうか、採用したいからといって繕っていないか?」という点を、自分の目で確認。

このプロセスで、Xさんは捨て台詞を残して去った方について、A社の社長にストレートに質問されました。その回答では、「率直な意見を言ってくれる社員だったので大事にしたかった。能力もあった。私も強引に物事進めていくタイプだが、それをしっかり理論武装してフォローしてくれる本当に良い社員だった。ただ正論は言うものの独りよがりで、周りから協力が得られないタイプだったと思う。その点がとても残念。強引に物事を進めるにはそれなりの協力が得られるリーダーでないと駄目で、そのバランスが彼にまだ備わっていなかった。」と総合的には、褒めていたりしたそうです。

A社の社長は、加えて「少し学歴の高い人は、この会社はだめだとか、社員の能力が低いと言って去ってゆく。そんな時はいつもすごく嫌な感じがする。会社に合った人がいいと思う。能力高い人がそれなりに成果を出してくれればよいのだが、理屈ばかりの人はやはり周囲がついてこないし、その点からすると、辞めてもらってよかったのかもしれない。」という話もされました。

この話を自分の耳で聞いて、XさんのDue Diligentは終了。

結果、A社についての不安・疑念は晴れ、一転、A社へ入社を決意されました。

どんなリーダーがその会社で求められているのか判ったため、安心して、そして自信をもって入社を決意することができました。逆に自分も学びができて良かったとおっしゃっています。

 

さて、話は戻ります。

貴方が面接で「うちは退職率が高いが、君は大丈夫か?」と聞かれたことにはどんな意味があるのでしょうか?もし、そこが俗に言われるブラック会社なら、事前にそんなネガティブなことは言わず、むしろ「うちの会社はとてもいい会社だよ」と言ってくるのでは?

なぜ、そんなネガティブな情報を貴方に伝えるのでしょうか? また、何故、退職率が高いのでしょう?どんな理由で辞めているのでしょう?そもそも、退職率が高いというものの、具体的にどれくらいなのでしょう?

その言葉にどんな意味があり、何を期待され、何がメッセージされているのかをしっかり読み取らないといけません。

それを踏まえて乗り越えられる人に来て欲しいということかもしれませんし、そんな状況を改善してほしいという期待かもしれません。あるいは、実際にはそれほど退職率が高いわけではなく、ベンチャーならそれくらいは仕方なしといえることかもしれません。もう一度、考えてみてください。わからなければ、直接聞いてみてもよいかもしれません。

 

最後に、もうひとつ。 貴方にとって乗り越えられないリスクがあるのだとしても、最終面接前の辞退はせず、オファーをもらってから辞退されると良いと思います。

断ること、壊すことは一瞬ですが、何かが生み出されるのには、時間も、苦労や苦痛もともないます。

後日談ですが、そのXさんは、入社後半年もたたない間に赤字子会社の立て直しで力を発揮されました。ボトルネックをみつけ、収益性の改善をスタッフと一緒に行い、見事黒字化させました。

そのあとさらにその会社を伸ばそうとしていたところ、そのタイミングで別の会社の買収を社長が決め、急にその会社の経営を任されることになりました。入社後1年足らずで子会社を任されたのです。

Xさんは、今ではエレベーターの前で、「この会社、とんでもない、入社しないほうが良い」と助言してくれた方に感謝しているそうです。あれがなければ深く考えることもせず、入社はしなかっただろうと。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)