転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第74回
2009.11.05

オーナー企業のターンアラウンドを任せたいといわれているが…。

友人経由で、ある企業の再生を依頼されているが、どうしたものか苦慮しています。
私は現在45才で、外資企業の役員をしています。これまで、製造業で財務会計の経験を持った後、MBAを取得し、その後戦略コンサルティングファームで3年、そして外資系のコントローラ、経営企画管理などの経験を経て現職に就きました。外資系企業の日本支社にて、支社長と一緒に戦略変更をやりとげた経験があるので、今回声がかかったのだと思っています。

内容は、「社歴約50年、売上規模約100億円、社員数130名程度、製造販売を営む会社の再生を担ってほしい」というものです。黒字会社ながら現在の社長、役員に任せていると5年後の経営状態が極めて不安ということで、創業オーナーから依頼がありました。

このオーナーは、創業家で株式の大半を保有しているもののここ最近は経営にはタッチしておらず、創業家復権ともいえる案件です。財務状況や経営状況全体を見せてもらいましたが、今手を打てば破綻を免れるどころか、充分に成長させることもできる状況であると判断しています。なお、公開を目指すかどうかは不明ということでした。

オーナー系企業の再生は始めてであるし、採用側が過剰に私に対して期待しているとも見て取れ、盲目的にやってくれと言われていると感じなくもありませんが、それでもやってみようと思っています。 ただ、「やって欲しい」といわるばかりで具体的なタイトルも処遇の提示はなく、自分から申し出て欲しいと言われています。

どのように提示すればよいでしょうか?また、提示の仕方と合わせ、自分の力でやり遂げられるかどうか、第三者の意見を伺いたいところです。

Answer

ご質問は、求められるミッションと責任・権限・報酬の問題ですが、もう一つ、「合意形成のプロセス」が重要でもあります。
このような事業承継にからむ仲介・サーチの場合、こと細かく双方の思惑を確認・調整してゆくことが重要で、我々もそれなりのノウハウを持っているものなのですが、残念ながらその全てをここでご披露することはできません。お話しできる範囲でそのポイントをご案内いたします。

まず、とるべきプロセスから。

簡単に言えば、「合理的」な部分も、感情的な「情理」の部分も、両面でしっかりとすりあわせしておき、合意をしておくということです。お互い聞きにくいことも聞き、わかっているだろうことも改めてテーブルに上げて確認し、決めておくべきでしょう。

必ずしも細かいことまですべてを決めておくということではありません。スタート時のタイトルや権限、報酬だけではなく、「何を成功とし、何を失敗とするか」や、「成功したらこう」とか「失敗したらこう」といった将来に対する事象を議論し、合意しておく必要があるということです。

創業家の経営を引き継ぐというのは、かなり難しいものです。その創業家が経営をわかっていない(経験がない)のであれば、尚更といえます。例えば、「生き残った後のさらなる発展のため、創始者が始めた事業を止めたい」という戦略を考えた場合など、はたしてその意思決定ができるか、きわめて微妙なところです。創業家の事業への思いや将来像など、かなりしっかりと合意し、お互いの理解を深めておく必要があるでしょう。他にも、確認しておくべきことは大小、様々あると思います。

「そんな話は聞いていない」とか「そのようなつもりではなかった」とか、お互い当たり前だと思っていたところの認識違いが火種となり、2~3か月も経たないうちに、創業家ばかりか社員からもNGを出されてしまうというのはよくある話です。スタート後にそのようなことが起こらないよう、「ビジネスとして当たり前」と思われるようなことまで、話し合ってみてください。

続いて、責任・権限・報酬の内容についてです。

常識的な範囲でお答えすれば、COO(執行役員)か役員(取締役)のどちらかとなると思いますが、取締役でない名称だけの執行役員などではなるべく受けないほうが良いでしょう。ましてや課長、部長職で入社したのでは十分な権限がなく、ターンアラウンドは難しいと思われます。

ただ、お話からは、採用側(創業家)はプロの投資家でも経営者でもないと思われますので、貴方から提示するのであれば、あなたの見識、経験が最初から試されるともいえます。
常識的な範囲で、良識を持って提示しなくてはならないでしょう。(表現は悪いですが、吹っかけて交渉するというやり方は、信頼を損なうだけなので止めたほうがよいということです。)

その報酬は、通常、現金部分と成果報酬、元株、場合によってオプションなどのその組み合わせは様々で、その額も、現金報酬部分で見ても、1000~3000万円までかなりいろいろなケースが有り得ると思います。業界によっても異なります。

以前、少し違うケースながら、「ベンチャーの再生を担う人材」を探したことがありました。売上規模は15億程度の未公開ベンチャーでしたが、はやばやと再生が必要になり、株主(起業家ではない)から要請されて人材を探しました。ご紹介した人材は、結果的に監査役360万円からのスタートでお話を受け、その後いろいろな経理、財務、経営企画、管理までやらざるを得なくなり、半年経たない間にそのままCFO常務に就任されました。職責の拡大により、報酬面も1500万円に上がり、ストックオプションも自分で制度設計・導入し、当然、役員として自分も支給対象として発行されました。3年後、見事株式公開を果たした際に、「のりかかった船だと思い頑張った。苦労したが、やって良かった」とおっしゃっています。

なお、この創業社長は若く、なんでもこのCFO常務を経営のパートナーとして心から信頼していたそうです。監査役から一気にCFOになられ、IPOを果たされたのは、なによりこの信頼関係・人間関係があってのことと思われます。

最後に、「やり遂げることができるか?」というご質問について、お話しいたします。

オーナー系企業の再生の経験がないご自分にこの役が務まるかというご不安と思いますが、以下について今一度お考えいただきたいと思います。

「厳しい判断をする、意思決定能力とそれを実行するリーダーシップ」と「明日、解任されるかもしれない中でやっていく覚悟と自信」です。

求められるものが企業の再生であれば、株主や社員にとって厳しい判断をせまられるもあるでしょうし、少なくても今までどおりとはいかない経営判断をし、断行することになるでしょう。何かを止める、減らす、諦めるなどのマイナス面の決定と同時に、始める、増やす、チャレンジするというプラス面の決定、そしてそれを実行してゆくリーダーシップが求められます。これをやりきる自信があるかどうかが重要です。

そして、役員以上で入社されるとなると、雇用の安定はなくなります。常に結果に責任を負わなくてはならず、いつでも解任されるリスクがあるのです。その中で経営を担い、すべてを背負う覚悟が求められます。
足元の話をすれば、そのようなことが万一あっても、自分の家族も含め生活を維持できるか、自己判断しておく必要があります。

以上です。

結局人間同士のつながりの強さや信頼関係がもっとも大事といえますが、そのためにも「求められるものは何か?」、「その報酬は?」などの合理的な議論、徹底した相互理解と合意をしておくことが必要といえます。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)