転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第65回
2009.06.11

第一志望である外資系企業からのオファーが遅れているが、どうしたらよいでしょうか?

33歳、海外MBA留学から帰国し、現在、就職活動中です。留学前は半導体メーカーの海外営業、マーケティングを経験しています。先ごろ戦略コンサルティングファームからは正式な書面での内定(オファーレター)を得ましたが、より志望度の高い外資系事業会社からは、口頭でオファーの意向である旨の連絡をもらっているものの、正式な書面の発行はまだであり、いつ発行されるかも明言されていません。

自分としては、戦略コンサルティングファームではなく外資系事業会社に入社したいと考えているのですが、どうしたら良いでしょうか?

Answer

今回は、「キャリア開発における本質的な質問」ではなく、「テクニカルな問題」かもしれませんね。

質問者(以降、Aさんとします)のキャリアプラン上、外資系事業会社(以下、外資系C社とします)が戦略コンサルティングファーム(以下、コンサルB社とします)よりも最良の選択だという結論が(吟味に吟味、熟考を重ねた結果、)すでに出されているという前提でお答えしましょう。

まず、コンサルB社のオファーが取り消されても良いという覚悟があれば、純粋に「外資系C社のオファーがでるように引き続き自分としてできることをやり、結果が出るまでとにかく待つ」という単純な問題になりますが、おそらくAさんとしては、「志望度の高い外資系C社の正式オファーが出ないなら、コンサルB社のオファーを受けたい。どちらも逃し、就職先がなくなるということは避けたい。」という状況と推察いたします。

それを踏まえると、まず取るべき行動は、コンサルB社のオファーに対する回答期限をしっかり確認すること。そして同時に、外資系C社から何故オファーが出てこないのか、その遅れている理由を調べてみることでしょう。

一般的に戦略コンサルティングファームのオファーは、回答期限が定まっている場合と定めのない場合と両方あります。定めがないのであれば何ら問題なく、外資系C社の結論が出るまでそれを保持するだけです。「じっくり考えて検討したいので、回答までしばらく時間をください」と伝えておけばOKでしょう。 ただ、オファーレターに期限の明記がなくとも、「いついつまでに回答してほしい」と言われる可能性はありますので、しっかり確認することが大事です。

悩ましいのは、戦略コンサルB社の回答期限が設定されていて、事業会社の正式なオファーレター発行がそれに間に合わないと推察される場合です。当然、それが予測されるからこそのご相談だと思いますが、実は、間に合わない理由によって取るべき応対も変ります。

すべてのケースを網羅することはできませんが、過去にあった事例をもとに対応を考えてみましょう。

1)本社決裁待ちの場合(プロセス/手続き上の問題の場合)

採用決裁(=オファーレターの発行)が本社承認を必要としているケースで発生します。 ディレクタークラスなどのハイクラスポジションでは本社承認が必要となることが多いですが、現在のような不況下、業績不振などでコスト削減を進めている時など、日本支社の採用決済権が一時的に弱くなったり、採用計画そのものにフリーズがかかったりしていて、スタッフクラスの採用でさえも本社の承認が必要になることがあります。

この場合、日本支社長や人事のトップの方が「大丈夫。手続き上の問題だけだから。」と言っていたとしても、それを鵜呑みにしないこと。予想以上に時間がかかり期限に間に合わないことはもちろん、最後の土壇場で本社の承認が下りず、最終的に正式なオファーはもらえなかったというようなケースは、過去幾度となく起きています。オファーレターのドラフトまで出してもらっても、最後の承認印がもらえず話が流れてしまうケースもあるのです。 よって、口約束だけでお話を進めるのは危険で、本社承認(正式なオファーレターの発行)は絶対的に必要なものであると考えましょう。

(対応・対策) 外資系C社の日本サイドの方と相談しながら、いろいろな手をつかって早期にオファーを出してもらえるよう、対策を講じるということになります。 具体的には、自分は貴社(外資系C社)に入社したいという意思をしっかりと伝えつつ、他社(コンサルB社への回答期限)が迫っていること、そちらの回答期限までに正式なオファーレターを発行してもらえないとコンサルB社に決めざるを得なくなるかもしれないことなどを誤解のないように伝え、本社を含む関係者にも通知してもらい、とにかく急がせるということです。

日本サイドも、本気で採用したいと考えているなら、そしてAさんが本気で自社に入社したいと思ってくれていると感じたなら、本社にできる限りの折衝をしてくれるものです。後は、そのために有効となる追加的な交渉材料をうまく提供することですね。

具体的な過去の事例には、追加的なリファレンス(推薦者からの推薦文)、志望動機書、「入社後このようにしようと思う」などの提案書などを自発的に用意し、意欲や志望度を伝え、本社の決済を期限に間に合うように動かしたというものが複数あります。

それでも、どうしても期限内に決裁が間に合わず、正式なオファーレターの発行がされなかった場合はどうすべきか?

当たり前ですが、まずはコンサルB社の回答期限を延期できないか打診してみましょう。

ただ、そううまく延期はできないことのほうが多いので、回答期限の延長がかなわないなら、『コンサルB社の選択を断念してまで外資系C社の結果を待つかどうか』を状況をみて判断することになります。 その際、先ほど申し上げた通り、(特にこの時期は)本社決裁が下りないということも十分あり得ますので、しっかり考えましょう。

2)本社決裁待ちの場合でプロセス/手続き以外に問題がある場合

過去には、似たケースながら本質が全く違う理由であるというものありました。 それは、日本サイドと本社サイドでオファーの内容や諸条件の合意ができておらず、最終承認に至っていないというケースです。

一見、「本社の承認待ち」という言葉では同じに聞こえてしまうのですが、1)のケースと違い、急がせるだけではうまくいきません。

(対応・対策) まず、日本サイドと本社サイドでどこに齟齬があり、交渉や調整が必要なのかを明らかにしていく必要があります。ただ、聞きだし方などが難しく、エージェントが間に立たないと本当のところは探れないかもしれません。

うまく聞き出せた場合、あとはAさんがご自分として譲歩できるポイントを明確にし(たとえば年収を下げるとかポジションのタイトルについては本社の意向を受け入れるなど)、お互いに調整をすることができればOK。ことは一気に進むはずです。 ポイントは、日本サイドとしっかりと本音で話し、譲歩できる部分と譲歩できない部分とを正確に共有することですね。

単なる手続きの問題か、それ以外の理由があるかしっかりと探る必要がありますが、この「本社決裁待ち」は一番多いケースといえます。

3)候補者に言えない事情・理由がある場合

こちらはさらにやっかいです。

例えば、別の候補者を第一候補として進めて、Aさんが第二候補としてキープされている可能性もあります。

Aさん自身では、口頭でオファー(内定)をもらったと認識していても、実はリップサービスの範囲であって、外資系C社としては、「有力候補だ」という程度ということもありえます。

一般的に、外資系の人事は非常にフェアーながら一方で話し方がとてもうまく、候補者を引き付けるのが上手であるものです。

(対応・対策) こちらも、やはり先方の言うことを鵜呑みにしないことから始まります。 疑ってかかれというわけではないのですが、リップサービスである可能性も考えておくということです。

ただ、第二候補と思われていても落胆する必要はまったくありません。 採用側もとても欲張りであるので、想定予算などでは採用が無理と思われる「高嶺の花」のような候補者を追いかけているだけというのもよくある話なのです。 重要なのは、たとえ第二候補と思われていようとも、入社して成果を出して、採用側に『この人に来てもらってよかった』と思わせること。実際、このような事例は枚挙にいとまがありません。

では、こういう「第一候補がオファーを受ければ、第二候補であるAさんを断るつもり」というケースで第二候補者となってしまった場合は、どうすべきか? それは、貴方(Aさん)は、第二候補者であるものの、志望度(入社の意思)が高いこと(正式オファーをもらえば即決すること)を示しつつ、他社回答期限があるので、そちらに決めてしまう可能性もあることも示し、先方(外資系C社)にプレッシャーをかけるのです。1)のケースの対応に近いですが、よりプレッシャーをかけ、先方の「第一候補者と第二候補者のどちらも失うことは避けたい」という心理を突きます。

外資C社が、第一候補が高嶺の花であると認識し、第二候補者であるAさんを、「誠意があり入社意欲の高い人物である」と理解すれば一気に形勢逆転、第一候補者をあきらめ、第二候補者のAさんにオファーとなる可能性が高まります。そのためにも、他社に決めてしまうかもしれないというプレッシャーを与えつつも、「他社オファーを断るつもりがあることや意欲が高いこと」をしっかりと示すことが重要です。

4)候補者に言えない事情・理由がある場合 その2

他にも、候補者にいえない理由でありうるのが、Aさんのリファレンス(元上司や顧客からのコメント、レフリー)をとったときのそのコメントが、ネガティブな要素を含んでいた場合です。それが実にシリアスなコメントで、Aさんにオファーをすることが、最後に来てはばかられるということもあるのです。

それまではオファーの意向だったというのは事実でも、こうなるとその真実はAさんに明かされることなく、表向きは別の理由で破談となるということが一般的です。 特に、極秘裏にリファレンスをとられた場合など、Aさんはまったく推察がつきませんし、対処しようがありません。残念ながら、普段の行いがすべてというケースです。

5)候補者に言えない事情・理由がある場合 その3

Aさんに理由(非)はないが、外資系C社側の内部事情で遅れている可能性もあります。 突然の人事異動や戦略変更などが生じて、そのポジションでの採用計画そのものが議論されることになってしまうことはよくある話です。ただ、これも残念ながらあまり対処しようがありません。

ですが、意外にもよい方向に話が変わることもあります。 例えば、マネジャーでオファーするつもりがその上長のディレクター(採用面談者でもあった方)が突然退職を申し出て、そのマネジャーの採用よりも先にディレクターの採用をする必要が出てきたと言うケースがありました。そのケースでは、いったんそのマネジャー候補者の話はペンディングとなりそうになったものの、同候補者がディレクターのさらに上、社長からかなり高い評価を得ていたため、社長の一声でその候補者はディレクターでの採用となり、決着しました。

外資系大手企業でもベンチャー企業でも、役員クラスがインタビュー&評価している候補者の場合、高い評価を得さえすれば当初の話より上級職で採用されるというケースは多くあるものです。

以上、いくつかのケースをもとに対応を述べてきましたが、正式なオファーが遅れている時、重要なのはその状況や真意をしっかりと理解すること。そして、変にテクニカルな交渉に走るのではなく、自分の気持ちをしっかりと伝えて誠心誠意、最善を尽くすことです。そうすれば、おのずと採用企業側も、あるいは間に立つエージェントも、あなたのためにできる限りのことをしてくれるはずです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)