転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第64回
2009.05.28

キャリアチェンジとなる転職で気をつけるべき点は?落とし穴などないでしょうか?

現在43歳です。今までセールス、マーケティングの領域で経験を積んできました。 昨年、40歳を超えて初めての転職をしたのですが、転職先(外資企業)が事業を縮小することになり希望退職者制度に応募しました。1年もたたず思いもかけず事業縮小となってしまい、転職したことを悔やんでおります。入社時には見抜けませんでした。

40歳を越えた私には再度の転職は厳しいと思いますが、担当していたケミカルプロダクトは業界全体が不況であることを考えると、業界、職種を変えるキャリアチェンジをしなくてはならないだろうと想像しています。40歳を超えて前職と関連性の少ない仕事に転職をする場合、気をつける点があれば教えてください。

Answer

キャリアチェンジには、『業種』、『職種』の2つの軸があります。

常識的には、40歳で『業種』、『職種』の両方を同時に変えることは、採用側も否定的です。40代の未経験者を採用するような会社はないというのが常識だと思います。

しかしながら、『業種』、『職種』を2つとも変える転職があり得ないということはありません。

一般論でいえば、28歳までであれば、2つの軸を変えても成功の可能性は十分にあります。32歳までなら1つ変えても成功する可能性は高いですが、35歳以降の転職では、『業種』、『職種』を変えると成功の可能性は低くなります。 ただ、ここで私が言う「成功」は「大成功」を意味します。日本でトップ5やトップ10になるようなイメージです。

裏を返せば、「大成功」はあまり期待できなくとも人生の後半を再設計するということであれば、40歳を超えても『業種』、『職種』を2つとも変える転職はあり得るのです。 ゼロから始めるということができる機会を探せばいいということになります。

「ゼロから始める」というのは、もう少しありていに申しますと、350~500万円の年収からのスタートとなるということです。それで生活維持ができることが前提となりますが、そのレベルの報酬でよいとなればチャンスはあるのです。たいていの人はそれができないので、『新しい挑戦』ができないだけともいえます。たとえば、農業や社会貢献(NGOやNPO)、ベンチャー企業などに『新しい挑戦』のチャンスは多くあります。

では、そのようなフィールドで『新しい挑戦』を始めるとして、何に気をつけるべきなのでしょうか。

重要なのは、そのレベルの年収で再スタートを切って、その後何をやり遂げるか、どのような報酬を見込むのかという、キャリアの再構築プランそのものなのです。

ことお金については、アップサイドが最大どの程度まで上がるか(上がりうるか)をイメージしましょう。その後20年かけても600万円程度までなのか、800万円程度なのか、あるいは1200万円くらいまで期待できるのか、さらにその上があるのか?

(ただ、現実的には、ボランティアや社会貢献活動では、20年かけても年収2000万円を超えることはまずないでしょうが。)

何を申し上げたいかというと、特別に気をつけるべき「キャリアチェンジの落とし穴」があるわけではないということ。キャリアチェンジとなる転職においても、「報酬(お金)の問題」、「やりがいの問題」、「会社の継続性の問題」、「人間関係の問題」などなど、多くの重要な要素をしっかりと考えるべきであり、一般的な転職と何ら変わるものではないのです。

さて、質問をされた方は、「退職、就職活動をせざるをえず」という状況ですね。

「お金の蓄えがあるか否か」、「本当に今後の20年で何をやりたいのか」など伺う必要がありますが、一般的には、40代のキャリア設計を考える場合、『業種』、『職種』の2つとも変えるのは、やはり失敗の可能性が高いのでお奨めすることはできません。無謀と言えます。

たとえば、ケミカルプロダクトの製造業2社で、海外B to B領域でのセールス、マーケティング、市場開拓をリードしてこられた人がいたとしましょう。その方が、ひょんなことから戦略コンサルティング会社からオファーを得て、それを受けるべきかどうか悩んでいるとしたら、私は基本的には反対します。それは、業種も職種も異なるからです。過去の多くの方の例をみると、成功の可能性が極めて低いといわざるをえません。

経験を生かしたコンサルティングを夢想する人がいますが、経験だけではコンサルタントとして大成できるわけではなく、成功するにはもっと別の因子が多数必要となるからです。その要素をすべて掘り下げて検討し、OKとならない限り反対です。オファーを得たとしても(採用側が大丈夫と思っても)、自分で本当に大丈夫かどうか判断する必要があります。「オファーしてくれたらのだからきっと私に向いている。上手くいくはず。」と考えるのはあまりに安易であり、軽率です。しっかりと自問自答すべきと考えます。

繰り返しになりますが、「展開する軸」、「コンピテンス」、「要素」、「強み」、「起点」などいろいろな言い方があるものの、キャリアチェンジ(転職)で大事なことは、「次の人生の展開図」であり「目論見」なのです。

では、あらためてキャリアチェンジ(転職)の注意点を考えてみましょう。

まず『業種』、『職種』の2つの軸で考えた場合、「業種・業界をかえること」はあまり重要ではないかもしれません。例えばケミカル業界、石油業界、その他の素材メーカーなど、業界地図は最近になって変わってきたわけではなく、20年以上前から徐々に変化してきています。半導体、組み込みソフト、OS、アプリケーションなど、IT業界や通信業界なども境界が曖昧になってきています。家電メーカーとグーグルが競業か協業かは外部には簡単には判断できない状況になりつつあるのです。

たしかに業種・業界が変れば戦う市場は変りますが、それは今だけの話かもしれません。買い手が売り手になったり、隣の戦場だと思ったら主戦場になったりなど、5年、10年ですぐに変化すると思います。

よって、『業種』を変えることはそれほど大きなリスクではなく、むしろ『職種』を変えることに注意が必要といえます。

前の例でいうと、「B to B領域、セールス&マーケティング領域から財務会計や人事などに『職種』を変えると成功の確率は大きく下がってしまうが、『職種』を変えず、B to B領域、セールス&マーケティング領域など知見・経験のある領域で勝負すれば、強みは維持した転職が可能であり、次なる発展、そして大成功もまだまだ可能だ」と言えるのです。

最後にもう一つ、別のお話。

そもそも、転職で成功するかしないか(したかしないか)は、ご本人が将来にわたって判断するものだということもお伝えしたいと思います。『展職』となるかどうかは、あなた次第なのです。

過去にアクシアムがサポートしたキャリアチェンジの例を見ても、ご自分で「転職に成功した(展職となった)」とおしゃっている方に共通することは、「自分に正直になり、他人ではなく自分で自分の将来を熟考し、自らの判断で決心した」という点につきるように思います。こういう方は、自分の意思決定に責任を持っていますので、どうなろうと後悔しません。また、他人のせいにしたり言い訳をしたりせず、どんな困難にもまっすぐ立ち向かっていくので、結果的に成功する確率が高いのでしょう。

唐突ですが、元銀行マンだった楽天(株)の三木谷社長は、起業当時32歳でインターネットビジネスの経験も社長経験もありませんでした。『業種』、『職種』の2つともをチェンジしましたわけですが、それでも成功しました。きっと周囲の反対や批判も多かったことは想像に難くありません。

業界が違うから、職種違うからと、とかく他人は苦言や注意、批判などをしますが、自分で判断したのであれば、そうした周囲の声に引っ張られることなく、それを乗り越えるということがもっとも大事なことだと思います。みんな、本当にあなたのことをすべて分かって言っているわけではないのですから。

転職など大事な意思決定に際しては、過信は禁物ながら自分の感性や考え方そして能力を信じて判断することが大切です。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)