転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第38回
2008.04.17

50歳目前。自分の市場価値、外の業界での可能性を知りたい

ある外資系大手メーカーに勤務している49歳です。新製品の立ち上げや生産管理からスタートし、財務マネージャー・経営企画マネージャーを経て、現在は関連会社のマネジメントという立場にあります。現職を退職しなくてはならない状況という訳ではないのですが、50歳を目前にし、一度自分の市場価値を知り、外の業界でのキャリアチャンスを見てみたいと考えるようになりました。

理系の学部出身で技術系のバックボーンがあり、生産・品質管理あるいは部門・組織管理業務で実績を作ってきました。また、それを行うリーダーシップを磨いてきたと自負しています。このような経歴・年齢である私に、どのような可能性があるでしょうか? また、転職を考える際に注意・自覚すべき点などありましたらアドバイスをお願いします。

Answer

40代前半の方と50代前半の方で最も違う点は、その方が持っている「時間」です。つまり、40歳の方であれば60歳までの20年間をお持ちであり、50歳の方ならば10年間をお持ちということになります。それぞれのご相談に回答する際には、この点に留意し、異なるアドバイスを差し上げています。

年齢に関係なく、キャリア形成においては常に「適時」が大切なのですが、年齢だけは変えることができない要素でもあり、「時間」は個人が最も大切にすべき資本だと思います。「時間」の観点からすれば、50歳~60歳はリスクをなかなかとれない、リターンマッチをしにくい年齢といえます。

60歳以降の人生に必要なことは何なのか? そのために今からの10年を、どのように過ごすのか? 年収・職責のみに拘るのではなく、しっかり優先度を決めておくことが重要といえるでしょう。50歳になっても過去の経験を活かしたいとか、経験を買ってくれる所を探したいというだけの単純な目論見では、なかなか有意義なキャリアプランを描けません。もし所属していた業界そのものが斜陽産業なら、業界全体で求人がないということになり、そこに大量に同様のスキルや経験を持った人が溢れることになります。このような事実は、ややもすると見過ごしてしまいがちです。業界や職種を超えて50歳から自分が重視する点は何なのか? 答えを出すのは決して簡単ではありませんが、根本的な問いですので、よくご自身を振り返ってみてください。

また、いわゆる大企業に勤める人と中規模以下の会社で勤める人の間でも、キャリアに関する常識(価値観)は大きく異なるようです。大企業に勤める人の中には、50歳を越えてから転職市場に初めて出てくるケースが珍しくありません。一方、それ以外の人では、50歳までに転職を経験している人がほとんどになってきました。そのような転職経験の違いも影響して、2種類の人にとって、まったく異なる常識(価値観)が存在しているのだと思います。

大企業出身者は、転職市場に出て初めて会社の庇護・権威から離れることになり、自立(あるいは自律)してキャリアのリスクを判断することができない傾向にあると感じています。思い切って創業するとかベンチャーに就職してチャレンジをしてみるなど行動を起こしても、リスクを想定しきれずに何らか問題が起きてしまい、転々とするケースが良く見られます。多くの人と同じことをしてきた人が、他の人と違うことをするというのは大変なことなのかもしれません。他方、中規模以下の会社で勤める人は、意外にもその転職経験から、現実を直視して対応・選択する術(すべ)や価値観を身につけている場合が多いように感じます。

もし大企業を離れる選択をするのであれば、じつは40代がお勧めの年齢層になります。もちろん、リスクをとれるだけのスキル・知識・見識を得た上でのことですが。例えば45歳で創業や中小企業の経営幹部として挑戦し、失敗しても、まだ40代のうちに再挑戦することが可能です。経済の局面が変わって次のチャンスを得られるまで、我慢することもできます。

前段の説明が長くなりましたが、49歳である今回のご相談者の場合、リスクがとれない個人的なご事情はあるでしょうか? 例えば介護や子供の教育への責任があるという方なら、その支出額を基本に希望年収の設計をすることが重要です。キャリアの充実を優先させれば、場合によっては生活レベルを下げることまで考えなければならないかもしれません。ローンの支払いが終了している人と終了していない人でも、キャリアのプランは大きく異なることをご承知おきください。

ご相談者の場合。外の業界へ転身できるのは間違いなく、様々なチャンスが存在します。外資系でも日系でもニーズはあるでしょうし、大手企業の関連会社や中堅企業の海外生産部門などでもチャンスがあります。また、企業再生のため投資先企業の経営の合理化を図るプライベートファンドなどに貢献することもできるでしょう。もしリスクをとれるなら、ぜひ業界を超えて可能性を探すことをお勧めしたいと思います。

2年単位で5回のチャンスがあると捉えれば、外の業界でもマネジメント職へ展開することが可能です。まずハンズオン型企業再生のコンサルティング会社の嘱託となり、コンサルタントとして色々な案件に関わります。その活動の中から、コンサルタントとしてではなく、会社の役員としてそのままコミットするキャリアパターンが考えられます。しかし、繰り返しにはなりますが、50歳でとるべきリスクとしては非常に高いものですので、それなりの経営見識、資本政策や財務力、経営力、リーダーシップが備わっている必要があります。もしそれらを満たした上で決心されるなら、就職・雇用という概念から離脱することができるでしょう。

間違っても「雇用は守ってもらいつつ、経営者をしたい」「日本参入した外資系企業の社長はどうか」「10年くらい雇用を約束してくれ、会社を任せてくれるなら小さな規模でもいい」などとは、おっしゃらないように。そんな安易な夢ばかりみていては、現実的な機会は訪れません。また、その機会を自分の力で形にし、成果を上げられるリーダーにはなれないでしょう。

他の人には解決できないが、自分であれば解決できる方法論・経験を持っている、といえるような案件に出会えればしめたものです。1日でも早く活動を開始し、40代のうちにその機会に巡り合うことです。選りすぐりの案件を多数持っている、あるいは発掘できる適切なキャリアコンサルタントと一緒に、懸命に考え、行動することをお勧めします。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)