転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第36回
2008.03.06

SEからIBバンカーへ転職したい。MBA留学は有効な手段になりますか?

現在、システムエンジニア(SE)として働いている25歳です。これまでの3年間、様々な問題解決のためのシステムを、ツールとして経営に組み込む仕事に携わってきたのですが、企業経営に関心を持つようになりました。それも経営者ではなく、投資銀行(IB)などの企業投資の立場から経営をサポートする業務に深く興味を持っています。

エンジニアからIBバンカーへの転職は、かなり難しいと想像していますが、実現させる道はあるでしょうか? また、可能性を広げる意味で、海外のビジネススクール等へ留学することは有効でしょうか?

Answer

IBバンカーへの道はあるか、そのためにMBAは有効か、というご質問の答えは「YES」です。しかし、中途半端な準備ではご想像どおり難しいでしょう。

ご相談者は「投資銀行としての立場から経営をサポートしたい」とおっしゃっていますが、サポート自体が目的なのでしょうか? 投資銀行は、経営をサポートするだけで利益を得られるわけではありません。そもそも投資銀行とはどのような業務をしている会社で、どのような職種があるのか。いま一度、しっかり理解されておく必要があると思います。

端的にまとめてしまうと「SEからMBA、MBAから投資銀行、投資銀行で経営をサポート、経営者には関心がない」というのが現状のキャリアのプランになるかと思います。しかし残念ながら、この展望は現実を踏まえた合理性が欠けており、まだまだ単なる”願望”に止まっているものだと感じます。繰り返しになりますが、ぜひ投資銀行の実際の仕事への理解を深められることをお勧めします。

さて、長期のキャリアプランはさておき「MBA留学を経て、EquityやLendingなどの手法を使いながら事業法人に対して財務アドバイス/投資を行い、投資銀行家として大きな成果・利益を生み出せる人材になりたい」というキャリアプランだと仮定し、回答を続けたいと思います。

過去に、金融業界以外の出身者が、MBA留学を経て投資銀行に採用されたケースを元に、いくつかポイントを挙げさせていただきます。

1)トップスクール

    まず、MBAランキングの上位校に留学されることが大前提と申し上げてもよいと思います。ランキングに関しては、色々な実施母体・調査基準がありますので絶対ではありませんが、概ね各ランキングに重複して入っている上位20校程度と考えていただければ問題ありません。

    また、各大学のWebサイトで卒業生の何%が投資銀行やプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルに就職しているかを確認してください。(金融業界すべてを含めて「金融機関」として公表している場合には、ご希望の投資銀行業務をあまり意味していないことが多いので注意が必要です。)このようなランキングと就職実績を参考に、留学先の目標を立て、準備していただければと思います。

2)成績

    上位校に留学するだけではなく、真剣に、そして徹底的に、経済・財務・会計を学ばれて上位の成績を修めることも重要です。金融業界を目指しているのに財務関連のクラスが不得意だと、当然ですが採用してはもらえません。

3)インターンシップ

    上位校であれば、クラスメイトや教授にも投資銀行出身者が比較的多く、その実態について教えてもらうことができます。その上で、二年制の学校であれば、インターンシップを受けられるか受けられないかが、大きな分かれ目となります。

    投資銀行のインターンシップ・プログラムに採用されれば、半分は突破したも同然です。インターン先からオファーが出るとは限りませんが、少なくとも「未経験」ではなくなります。有力投資銀行へのインターン応募は、就職同様に熾烈な競争になりますので、留学前から情報収集し、場合によっては日本支社へアタックしておくことが大切といえます。

    翌年夏のプログラムの応募を前年の10月から受け付ける企業が多いようですが、留学直後は新生活や授業で手一杯のこともあり、応募の機会を失う人が少なくありません。早めに活動を開始することと、投資銀行業界にいる教授を動かしてインターンシップ・プログラムを新たに設計・提案・創出してしまうぐらいの意気込みが必要です。

4)求められるコンピテンス

    ベーシックなコミュニケーション力、セールス力、行動力など色々挙げることができますが、突き詰めれば「本気で投資銀行業に長く勤める気があるのか?」だと感じています。投資銀行、戦略コンサルティングファーム、事業会社のどこでもそれなりに関心があって、投資銀行で数年勤めた後、事業会社の経営職になりたいなど、都合のよいキャリアパスを安易に考えているようだと簡単に見透かされてしまいます。それゆえ、インターンシップや就職に応募する際には、直接、自発的にアタックをかけるような姿勢が重要であり、「何よりも本気で」ということに尽きると思います。

5)外資系と日系

    投資銀行のみならず、外資系企業は経験重視です。MBAホルダーといえど異業種からの転職の場合は、上記に述べた点をクリアし、かつ何らか強みがある方のみが対象となってしまいます。ですから、就職の際に初めから日系金融機関の投資銀行部門や監査法人を狙うという人もいます。またどうしても外資系を望む場合、まず日系企業や監査法人で経験を積み、3年から5年後の外資系への転身を目指す、という方も見受けられます。

    しかしながら、短期で辞めてしまいそうな人材をあからさまに避ける(一部には短期採用でよいという投資銀行も存在しますが)企業が増えてきました。またMBAホルダーに関して、以前ほど日系企業が未経験者を採用してくれなくなってきました。ポテンシャルを重視して未経験者として採用してもらうには、26~28歳あたりが年齢のデッドラインだと思われます。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)