転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第30回
2007.11.22

夢は創業。まず経営職への転職か、MBA留学か、それともすぐに起業か?

大学卒業後、ある上場企業(事業会社)に勤務してきた29歳です。財務部門に3年ほど勤めたあと、関連会社のM&Aや事業戦略を手がける部署に異動し、そのスタートアップと成長拡大に関わる業務を行ってきました。現在は同部署でマーケティングに主軸をおいた仕事をしています。

今の職場で自分なりに結果を出せたこと、キャリアの最終ゴールとして「起業」を目論んでいることから、そろそろ転職も選択に入れた転身を考えています。「起業」のためのビジネス・アイデアは、おぼろげながらですが既に持っています。

転職などといわずに、すぐに「起業」をすべきでしょうか? それとも、ベンチャーなどの事業会社でマネジメント経験をある程度積んでから、コトを起こすべきでしょうか? また、自分を磨いて刺激を受ける意味で、海外ビジネススクールへの留学も考えています。是非よきアドバイスをお願いします。

Answer

筆者は36歳で起業しました。それまでにサラリーマンとして、幸運にも20代から会社の設立・登記をあげるといったことを何度か経験する機会を得ていたので、会社を設立するスキルはありました。しかしながら、実際に起業するまで、自らが起業することになるとは思いもよりませんでした。

そんな過去の経験を持つ筆者ですので、できるだけ客観的にアドバイスするよう努めますが、私自身の経験・価値観が影響してしまうことをご了承ください。

さて、ここからが回答です。

創業されるのが夢で、その実現のために「転職」「MBA留学」あるいはすぐに「起業」のどの選択が良いか?というご質問ですが、創業を実現化するだけなら答えは簡単です。今すぐ起業すれば、夢は叶います。しかし、もう少し考えていただきたいのは、なぜ上記3つの選択を前に決断できないご自分がいるのか、ということです。

なぜ今、起業しないのか。できないのか。決断しないのか。その答えを掘り下げて考えてみられれば、逆におのずと今回の選択が決まると思います。つまり”何が足りなくて、すぐに起業することを決心できないのか”を発見することです。スキル、資本、決断力、成功体験、顧客……ご自身に不足しているものを整理して考えてみてください。それらがはっきりすれば、不足しているものを獲得できる道へ進めばいいのですから。

また、加えてご助言したいのは、創業を夢としておられる部分そのものが、最大のリスクだということです。創業することはいとも簡単です。たぶんお気づきになっておられると思いますが、創業することよりも創業した会社を成功させることこそ困難であり、ご自身にとって重要です。成功させるための十分な力を自らが備えているのか、整理がついていないので、このような悩みになっているのではないですか? 創業はあくまで通過点であり、ゴールはその先にあるべきです。その点、勘違いのないよう肝に命じてください。

とはいえ、準備万端整ってから会社を興すような方は稀であり、一方「将来、起業したいのだが…」というのを言い訳にして決心も行動もせず、現状に妥協して終っていく人が大半であるのが現実です。すべての条件が足りてから起業するのではなく、足りない中からも起業し、そのあと経営者として成長しながら不足を補っていくやり方もあります。

これまで、弊社の顧客である数多くのベンチャー企業の社長たちと、5年・10年といった長いスパンでお付き合いしてきました。その中で成功している社長の共通点は「自らも成長していること」です。彼らは会社を興してのち、さらに経営者として大きくなり会社を成功に導いています。

どのようなタイプの経営者を目指したいのか、目指すべきベンチマークをお持ちなのか、世界に展開するベンチャーを興したいのか、地域に根差した会社を創業したいのか、開発型か新サービスか……などによっても、「転職」「MBA留学」あるいはすぐに「起業」の選択の助言は異なります。(例えばもし海外に出ていける会社を創業したいなら、海外のビジネススクールには是非行くべき、と申し上げるでしょう。)ただし、どのような選択をされても、現在まだ29歳。このご年齢であれば、極めて多様な選択ができます。またやり直しもできるでしょう。

いずれにせよ思い切って新たな道へ進まれ、32歳、遅くても35歳までには、株主・社員・顧客という利害の異なる人たちをマネジメントできる人材になっていただきたいと切に願います。日本で、創業したいとおぼろげながらも考え行動しようとしている人は、残念ながらごく僅か。創業して会社を育て、成長させていく人材は、今後の日本にとって大変重要な存在だと思っています。ぜひ奮起いただきたいと個人的にもエールをお送りします。

最後に、会社を興した先輩として、ベンチャー企業の社長の多く(そして私自身も)の共通した思いをお伝えします。「もっと早く(若く)創業したほうが良かった。志があるなら早く創業しろ。思いきったらやってみろ」。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)