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転職コラム”展”職相談室
キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。
“展”職相談室 第12回2007.02.22
ポスト投資銀行のキャリア。その選択肢と可能性は?
現在、とある外資系投資銀行に所属している者です。37歳をむかえ、最近は多少年収を下げることになっても事業会社に転職すべきなのでは、と考えるようになってしまいました。
M&A業務等、十分にやりがいのある仕事であり、現職に留まるのもやぶさかではないのですが、一方で周囲に45歳以上の人が少なく一抹の不安も覚えます。皆、投資銀行でのキャリアの後、どのような転身をしているのでしょうか。
大学を卒業したあと商社で5年、MBA留学を経て8年間現職にあります。金融法人向けのM&Aがメイン業務であり、日に日にそれ以外の業界のことが見えなくなっている気がしていることも事実です。その意味でも、今後のキャリアの選択肢・キャリア展開の可能性をお教えいただければと思います。
Answer
ご相談者の今後の可能性ということでは、ずばり無限です。このようなご経歴をお持ちであれば、37歳だからといって時すでに遅しということはありません。
かのポール・ゴーギャンは株式仲買人を辞職して日曜画家から専業画家になり、人の心に残る名画家になりました…ということで模範回答とするのは簡単ですが、より具体的に可能性を感じていただくために、アクシアムが今までにご相談した方の例を一部ご紹介したいと思います。
様々なキャリアへ踏み出したケースとしてご参考にしていただき、現実的な選択肢がどのようなものなのか、知っていただければ幸いです。
1)金融業界でキャリアを続ける
まず、外資系投資銀行から日系の金融機関に移る方がいます。外資系で活躍できるのは45歳程度迄の場合も多いことから、このような転職を選ぶ方が増えています。報酬が格段に下がる、契約社員として雇用される等のケースもありますが、金融の専門性をお持ちであれば十分可能です。通常、日系金融機関ではフロント業務の経験者が求められますが、最近はミドルオフィスやコンプライアンスなどのバックオフィスでも、専門性の高い分野であれば転職が可能になってきました。
つぎに、金融ベンチャーを自ら創業する方がいます。欧米では、ファンドや投資銀行業務・投資顧問・金融コンサルティング・再保険・証券・銀行など、多彩な金融業務のカテゴリでベンチャーが生まれています。まだまだ日本では非常に稀ながら、金融関連法の改正が進み、ファンド・金融コンサルティング・証券・投資銀行・不動産関連金融などで創業が増えつつあります。このように金融ベンチャーを創業する、あるいは創業に参画するという選択がまさに今始まっています。
三番目に、外資系金融の業界内で転職する方がいます。同業・同職のまま報酬・役職ともにアップしていく、いわば王道です。つまり、ご相談者の場合は現在の投資銀行から別の投資銀行に移るということです。目新しい転職先としては”日系金融機関の再生”(法的には日系ですが、実態は外資系)に関わっていく道もあります。
最近の特徴としては、投資銀行からプライベートエクイティー(PE)やベンチャーキャピタル(VC)への転身が目立つこと。これらの業界では現在、20代後半~30代後半の年齢層で求人ニーズが高まっています。37歳でPEに移る場合は、職位としてはバイスプレジデント(VP)以上あたりになるでしょう。さらにその後は、パートナーとなる方や別のファンド設立に関わっていく方など、個人の実績によりキャリア形成のパターンが異なります。
中にはPE経験の後、事業会社の経営へ移る方もいます。ただこのシナリオは「グッド・シナリオ」ですので、どんな人でもそのようにうまくいくとは限りません。年収が高い分、求められる知識や見識・経験の水準も高く、リスクとリターンは必ずバランスされる世界とご承知おきください。
2)事業会社に移る
おもに、日系大手事業会社の企業財務を手がける立場への転身を想定されていると思いますが、会計・決算の実務経験がないのがネックになりがちです。企業財務からさらにCFOへのキャリア形成を計るのに苦労される方も多く見受けられます。
逆にベンチャー系企業に転身した方の場合は、経理に強い人を下につけつつ、いっきに決算や会計の実務のマネジメントを実践で積んでいける場合が多く、将来マネジメントの道を目指すなら非常に有益な経験をできるようです。大企業と異なり、株主と経営者の関係を身近に体感しつつマネジメントできるのも大きな収穫になるでしょう。
ちなみに大手事業会社に転身された方の場合は、自社の生産・研究・販売等の現場で鍛えた会計力を備えた同僚が存在します。これらの方々を相手に社内でいかに勝ち残るかという課題が、数年後には発生してきます。つまり、実際には安易に大手=安定とはなりませんので、十分な理解と覚悟が必要といえます。
あえて厳しく申し上げるとすれば、ご相談者がお持ちのキャリアは、事業会社に移る場合には資金調達や財務的業務においてのみ有効な、そして数年間の賞味期間付きのものともいえる側面を孕んでいます。この点もしっかりご理解下さい。ただ中には、日本の大手企業の総合職として(かなり)年収を下げて一旦転職しておき、財務会計から経営企画に内部ローテーションされるのを狙い、事業開発を担当してCOOになったという方もいらっしゃいます。
意外に少ないのが、投資銀行から外資系事業会社への転職です。これは前述の日系の場合よりも、外資系の方がより明確にコントローラとしての職能を求めることに起因します。投資銀行出身でも即コントローラにはなれません。ただ、M&Aの専門性を活かした事業開発チームがある外資系に転職し、さらにその開発した事業の経営にアサインされたというような方も稀に存在します。
3)ワイルドカードをきる
投資銀行のお仕事を通じて得た金銭的報酬を使い、「ワイルドカード」とでもいうべき道を選択する方もいらっしゃいます。以下に、アクシアムの過去のご相談者で、このようなキャリアを選ばれて成功されている方の例を列挙します。
「ベンチャーキャピタルを始める」「(金融以外の)ベンチャー企業を起こす」「自分のお店を持つ」「自宅で株の運用をする」「ベンチャーキャピタルに似たような形で、学生や若者相を対象に創業・経営指導を行う個人篤志家となる」など。
コンサルタント
インタビュアー/担当キャリアコンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)