転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2022年4月~6月 
2022.04.07

不確実な環境の中で、求められる人材とは

コロナ禍が始まって3年近くが経過しました。COVID-19は世界で累計5億人近い感染者を出し、約650万人もの命を奪い去り(※)、人々の生活や経済までも変えてしまいました。ワクチンや治療薬の開発、国の対策等については賛否両論があるものの、人類は屈することなく、希望をもって長期にわたり対処してきたと思います。しかし、そんなさなかの2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻し戦争が始まってしまいました。

(※)ロイター/COVID-19 Global tracker 「世界の日次統計」を参照

いうまでもなく、戦争とは自然に由来するものではなく、人為的な悲劇です。いまこの時にも武力衝突は続いており、経済制裁や外交努力も続いています。COVID-19が収束していない中、これ以上の戦争の長期化や、欧州、そして世界を巻き込むような戦火の拡大とならないことを祈るばかりです。

このように不確実性が益々増大する中で、個々人が自身のキャリアデザイン、人生の展望を見い出すには、どうすればいいのでしょうか?

毎月第1金曜日に発表される米国の雇用統計などを見ていると、失業率は改善しているようですが、日本では失業者数は減ってきているものの、まだまだ芳しくない状態です。3月29日に公表された総務省統計局の「労働力調査」では、以下のようになっています。

労働力調査(基本集計) 2022年(令和4年)2月分結果
 (1) 就業者数
   就業者数は6658万人。前年同月に比べ35万人の減少。5か月連続の減少
 (2) 完全失業者数
   完全失業者数は180万人。前年同月に比べ15万人の減少。8か月連続の減少
 (3) 完全失業率
   完全失業率(季節調整値)は2.7%。前月に比べ0.1ポイントの低下

しかしながら、人材紹介業の立場でよく耳にするのは、既に求人は戻ってきているという話です。アクシアムで依頼を受けることが多い若手リーダーやミドル人材向け求人、そしてマネジメント求人において、たしかに案件数が増加している印象です。ベンチャー企業、そしてイノベーションに関わる産業界からの求人が多くなっているほか、古い体制・体質といわれた産業界からも、求人が出てきています。近代化・デジタル化に対応することができた企業から、新しい求人ニーズが発生することも少なくありません。

ただし以前からお伝えしているように、いまや多くの企業がメンバーシップ型ではなくジョブ型の採用に変化しています。そのため、ただ「その業界での長い経験と知見があります」というだけでは、ほとんどの人が不採用となります。

50歳以上の人材にとって受難の時代を迎えたと折にふれてお話していますが、そんな中でも“採用される50代”の共通点は、『グローバルな対応力』や『イノベーション力(DX・CXの推進力)』があり、『リーダーシップ』と『アントレプレナーシップ』を備えている人材です。そのような方は、たとえ初めての転職であっても、今まで勤務していた会社でまるで転職したかのようなキャリアチェンジをし、キャリアを創ってきています。

「2~3年の短期で転職するのは不利である」というのはメンバーシップ型採用世代の常識でしたが、ジョブ型になってくると、長年同じ会社でいることが不利になる側面もあります。結局のところ、何年在籍したかではなく「何年かけて何をしたのか」と、語ることのできるプロセスとリザルトを持っているかが求職者の明暗を分けているように思います。たとえ一見、過去の経験が不連続であったとしても、不確実な環境の中で「何を判断・決断してきたか」「そこから何を学んでいるか」が、問われているように思うのです。

その結果として明快な成果が出ていればもちろん結構ですが、たとえ成果が出ていなくても、仕事を通じて何を果たしたのか、自分のためになっただけなのか、幸いなことに他人のためにもなったのかも重要です。一定の時間をかけて「自分の報酬がどうなったか」とお金を基準にする人生もあれば、同じ時間をかけて製品を生み出したり、何らかの価値を生み出したり、何かを変えたり、という人生もあります。自分が何に時間をかけたのか…それを説明できる人は、50歳以降でも新しいキャリアチャンスを手にしています。

コロナ禍や戦争が起き、不確実性が高まり続ける世界の中で、何のために仕事をするのか、どのような仕事ができるのか、誰と仕事がしたいのか等、自分自身をしっかり認識できているタイプの方が、いま求められていると感じます。言い換えれば、それがリーダーシップやアントレプレナーシップの要素になるのかもしれません。

社会変化に対応しつつもただ耐えるだけでは、現在のような連続する激しい変化の中では、持ちこたえきれなくなっています。言語化することは難しく、まだ私自身の考えもまとまっていないのですが…これからの時代に求められるリーダーシップやアントレプレナーシップというものには、連続する変化を乗り越えるための「ひらめき」や、何らかの「強靭な資質」が加えられるべきなのかもしれません。個人的には、それは一部の“特別な英雄”に備わるものではなく、本来誰もが持ちうる資質であって、自ら発掘し磨くことのできる力であってほしいと思っています。

20代・30代の方々も、やわらかい発想・自分を型にはめない発想を持ち、急いで成果や権威にたどり着けば守られるという旧型の発想から脱却して、改革や挑戦に挑んだ回数、学びの回数を実績としていただければ、きっと不確実な社会で求められる資質を備えていただけると思います。決して無謀な転職を擁護しているわけではありません。ご自分のジョブを理解し、社会の変化に『適応放散』した人たちの中からしか、次世代リーダーもアントレプレナーも生まれて来ることはないのですから。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)