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転職コラム転職市場の明日をよめ
アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)
2020年7月~9月 2020.07.16
新型コロナウイルスとSDGs時代のキャリア
前回(4~6月期)の本コラムでも取り上げてきたとおり、新型コロナウイルスの影響は世界中の国、産業、社会に影響を及ぼし続けています。もはやその影響を受けない国も、企業も、個人も存在しません。
人類が協力して解決すべきものとしてSDGs(Sustainable Development Goals)の問題が取り沙汰されてきましたが、同様の課題がさらに出現したといえます。SDGsは2030年までに達成すべき持続可能な開発目標17項目からなり、具体的な課題として169のターゲットを定めたものですが、それらに加えて新型コロナウイルスという新たな問題が、急に壁のように大きく立ちはだかってきたかのようです。
新型コロナウイルスに立ち向かうためにすべきことは、SDGsの目標を達成するためにすべきことと同義に思えます。その文脈で考えると、SDGsの17項目のうち、例えば以下の4つはどう読み取れますか?
3.すべての人に健康と福祉を
8.働きがいも経済成長も
11.住み続けられるまちづくりを
17.パートナーシップで目標を達成しよう
両者の課題が大いに合致すると思いませんか? コロナに立ち向かうだけでなくサバイバルのためだけでもなく、そもそも新しい価値、持続可能な世界を生み出すための挑戦を、全人類が一致して行わなくてはならなくなったということなのでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大を世界規模で止めるための施策、医療破綻の回避、経済活動の再開など、これまでの日常を取り戻すことに意識がいきがちですが、いま一度、ぜひSDGsの17項目や169のターゲットを読んでみてください。今回の新型コロナウイルスの件も内包した本質的な地球上の問題、人類が引き起こした問題が整理でき、これからの人類の在り方次第で結果が異なることを改めて理解できると思います。
経済発展、Economic Developmentが、国家単位の成長のみを意味し続けるなら、国や人々の分断はよりひどくなります。SDGsの17番目の課題は、まさにこの分断を危惧して設定されたものでしょう。個人的にはもっとも重要で困難な課題だと感じています。いま私たちを取り巻く環境では、大きくは産業革命が起きていると私は思っています。この後、かつてそうであったように大恐慌が到来するか、ワイマール前夜のように世界的分断が起きてしまうか…その分岐点にいる気がしてなりません。
新型コロナウイルスは、我々の前に突然現れ、混沌とした世界を出現させました。全世界、全産業、全企業に「短期間で前例のない再修正」を迫っています。個人のキャリアについても同様に「短期間に前例のない再設計」を迫っているように思います。
感染防止のための外出禁止・自粛が日々の売り上げを奪い、ビジネスを直撃している外食・観光・旅行・交通・食品産業はもとより、グローバルで生産・販売を行う日本企業も大きな痛手を受けています。
実際、求人全体は減少していますし、求人活動が凍結されたり、リストラを開始したりする企業もあります。しかしながら、このような時期だからこそ始まる求人もあります。一方、個人側の動向はというと、多くの人が転職活動をしなくなりました。あえて活動をしている方は大きく2つに分けられます。会社業績の悪化などから転職をしなくてはならない場合と、この時期だからこそキャリアを考え、外の可能性を探りたいという場合です。後者は、今の情勢に危機感を持ちながらもチャンスと捉えて自ら動こうとしています。採用側が求めているのはまさにこのタイプの人材で、危機感を持ちながらも挑戦できる人です。
これまで少なからずあったバブルのような求人が再び増えることは、もう、むこう10年はないかもしれません。眼を覚まさなければなりません。最大のリスクは、大きな変動期に何も考えないことであり、それが最大の危機を招いてしまうことがあるのです。
SDGs時代を乗り越えるためには、個々人のキャリアにおいても“Sustainable Career Development”を考えることが大事だと思います。その場合、キーワードとなるのは“Development”の意味あいです。“Development”には、開発に加えて、発達、成長、発育、進化という意味もあります。それらは現時点のキャリアとゴール(展望)をつなぐプラン、デザイン、プロセスのヒントになります。そこには、過去の常識やルールやテクノロジーが通じなくなった時にこそ、強く考えるべきポイントが隠されています。
そうして考えることにより、成功確率が低くてもチャレンジする意味を見出せる場合があるでしょう。いつの日か始めようではなく、早く始める必要もより感じられると思います。今まではキャリアにおいても稼働率を高め、効率化することで価値が生まれましたが、SDGs時代には“創発的な新しいキャリア開発への挑戦”を続けることがより求められます。
さて、国際通貨基金(IMF)は、各国政府による新型コロナウイルスの経済対策の規模が10兆ドル(約1070兆円)を突破したと発表しました。また、2020年の成長率がマイナス4.9%と、急激に落ち込むとの最新予測を示しています。リーマンショックの時と異なり、各国の財政支援処置はより大規模で素早いと思えます。中央銀行や各金融機関の活動は目を見張るものがあります。企業の破綻を避けるための緊急融資はもちろんですが、新しい領域への投資も忘れていないように思います。世界中で新型コロナウイルスも含めた、SDGs時代の新たな資本流動が始まっています。
誰のための会社なのか、誰のための技術なのか、誰のための雇用なのか、誰のためになる投資なのかということが、これから増加していくESG投資・インパクト投資の命題になっています。ESG投資・インパクト投資とは、健康、人権、貧困層支援、教育問題など社会的課題の解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的なリターンの両立を実現する投資手法であり、世界全体でみるとその額は既に2500兆円を超えるという調査もあります。ただ残念ながら、日本は大きく遅れています。日本の投資残高は約4500億円、全世界の1%弱でしかないそうです。手元の売上や雇用を守るということに囚われた対策だけでは、長期的には新型コロナウイルスの問題を乗り切れないのかもしれません。
今のカオス化した環境は、VUCA(ブーカ)時代とも評されます。VUCAとは大きな変化(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑さ(Complexity)、曖昧さ(Ambiguity)の頭文字をとったものであり、予測不能な状態を表した経済造語です。単なるソリューション、プロセス改善、新規開発だけでは、このVUCA時代に生き延びることはできないと思います。
これから企業や個人のキャリアのイノベーションについて考えたければ、前段でも触れたように、SDGsの持続可能な開発目標17項目、そして具体的な課題169のターゲットの全文を一度読んでみることをお薦めします。現職でやれることも見つかると思いますし、現職でやれなくてもご自身が強く関心を持てるもの、問題意識を感じられるものが必ず複数見つかるでしょう。それらを起点に、今後のキャリアについて考え始めることが有効だと思います。
あるいは、2019年に設定されたISO56000について調べてみるのもお薦めです。ISO56000とは「イノベーション・マネジメント・システム」 に関する標準規格のことですが、すなわちイノベーションを可能にする経営のオペレーションシステムが国際的に定まったわけです。まだ日本の動きはこれからだと思いますが、企業のイノベーションや個人のキャリアのイノベーションの機会も、このOSの変更によってもたらされるかもしれません。
「混沌とした世界でどのように生き延びたいか?」というだけではなく、「新しい“Sustainable Career” を獲得するために、何をしたらよいか?」を命題として考えてみてください。まさに命がかかった問いになります。“Sustainable Career Development”は、「解決したいと思い続けることができる楽観的でとても強い意志」によってのみ実現できると私は思います。折に触れてお伝えしている“Aspiration”が、まさにVUCA時代には不可欠なのです。
ただし、自分がワクワクするものを探しているだけの人は、なかなか次のキャリア機会を見つけることが難しくなってきました(昨年までなら、見つけることができたでしょう)。つまりこれからの社会では、自分だけのワクワクのために働く人ではなく「誰かのために働くことでワクワクできる人」や「誰かがワクワクできるように働ける人」がより求められるといえそうです。このことは、リーダーシップの在り方にも変化をもたらします。これからのリーダーは、今までのように山頂から人に命令を出すだけの人でもなく、山頂に到達する道を指さす人でもなく、誰かをワクワクさせながら目的地を目指す人になります。もはや先頭でなくても、周りや全体が良い方向に動くのであれば、構わないのかもしれません。誰もが山頂のリーダーに従うのではなく、一人一人が、自走しながら、別の誰かをワクワクさせる新たなリーダーシップを獲得すべき時代になっているのだとも思います。
頭だけで考えると、過去の成功の方程式から離れられず、失敗確率を高めてしまいます。何度も転職で失敗する人はこのパターンです。例えばどうしても業界・職種を変えたい場合、特に年齢が高くなれば年収が下がるのはやむなし、というのはある種、転職の常識です。ですが職能が社会のためになれば、年収を下げる必要なく転職できるようになってきました。さらに、他の人が取れないリスクをとれる人への社会のニーズは高く、よって年収も高まってきています。またアップサイドとして株式やオプションの権利が得られることも考えられます。
前々回(1~3月期)の「転職市場の明日をよめ」で9つの助言をさせていただきましたが、特に以下の3点がWith/Afterコロナを考えると大切な要件だと思います。
(7)Aspirationに沿った環境を探す
(8)Aspirationが見つからなければ
(9)自分の進退は自分で決める
Aspirationが見つからない、自分のAspirationが分からないという方は、頭が固くなってしまっているのかもしれません。環境変化に適応しないで滅んでしまった恐竜のようにならないために、今一度、ご自分を柔軟に変える(思考・行動・習慣を含めて)ことができるかどうか、自問自答してみてください。
決して楽なことではないと私も思います。余談になりますが、私が1993年に35歳で創業した時にはお金も実績もなかったのですが、50代の元大手企業の研究開発所長と、60代の上場企業経営者の方が社員として参加してくださいました。何よりもありがたかったです。そのお二人ともが、当時ほとんどの年配者が触れなかったパソコンやEメールを私同様に駆使し、インターネット時代の到来を一緒に議論していました。スタートしたばかりの苦しく不安しかない時期に、世代を超えて、来るべき未来、日本のキャリアデザインを大きく変えるべきだという会社設立の使命を、経験豊かな方々とともに熱く語れることほど楽しいことはありませんでした。
いま私は当時の彼らの年齢になりましたが、彼らほど新しいもの(今なら自分で動画などをオンライン配信でやすやすと行えるようなもの)を柔軟に使いこなせていない自分や、若い世代と未来について対等に議論できているのかを、猛省している次第です。若いから何かができて、年をとったから何かができないという考え方が、すでに恐竜時代の産物であることを自戒の念を込めて記しておきます。
年齢にかかわらず、ご自分の過去に由来するAssumption、Prejudice、Biasを持たず、ひたすら未来に向けて、自分の目と耳と頭を使いましょう。Aspirationとは、「志」「展望」「やり遂げたいという強い願い」だと思います。願望という日本語訳もたまに見受けられますが、単に願っているだけの願望とは違うと個人的には思います。むしろ『~に息を吹き込む、願いや思想や感情を吹き込む』という意味であり、行為を伴い、ゴールを信じあるいはゴールなどなくても結果に向かっていく源泉となるものと理解しています。結果を信じる楽観的な意思を持ち続けながら。
SDGsと持続可能なキャリアは似ています。たとえ小さなことでも正しいと思える何かを始めることです。世界の大問題は、どんな人の近くにも存在します。身近な課題が世界の課題につながっています。環境問題でもエネルギー問題でも生活環境の問題でも、それらの解決のためには、意志を持ち続け、息をするように行動を続けることが大事です。そしてその問題意識や行動の中に、不確実性の高い大変革の中にあっても価値を失わず、むしろ価値が高まるキャリアのヒントがあるのだと思います。
関連情報
コンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)