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転職コラム転職市場の明日をよめ
アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)
2017年10月~12月 2017.10.05
“地方活性”への処方箋
今回の『転職市場の明日をよめ』は、“地方活性”に焦点を当ててお話ししたいと思います。
2010年、日本の全体人口は1億2,806万人、生産人口は8,167万人(全体人口の63.8%)となりピークを迎えました。その後は減少に転じ、2040年には全体人口が1億728万人、生産人口が5,787万人(全体人口の54.0%)と、それぞれ減ることが推定されています(※)。また老齢人口は23%から36%にまで跳ね上がり、日本はいよいよ超・少子高齢化社会となりそうです。
今後迎えるであろうこの超・少子高齢化社会は、政府や地方行政の取り組みも積極的にならざるを得ないほど、日本の社会にとって、いや人類史上どの国も経験したことがないクリティカルな課題といえます。
この問題に対する大きな解決策のひとつは、やはり“地方活性”ではないでしょうか。政府も同じように“地方再生”を政策課題に掲げていますが、“再生”というのは「何かを取り戻したい」「もとの元気な体に戻りたい」という、やや消極的なニュアンスを含むように感じてしまいます。個人的には、若者をはじめ働ける人材、働く気概をもつ人材にもっと焦点を当てるべきなのではないかと考えます。ですから、“地方再生”というよりも“地方活性”という言葉をあえて使いたいのです。
“地方活性”の手段として、総花的な発想のもと地域医療、人材の育成や教育、女性の起業やソーシャルキャピタルの活用、施設の再利用などが議論されることが多いようです。政府や行政は、特区や助成金の話が大好きです。それはそれで結構なことなのですが、やはり私の立場では「地方の求人」「地方の雇用」を切り口に、考えてみたいと思います。
アクシアムでは、基本的には東京がベースの求人を取り扱っています。顧客である外資系企業の大多数は日本支社を東京にかまえており、地方には生産拠点を持つ場合がほとんど。一部の外資系企業が例外的に地方に支社を持っていますが、それはほんの一部です。顧客である日系の大手企業でも東京本社が大多数ですし、ベンチャー企業のオフィスも東京にあるのが圧倒的だからです。まだまだ産業は東京への一極集中の様相です。
しかしながらここ数年、数は限られるものの、特長のある地方企業からお声をかけていただくことが増え、それらの求人のお手伝いを積極的にしてきました。この傾向はこれからもっと増加すると感じています。お手伝いした例をざっと挙げると、北海道、長野、千葉、愛知、三重、滋賀、大阪、兵庫、広島、福岡など。業界業種は自動車関連、電機部品メーカー、食品、外食、農業、畜産、教育、リゾート、サービス、IoTなど多岐にわたり、ベンチャー企業もあれば、中堅企業の再生や事業継承、はたまた老舗企業の新規事業開発などテーマも様々でした。
ただこれらの求人に共通するのは、グローバル人材や経営人材、あるいはイノベーションを起こすための人材を外部から登用する必要が生じたという点。そのタイミングで、我々アクシアムにご依頼をいただくことになったというわけです。
その中の何社かは外部から(中途で)人材を採用するために、創業以来、初めていわゆるサーチファームを利用することになった会社様でした。通常、PEファンドやベンチャーキャピタルからの要請で投資先CEOを探す場合や、オーナー経営者による次世代経営者の求人をお手伝いする場合などは、一般募集と異なり、求人そのもののコンサルティング、すなわち「どのような人材をどのように採用し、活用するのか」といった根本的な部分からサポートさせていただくことが大半です。地方企業の求人をお手伝いする場合、募集ありきではなく、募集すべきかどうかの経営判断に深くかかわるものが大半であり、さらに突っ込んだサポートが必要であるように思いました。
スタッフやマネージャーレベルの求人とは異なり、地方企業が必要とすることの多いマネジメント人材、CxO人材の求人には、そもそも難しい点が多々あります。
多くは機密性が高く一般募集できないケースですから、機密性を担保しつつ迅速に候補者を探さなければなりません。また、単に募集のお手伝いで終わるのではなく、株主や経営者の悩みを聞きながら人事制度や報酬制度に踏み込み、募集要項や対象人材のプロファイルを共に設計しなくてはなりません。そして該当する人材を発掘・紹介し、マッチングさせるノウハウを持っていることが重要です。多くの実績や深い経験知が求められることは当然です。
一方、個人の事情に目をやると、東京志向・大企業志向がまだまだ根強く、グローバルな人材やイノベーションを起こせる人材など、優秀な人であればあるほど、その傾向は強いように実感しています。特に30代以下では、いま東京志向・大企業志向ではない人は皆無に近いかもしれません。逆に経験を積んだ40代・50代では、地方でのビジネスに興味を持っている人も見受けられるようになってきました。実際、我々が地方企業の求人をお手伝いしてマッチングした実績として多いのは、40代・50代の経験豊富な人材です(もちろん大学院卒の20代の方、30代のグローバル人材など若手の方の実績もありますが)。
ただいずれにせよ、すべての事例に共通する興味深い点がひとつあります。それは、個人にとってその新しくキャリアを展開する場所が、過去にまったく縁がなかった地であるという点です。これは非常に面白い事象です。いわゆるUターンではなく、その地域に関係のない方が新しいキャリアを地方でスタートさせ、その後もしっかりと成果を出しておられるのです。彼らの成功のポイントは、既成の価値観にしばられるのでもなく、地域への思い込みにとらわれるのでもなく、何より“新たなキャリアの内容そのもの”を重視した点にあるのではないでしょうか。そうして結果的に、キャリアをご自分の意思で開発することができたのだと思います。
シンガポールからご帰国されてある地方都市の企業に転職された方が、こんなことをおっしゃっていました。「日本へ戻る際に、東京で雇用されるのと同等の所得を地方で得られた。生活費は安く済むので圧倒的にキャッシュに余裕ができた。」「まったく不案内な土地だったが、新鮮な気持ちで、転職後も海外赴任をしているような刺激を受けている」と。新しいキャリアをしっかりデザインすることができれば、場所はもはや関係ないのでしょう。より柔軟な視点、自由な心で自分のキャリアの選択肢を考えるとき、これまで見えていなかったチャンスが眼前に現れ、そしてそれは地方にあるのかもしれません。
また、いまや地方にもビジネスを行う外国人が増え、グローバルなコミュニティーが各地ででき始めています。そのあたりにも、グローバルとローカルをつなぐ鍵があるのではないでしょうか。
一説によれば、地方で再建が必要な企業は2万社もあるといわれています。ファミリー経営で未上場の企業、経営が近代化しておらず産業変化やグローバル化、IT化の波にさらわれそうになっているにもかかわらず、まだ社内人材と間接金融だけで経営戦略の転換を乗り越えようともがいている企業のなんと多いことか。それらのすべてに、いまこそ高度経営人材が必要であると私は思います。
今までになかった課題を解決したいのであれば、今までに採用したことがないタイプの人材を内部に取り込むのが有効な手段。そうして飛び込んだ人材が地方の企業を活性化することで、地域の雇用開発が叶い、ひいては社会の活性化が進むと考えます。その登用方法と経路選択が適正であれば、きっと各地は活性化できます。それだけの魅力も価値も、日本の地方にはまだまだあるはずです。
問題は、遅れないことです。すでに人口減少は始まっています。人材の育成は短時間ではなし得ませんが、人材の流動は短時間でもなし得ます。個人のキャリア開発を支援するという立場で、人材紹介と職業紹介を25年近く続けてきた私たちだからこそできる“地方活性”。その道を今後も模索したいと思います。
関連情報
コンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)