転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2016年7月~9月 
2016.07.07

20代、30代への警鐘~有効求人倍率の上昇と人口減少社会~

少子高齢化が叫ばれて久しいですが、各種の調査によると、今後65歳以上の人口が増加する一方で、15歳から64歳までの生産年齢人口は大幅に減少していくと推計されています。生産年齢人口は戦後一貫して増加を続け、1995年の国勢調査では8,726 万人に達し、全体の約70%が日本社会の主な「需要と供給を担っていました。しかし2010年には8,173万人に減少。今年の5月1日現在では、その数は約7,693万人(総務省統計局調査|PDFファイル)となり、全体の約60%にまで落ち込んでいます。そして2050年頃には、生産年齢人口は5,000万人を下回り、その割合は50%程度になってしまう見込みです。

結婚、出産の増加を促し、育児等をサポートする施策が実行されない限り、この数字が現実のものとなるのでしょう。2016年に大学を卒業した若者が50代後半となる2050年には、半数の人が仕事をしていないことになり、これからは学校を卒業して社会人になる人よりも、会社を退職する人の方が毎年多くなっていく時代が始まったともいえます。

参考:「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)

そんな中、厚生労働省の発表(一般職業紹介状況)によると今年4月の有効求人倍率が1.34倍に上昇しました。これは1991年11月以来、じつに24年5カ月ぶりの高水準でした。企業の求人数が増える一方、求職者数が減ったことも求人倍率の上昇の要因となっているようです。しかも東京都内に限定してみると、有効求人倍率は2.02倍であり、異常な高水準となっています。先日世界を駆け抜けた、イギリスのEU離脱の影響が日本のキャリアマーケットにも波及し、今後の求人に対して減少圧力がかかることも予想されますが、今のところ弊社が受託する求人も増加傾向を維持しており、しばらくはこの流れが続くものと思われます。

一方、総務省の労働力調査(PDFファイル)によると、4月の完全失業者数は211万人、完全失業率は3.2%と横ばいで、人手不足により労働需給が引き締まった状態が続いています。 勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は2万人減、「自発的な離職」は1万人増でした。 就業者数は6,396万人と前月から54万人増え、雇用者数は101万人増の5,679万人。就業率は前年同月から0.5ポイント上がり57.8%となりました。

求人数は確かに多く、自発的に転職する人も増加していますが、なかなか自分にあった仕事が見つけられない方も多くなっている印象です。アクシアムでも新しい求人は増加傾向にありますが、例え求人が多くとも、ご自分の展望に合致したものが多数あるということにはなりません。また経営陣やエクゼクティブ、管理職を対象とするスカウト求人市場も、一般公募市場と同様に活況を呈しているものの、求める要件の難易度は高いものが多くなっています。

グローバル化、IT化、高度経営化の要件を満たす人材はまだまだ不足しており、その難しい要件を満たす人へオファーが集中しています。飲食店などサービス産業でもスタッフの人材不足が顕著ですが、同時に高度人材の求人についても人材不足は顕著。逆にグローバル化、IT化、高度経営化という要求要件を満たせない50代には、本当に厳しい時代を迎えているといえます。

かといって、若者世代が安心していいかというと、そうではありません。「これから少子化していくから、20代・30代の私たちは仕事にあぶれることがないだろう」などと安易にキャリアを考えていると、AI化や根本的な産業の業態変化などに立ち遅れてしまい、いざというときに会社を出てキャリアマーケットへ参入する力を失ってしまいます。会社内だけのキャリアを想定し、会社や国に依存したキャリア設計しか考えていないと、ハードスキルもソフトスキルも社外で通じなくなっていく恐れがあります。

そのようなことがないように、20代では未来への投資をし、30代では大きなチャレンジをぜひしてもらいたいと思います。20代の投資としては、留学、資格取得などの学習、自己成長をするための転職などが必要かもしれません、30代なら、20代で得たハードスキルやソフトスキルを活かし、失敗を恐れず社内・社外で大いにチャレンジをしてよい経験と実績を蓄えてください。そうすれば5年後、10年後、20年後、さらに30年後にご自身の人生を振り返ってみて、きっと納得できるキャリアになっていると思います。年収やタイトルにこだわって「35歳の頃の年収とタイトルが人生で一番良かった」などということがないように、しっかりとキャリアの展望を持っていただければと願います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)