転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2016年4月~6月 
2016.04.07

経済破綻と女性の活躍

3月に入り、フィナンシャル・タイムズ紙は、IMF筆頭副専務理事のデビット・リプトン氏が「世界は経済破綻のリスクの増大に直面。カタストロフィーを回避するには、各国首脳らは需要刺激策を採る必要がある。今こそ世界経済の破綻を回避するための協同作業が必要である」と警告を発したと報じていました。また、この発言は中国経済のネガティブな統計(中国の輸出が2月に25%も落ち込み、2009年以来最悪の指標となっている)が発表されたことを受けて行なわれたものと指摘していました。2期目に入る予定のIMF専務理事、クリスティーヌ・ラガルド氏の手腕が期待されるところです。

マスコミはまだ報じていませんが、大手企業のトップや一部の金融関連の方から聞いたお話によると、先のリーマンショックを経験し、今や世界中の国や大企業は、万が一の事態を想定したシミュレーションを行っているとか。破綻の基準を定め、破綻した国・金融・企業の救済策と破綻処理の方策をすでに準備しているというのです。破綻した張本人が、ことの重大性・重要性を認識できないとしても、前回とは異なり今後破綻が起こった場合には、周囲は至極冷静に対処していくのでしょう。

さて、前置きが長くなりましたが、今回はなにも門外漢である経済や金融の先行きの話をしたいのではありません。7月から2期目を務めることになったIMF初の女性トップ、クリスティーヌ・ラガルド氏に焦点を当てて本稿を進めたいのです。

日本でも経営破綻から再生を果たしたJALで、ラガルド氏と同じく女性初のトップ(代表取締役)になられた大川順子氏がおられます。しかしながら、どうも報道を見ていると、ことさらに「女性初」「客室乗務員から」という点が強調されているように感じるのです。倹約家としてJALを再生に導いた前任の西松氏に比べ、もっと本質的にどのような功績や経営力が大川氏に備わっているかが報道されない限り、まだまだ日本における女性の活躍が遠いように思いました。かたやラガルド氏は、これまでの大手弁護士事務所のパートーナーとしての実績も申し分なく、あくまでもプロフェッショナルな経営手腕を備えた人物として評価されています。

少子高齢化社会にあって、国の生産性を高めGDPの低下を抑えるには、女性の“活用”ではなく女性が“活躍”できる社会の実現が不可欠です。男性である私自身も含めて「女性がこうあるべき」という『べき論』で議論することはまったく建設的ではありません。女性がどのような社会生活を送りたいのかは、人それぞれ異なって当然です。キャリアについても結婚についてもしかり。専業主婦を希望する女性もいれば、何よりもキャリアを優先したい女性もいるでしょう。いずれにしても、女性が活躍できるようにと国も民間も本気で議論をはじめ、待機児童問題の解決や出産・育児への手厚い補助金支給など、いろいろな施策が打ち出されようとしている方向は評価すべきだと思います。

そのような国の政策・方針が発表されたことも影響しているのでしょうが、ここ最近、女性向けの経営幹部候補者を採用したいという要請が非常に増えてきました。これまでと異なる点は、お題目だけの採用(社内の女性比率を高めることを目的に、言い訳程度に女性を採用する。実験的に女性第一号を採用する、など)とは明らかに一線を画していることです。

外資系大手金融関連や外資系IT関連企業、外資系ライフサイエンス企業、日系大手IT企業など、弊社に採用のご相談をいただく各企業において、そのトップが直接採用活動にコミットメントしている点が大きな特徴です。単なる女性の採用ではなく、10年後に女性の経営者を生みだすことを目論んで採用したい。だから経営者の資質を有した優秀な女性を探せというのです。

社外からプロフェッショナル経営者を採用する日本の企業は、まだ全体の1%ほど。ただ、外部から人が来ることに否定的になりがちな大手組織や地方中堅企業とは異なり、外資やベンチャーなどでは変化がみえます。男性であれ女性であれ、きちんとしたスキルセットがなければ生き残れない組織になっており、すでに男性優位の世界ではなくなっているのです。そのような流れを受け、今後はどんどん女性のプロフェッショナル経営者が増えてくるでしょう。

厳しい経営環境を乗り越えられる次世代経営者を、各企業のトップたちは本気で見つけようとしています。再びリーマンショックのような経済破綻が到来したとしても、この女性のマネジメント・リーダー候補を求める需要は減ることはないでしょう。その根拠は、現役の経営者たちは、経営者だからこそ、次の経営者を生み出すには5年、10年と長い時間がかかることを認識しているからです。

破綻を乗り越えられる人材ならば男性でももちろん経営者となれますが、男性は社内で見つけることができます。しかし、社内で容易には女性の経営幹部を見つけられません。そのため、彼らは社外から30代~40代の優秀な女性を採用したいのです。ちなみに未婚でも既婚でも、能力が高ければどちらも採用対象になっています。

プロフェッショナルな経営者を目指したい…そのような展望や志をお持ちの女性には、いまがまさに絶好のチャンス。日本の未来のためにも、この機を逃さず、素晴らしいキャリアを構築していっていただければと思います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)