転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2012年10月~12月 
2012.10.04

「年齢、性別、学歴、職歴、スキルなどで差別されているという思い込みや甘え」の恐ろしさ

「雇用問題」が社会の大きな問題となっていますが、ネット検索していただくと、そこには沢山の問題提起と様々な主張が掲載されています。新卒や若年層が就労できずにいる問題、団塊の世代が65歳を超えて技術継承できない問題、中小企業の人材不足、解雇規制緩和をめぐる議論など多岐にわたるテーマが展開されています。また、既成緩和を主張する人、既成の強化を主張する人、精神論を議論する人など様々な立場の人々が、雇用を取り巻くデータを基に主張や提案をされていることが分かります。

今年に入り、筆者は何度も若手求人は増加している一方、50歳以上の方を対象にした求人が壊滅状態になっていることを述べてきましたが、色々な方と色々な場で雇用問題を議論している中で、気になったことがあります。

インターネットの投稿だったのですが、「年齢、性別、学歴、職歴、スキルで差別を受けている。これらの要素によって仕事が見つからないとか、報酬が異なることはおかしい。不当である。」と考える人の主張があったことです。たかだかネットの投稿であり、それこそ無視してもよい投稿なのかもしれません。何故、このようにこの方が感じたのか、詳細は全くもって分かりませんが、ある種、新鮮な、しかし大きなショックを受けました。私が普段、採用支援をさせていただいている企業の経営者や人事責任者、あるいはスカウト中の方や、キャリア相談を行っている人達には、そのような考え方をしている人はまったく見受けることができないので、実感がもてず、むしろ当惑している次第です。

もしかして、一般的には、雇用問題を議論している時にも、「いじめ」「差別」を持ち出して来る人が増えているのではないだろうか?というのが次に生じる疑問、懸念です。

雇用と教育は確かに根本が似ている部分はあると思います。「社会が求める人材を教育機関が育てていない」とか、「教育現場で起こっているいじめ問題が会社内でも起こっている」、「社会的コミュニケーション力に欠けた人材が多いのは、教育機関や家庭、日教組、強いては政府の政策が悪い」と言った議論は良く耳にします。

しかしながら、年齢、性別、学歴、職歴、スキルによって区別は起きても、差別が起こるのではないと思います。

人種、宗教による差別が問題になっている諸外国からみれば、日本の労働問題は、これからまだ新しい問題に直面することになります。グローバル化に際しては、日本企業が海外進出する際に生じる問題のみならず、外国籍の人が日本でホワイトカラーや、プロフェショナルといった職業領域にも増えてくると思われます。「日本では日本の法律で裁かれるものの、学歴、職歴、スキルによって不当に差別をうけて日本人が仕事を失った。」などというナイーブ極まりない感情を抱いているのであれば、今後、この手の就労者は、日本国内で、「自分の仕事が外国人に奪われた。自分が差別されるのはいやだが、外国人は差別したい。」と言い出す気がしてなりません。

東日本の震災復興や原発問題という大きな問題を抱えたまま、竹島、尖閣諸島、TPP、日米安全保障、憲法改定など、日本国民全員が当事者として、国境や年齢を超えて、冷静に議論し、対処して行動すべき時代が到来しています。

経済の活力が低下し、新規雇用が生まれない時だからこそ、就労できない若者が、その現実を悲観し、安易に宗教活動や民族活動に加担しないことを願うばかりです。

経済の活力を取り戻すためには、日本の政治的判断、長期的戦略はもちろん不可欠ですが、短期的には、スタートアップであろうが、大手企業であろうが、国内外でビジネスを創り出していくことが重要です。20代でも、50代でも自らスタートアップをするのではなく、「会社で仕事を失ったから会社を作る。」では、成功率は極めて低いと思われます。採用側から見れば、労働者数は余っていますが、全体的に採用側が求めるスキルを持った人は極めて少なくなっており、年齢も報酬も高い、もしくは、報酬は低いが若すぎる(充分な経験、実績がない)かで、会社を辞めることになったのであれば、再就職はかなり難しいのが現状です。

解雇規制緩和であろうが規制強化であろうが、年齢、性別、学歴、職歴、スキルで差別を受けていると訴え、雇用創出とか雇用を守るという美名のもとだけでは社会的なコストが増大するだけです。社会のコストを増大させないためにも、評論家ではない、本物の起業家やVCが後人を育てる、スタートアップ専門のビジネススクールがあってもいいぐらいかも知れません。実際に、そのような活動を始めている学校、VC、企業、団体も出てくるようになりました。これは日本にとって好材料でしょう。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)