転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2012年4月~6月 
2012.04.05

社会の新しい潮流をつかむ

さて前号の「転職市場の明日を読め」では、20代、30代を中心とした求人は力強くしっかりと増加しているものの、50代以上の求人が失われてしまっていることを述べました。その流れは今も続いています。

今回は、働き方、キャリアの考え方、あるいは転職活動にかかわる、社会の大きな3つの流れをお伝えしたいと思います。

第一に、日本企業による本気の組織改革が始まったことです。
今、日本企業、産業社会全体が本気で「マネジメントリーダーの育成」「ダイバーシティ・女性の活用」「グローバル人材の採用と登用」「起業家精神をもった人材の育成」を実現しようと大きく動き始めています。

日本の大手企業は80年代、90年代とこれらのテーマに取り組んだことがあります。ただ、今思えばその当時は本気で取り組まなかったためでしょうか、しっかり根付くことはありませんでした。一方、中小企業はこの課題に取り組む余裕がまったくない状態でした。その結果、これらのテーマに対して最大の障害となる年功序列や日本的組織慣行の弊害が多く見受けられました。

これらのテーマはベンチャー企業や外資系企業に勤める人にとって、日本企業にはない組織としての魅力と映り、日本の大手・中小企業とそれ以外の企業という構図を作り出し、「それ以外の企業」への人材流動が起こったこともあります。

近年、これらに真剣に取り組んでいる自治体や企業があることをみなさんも耳にされていることでしょう。自分たちの組織が今後大きな飛躍を遂げるために、旧来のやり方、慣習を捨て、新しい採用基準、人材育成、福利厚生などの手法や制度を開発・導入し、組織の在り方をドラスティックに変えています。

これらのテーマに対応しない、あるいは対応できない企業は生き残れない時代になりました。今度ばかりはこの改革の成否が日本企業の存続にかかっていると言っても過言ではありません。

第二に、ソーシャル、社会貢献の流れです。
2000年以降、NPO、社会起業家といった流れは大きなうねりとなり、日本の地方の課題や発展途上国さらには地球規模での課題解決に人々の関心は高まっていき、昨年の震災によってさらに高まりました。現在では、数多くのNPOや社会起業家が活躍するようになっています。その一例として、世界中で3,000名近くの社会起業家を支援するアショカが、2名の日本人を東アジアで初めてアショカ・フェロー/社会起業家として選出しました。

まず、アショカ・シニアフェローとして選出された「社会福祉法人 伸こう福祉会」専務理事の片山ます江(かたやまますえ)氏。同氏は36年間に渡り、育児と介護の問題に取り組みながら地域社会に大きな貢献をし、その活動がさらに地域外にも広がりをもたらしました。もう一人のアショカ・フェローは、シュアールグループ代表の大木洵人(おおきじゅんと)氏で若干24歳。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、「聴覚障がい者と聴者が本当の意味で対等な世の中を作れないか」と考え、2008年に大学在学中にシュアールを設立。ITを駆使し、聴覚障がい者の生活を変える取り組みに大きな期待がかかっています。

二人のアショカ・フェローのモデルは、日本国内の課題解決に貢献するだけではなく、世界に貢献できる可能性を秘めています。この選出は決して、アショカによる賞の授与(=名誉)だけを意味するのではありません。資金的な援助はもちろんのこと、世界中のアショカ・フェローのネットワークの中で、世界中のフェローから支援を受けることができる機会、そして二人が世界に貢献できる機会の始まりを意味しています。アショカのみならず、東日本の震災復興に向けて多くの社会起業家やそれを支援する人々が生まれています。また、プロボノ活動に参加するプロフェッショナルも増加しています。この流れは止まることはないし、一過性のブームではないと断言できるでしょう。

第三に、Twitter、LinkedIn、Facebookなどのソーシャルメディアがもたらす変化です。
今や世界中で、個人のキャリアに関する情報、趣味、さらには考え方や価値観といった情報までもが、ネット上に溢れています。日本ではネット人口の中で、キャリア情報の開示率としてはまだほんの数%程度の50万人程度といわれているものの、今後その割合は増加していくでしょう。

企業はソーシャルメディアを採用ツールとして使い始めました。また個人的に一緒に働きたい人を見つけて声をかけるようなマイクロなレベルでもそれが起こり始めており、地域や国境を越えての直接的なマッチングがネット上で可能となりました。そしてそれが特別なことでなくなってきています。正社員、アルバイト、コンサルティング契約、協働、コミュニティーの形成まで、ありとあらゆる労働力や知識の取引がネット市場に溢れる時代になったのです。それは応募側にとっても同様であり、双方向に機会が開かれ、労働市場において、募集と応募という形から、スカウトと応募にシフトし始めていることを意味しています。個人は企業の採用ページから応募せずに(求人情報が無い場合でも)、社長に直接応募できるチャンスさえでてきているのです。(くれぐれも横暴な応募は控えたいものですが)。

企業がスカウトをする時代が到来したといっても、当然、皆が皆、スカウトがかかるわけではありません。キャリアデータの掲載のしかたによっては、スカウトはかかりません。スカウトを受けたいと思われるならば、スカウトをする側にとって読みやすく魅力的な書き方、内容にするなど、キャリアデータの記述についてはかなり気を配るべきです。

ソーシャルメディアを活用した採用/応募活動の時代の到来は、企業にとっては採用コストの低減というメリットがある一方、自社社員の多くがスカウトにさらされるデメリット/リスクが高まります。今後は自社社員を引き止めておくための魅力的な組織作りのためにコストが増加することが予想されます。

個人が転職活動を行う際にソーシャルメディアを活用する最大のメリットは、ネット上に溢れているキャリアのサンプルを見ることができるということでしょう。自分が将来就職したい業界、企業、職種に就いている人の過去のキャリアや、その企業の出身者がさらに転職先でどのようなキャリアを積んでいるのか、自分と同じ大学の卒業者がどんな仕事についているのか、などをかなり調べることができます。

また、関心のある会社の社員をソーシャルメディアで見つけて、その社員と自分とのキャリアや年収を比較することで、労働市場で実際に転職活動をせずとも、労働市場における自分の市場価格がある程度わかりますし、関心のある企業にどういった学歴や職歴の人がいて、その人がどの地位にいるのかなどを掴むことができます。さらに内部組織の名称までわかる場合もあるため、組織内に点在する個のキャリアデータをつないでいくことで、どのような組織体制なのかをイメージすることも可能となります。

転職活動中なら、応募先のインタビュアーはもちろん、会社の役員、部長がどのようなキャリアで、普段どんな発言をしているかを前もって入手することができます。就職活動でも転職活動でも、自分の将来を考えてみるには情報の宝庫といえるでしょう。

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ソーシャルメディアは相手先と簡易にコンタクトを図ることができるため、その弊害として、普段から活発な発言を行っている、とある人気企業に勤める人から、以下のような話を耳にしました。

「最近まったく知らない人から、『あなたの勤務する企業に応募したいのだが、その前にあなたの企業に関する情報を聞かせて欲しい』と、遠慮のない横暴な質問が送られてきて困っている」。

新しい形態のネット社会が生み出す新しいメリットもあれば、新しいエチケットも必要になってきているようです。

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海外勤務中の日本人も最近はグローバル人材採用の流れで、スカウトをもらうことも多くなり、昔のように海外赴任している間、日本の市場の変化に疎くなることも少なくなりました。「海外に赴任中、現地のヘッドハンターから東京の求人でスカウトがかかった」という話もあります。逆に日本にいながらに海外から来たスカウトで実際に海外でのキャリアのチャンスをつかんだ人も出てくるようになりました。

これまで述べてきたように、ソーシャルメディアの出現により、働き方も変わりますし、転職の機会も増えて来る事は個人にとっては大きなプラスとなりますが、35歳以下の人への「ネット上の」スカウトは、若さが最大の価値で声がかかっていることを認識しましょう。苦しいときにかかったスカウトは甘い誘いになるかもしれませんが、選択枝の多い35歳以下の人こそ、35歳以上になったときにスカウトをもらえるような人材となるよう、くれぐれも転々としないように心がけてください。

情報が溢れる時代だからこそ、多くの情報や機会の中から正しい情報、より良い行動を選ぶ力が大事になってきます。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)