転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2011年7月~9月 
2011.07.07

失われたもの、生み出すべきもの

震災から4か月が経過しても、復興どころか復旧についても未だ道筋がみえません。

避難所で過ごす人が今も多数おられ、仮設住居の不足や雇用を含め、これからの生活に不安を抱える方も多数いらっしゃいます。そして、義援金や国の支援金の多くもまだ被災者の手元に届いていない状況です。

福島原発についても、事故の収束ができないだけではなく、世界のエネルギー政策に影響を与え、そして放射能汚染への懸念は今も世界の人を不安にさせています。

一刻も早い対策の立案と実施が必要なはずですが、政府もメディアも未だに政局のことばかり取り上げているように感じ、こんなときに何をやっているのかと思ってしまいます。

もうそろそろ批判をやめて、国民一人一人が行動に移さなければなりません。これ以上先送りできない問題、判断すべきことが山積しているはずです。

震災では実に多くのものが失われてしまいました。特に雇用、税収入、そして国としての信用を失ったのは大きな問題になっています。東日本にある農業や水産業、そして自動車や電気メーカー、それを支えてきた生産財メーカーなどが多数被災し、それにより多くの雇用が喪失しました。 これは地震、津波に起因したものですが、重ねて起こった福島原発事故は、避難地域の雇用を消滅させただけではなく、日本の経済全体の雇用にも悪影響を与えていると言えます。

電気の供給不足からくる製造業の生産抑制、電力コストの増大や事故の収束にむけた膨大なコスト、今後発生する膨大な賠償問題も日本経済の足かせとなるでしょう。

日本の産業成長や雇用開発、経済力は原子力による電力があったからこそとは言えますが、原子力事故のリスク、廃棄物の処理の問題がしっかり解決しないまま突き進んできてしまった結果がこの状況です。これを放置していては、この先何度も同じことが起こるでしょう。今この問題を解決せずして、この小さな日本、資源のない、地震と津波の多い日本の長期的経済の再建はありえないように思います。

当然、自分達が生きている間だけ問題が起きなければよいというわけではありません。農業、水産業は海外に出て行くことがない産業ですが、製造業が海外に転出してしまうと、本当に国としての雇用や税収入が激減してしまいます。それは、何とか抑えたいところです。

また、日本国民の冷静な対応や、集団でお互いを思いやる性格などは世界中から評価されているものの、政治の仕組みやメディアの姿勢という点では、残念ながら、海外からの信用度をかなり下げてしまいました。これも、もう一度信頼を取り戻さなくてはいけません。

今、世界が関心をもっているのは、地震や津波から日本がいかに復興できるかということです。世界の知識人は、戦後の復興になぞらえて「きっと日本は復興するだろう」と大きな期待を寄せています。私もそのように思いたいのですが、日本国内にいるとそのように思えない時があります。

例えば、WTO(世界貿易機関)、FPA(世界連携協定)やFTA(世界経済協定)など、世界は物やサービスの貿易の自由化のみならず、投資の自由化や人的交流や協力などを幅広く推し進めていこうとしています。ところが日本はこの仕組みづくりに入りきれず、大きく出遅れています。 ここでは詳しくは述べませんが、これら海外、特に重要度を急激に増している新興国への対応を政府としてもしっかりすべきですが、残念ながらそれが十分にできているとは言えません。 それどころか、国内の対応でさえ危うくなっているのです。

そうした現実を見るにつけ、「本当に復興できるのだろうか?」という不安が頭をよぎります。

完全失業率はこの30年で2%から6%あたりまで悪化してきました。このままでは今後10年で7%から10%といった、想像もしたくないほどの悲惨な状況になりかねません。

この状況を打破し、国の再建を実現するには、「新しいリーダーを選ぶ力」と「これからのリーダーを生み出す仕組みづくり」が不可欠と考えます。老害ともいえる古い見識を振り回すリーダーのもとを離れ、挑戦者たる勇気と知識をそなえた若いリーダーのもとに集結するべき時代が来たのです。

中には、「日本はリーダーがいなくても国や集団としてのメカニズムが働き、機能している」という方もいますが、そのような戯言は既得権益を失いたくない方の言い訳であると思います。 日々の労働や自分ができることをまじめに誠実に行っている人は沢山いますし、その個々の行為や姿勢はとても崇高なことですが、集団として進むべき方向を決めたり、必要な変革を進めたりしていくことが、危機管理や成長戦略を意欲的に推し進めるためにうまく機能しているかといえば、ノーでしょう。

雇用創出やエネルギー問題、社会保障、財政、TPP、FTAの対応などを震災復興、原発事故問題と同時に対応しなければならないのですから、これらの問題は集団で対応する問題ではなくリーダーが決めてゆくべき課題であることから、力強いリーダーの存在が不可欠です。

今、国民や市民、被雇用者、そして資本もが、このような新しいタイプのリーダーを選び始めています。実際、震災後もこうした将来のリーダーを求める求人、ユニークなキャリアの機会は増えているのです。

今、日本が生み出すべきものは新たなリーダーであり、「ひと」に尽きると思います。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)