転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2010年7月~9月 
2010.07.10

これからのグローバル企業に求められること

前号では求人が増加に転じたことを報告しましたが、今号では違った観点で日本の雇用に影響を与えるだろうニュースを2つ取り上げてみたいと思います。

最初は、企業のグローバル化へむけ、楽天やファーストリテイリングが社内公用語を英語にすると発表したことについてコメントします。

世界を目指すためにも公用語を英語にするということですが、これは即ち「グローバル組織としての風通しのよさ」を作ることであり、さらにはグローバル企業の常識でもある「世界中でキャリア採用された人材に経営陣に入るチャンスが開かれている」ということへも通ずることであると思われます。だからこそ、これはたいへん注目すべきニュースであると考えます。

公用語を英語にするということ自体、実現するのは容易ではないでしょう。当然ながら経営者が英語を話すというだけでは全く不十分です。経営者のより強い国際化へのコミットメントとリーダーシップがあること、株主・社員・顧客すべてに対して国際化することの必要性や必然性について説明責任が果たされること、国際標準での情報開示がなされることが不可欠です。

さらには企業が真に国際化するということは、その会社が日本人のためだけの会社ではなく、外国人であっても抵抗感をもたず働くことができる会社となること、そのような環境となることでもあるはずです。それは、日本企業の多くが乗り越えられないでいる壁を超えることであり、「グローバル組織としての風通しのよさ」を作ることに他ならないものといえます。

そして、「グローバル組織としての風通しのよさ」を持つ組織とは、即ち、年功序列的組織の対極にある組織、あるいは職能資格等級制度の名の下で硬直化してしまった組織とまったく違う組織、そうした遺伝子を否定あるいはそもそも持ち合わせていない組織であると言ってよいでしょう。

楽天やファーストリテイリングが現時点でそれに100%適合しているとは言えなくとも、公用語を英語にするということの裏にはそうした真のグローバル組織を目指すという意味が隠れているといって過言でなく、それこそが評価すべきポイントであると思います。

すでに議論が尽くされているところではありますが、今まで多くの日本企業は内需重視であり、また高度経済成長期の製造業をモデルとした人事制度や組織形態をとってきました。そうした戦略と経営システムは、前世紀においてはとても都合のよいものでしたが現在の日本の社会環境には適合しづらくなっています。複雑で摩訶不思議な意思決定のメカニズムや物事の決定スピードの欠如が、若い世代や外国人のやる気を奪うものになってしまっているのは明らかです。

そうした旧来の日本企業の人事システムでは、中途半端なキャリア採用で優秀な人材を外部から採用したとしても、そうした人材がなかなか経営陣に入る機会を与えられず、結局優秀な人材がまた外に出てしまうという事態に陥っています。

その旧態依然とした組織の呪縛から解き放たれて、社内公用語を英語とする英断をおこなった企業が楽天やファーストリテイリングであるといえるでしょう。この二社には、グローバル組織として当たり前である、「キャリア採用された人材が経営陣に入っていくチャンス」が十分に開かれていると言えるのです。(海外では、グローバル企業としては当然ということですが、日本の大手企業ではなかなか起こりにくいことです。)今後、こうした企業こそが、世界中で人材、資本、信頼を得ることができ、そして経営人材を採用し育成することが可能になるのだと思います。

蛇足ながら、公用語は英語となっていないまでもこの二社と同様に世界を目指している企業が増えています。ラーメン「一風堂」を展開する「力の源カンパニー社」や、回転寿司業界で一位二位を争う「あきんどスシロー社」、モバイルビジネスの「DeNA社」、電子部品・コイルメーカーの「スミダ社」などがその例です。それぞれ業界も異なり事業のフェーズも違うのですが、これらの企業には世界を目指すからこその共通点、「グローバル組織としての風通しのよさ」=「キャリア採用された人材が経営陣に入っていくチャンス」があると感じています。

また、派生的ながら、これらの企業に勤めている人材については以下の点で市場価値が高まるといってよいでしょう。 1)グローバルな企業に転職しやすい。2)チャレンジ、変化に強い。3)合理的な経営になれており、コンピテンスが明解。4)若くして責任あるポジションを経験していることが多い。5)起業家精神が旺盛。

この点でも公用語が英語になることはポジティブです。

 

さて次に取り上げるのは、「1億円以上の報酬を得ている役員の報酬を開示することが法律で義務付けられた」というニュースです。

日産のカルロス・ゴーン氏の報酬が8億9000万円であることがメディアでも大きく取り上げられました。その他にも多くの役員の報酬が開示されています。このニュースに対しては、いろいろな意見や反応があるようです。そんなに貰っているのかと驚く人もいれば、自分の報酬もそこまで高めたいと刺激され、意欲を高めた人もいるのではないでしょうか。多いという人もいれば、妥当と思う人もいます。また開示義務に対して反発する財界人も多いようですが、ある意味、企業の情報開示を是とする論旨の上では、一歩進んだという意見もあるようです。

この公開が義務付けられたことで、経営者は開示された報酬に見合った成果を出していなければ、株主、社員、顧客からも厳しく批判されるようになることは間違いないでしょう。それゆえ多くの経営者からは自然と反発を招くのだと思います。ただ、経営者の責任は重くなる一方、その責任に見合った額がどの程度であれば妥当かについては、もっと議論がされてしかるべきです。いろいろな議論が巻き起こること自体、筆者は非常に良いことだと思っています。

その議論の一つに、役員報酬もグローバル企業として世界水準で考えるべきというものがあります。

例えば大学卒の新入社員と社長の賃金格差ですが、今の多くの日本企業のように多くても10倍もないということでは、責任もリスクも高い経営陣/経営者を誰も目指さなくなって当然のことでしょう。

一方、中国やインドにおいては、新入社員と経営者の賃金格差は、業界によって異なるものの、何十倍、100倍、あるいはそれ以上の場合もあるようです。 是非はあるにせよ、少なからず、高報酬を得られるからこそ優秀な人材が経営者/経営TOPを目指すというのは事実でしょう。 そこで競争し、切磋琢磨して結果的に優秀な経営人材が生まれてくるのではないでしょうか。

少なくとも、格差そのものが雇用を奪うわけではなく、格差そのものがやる気を奪うということではないと思います。むしろ低い役員報酬額では若者や外国人に夢をもってもらえず、結果的に意欲的で有能な人材の獲得、あるいは維持ができなくなるでしょう。

それよりも重要なのは、不公正があることや機会が公平でないこと、あるいは評価軸がオープンでないことだと思います。格差や競争を否定するのではなく、競争に参加したいと思う人への平等な機会や教育を提供すること、ルールや評価軸がオープンであること、不正に対する罰が厳密であること、失敗してもリターンマッチを可能にし、社会が再挑戦を評価することなどが、より重要になってきています。

 

以上、楽天とファーストリテイリングが公用語を英語にしたこと、そして1億円以上の報酬を得ている役員の報酬開示が義務化されたことは、今後の日本企業が「グローバル組織としての風通しのよさ」を持ち、真のグローバル化を果たす上でとても重要な意味を持つと感じます。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)