転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2009年10月~12月 
2009.10.08

自発性=タイミングが日本のキャリアの課題

民主党政権が成立し、新しい日本の歴史が始まりました。今からの1年は、経済というテーマを産業界と政界がともに深く考え、未来に向かって動く年となると感じます。ただ、まだまだ資本市場の動きは鈍く、求人も増加傾向に反転したとは言えない状況で、おそらく今年はこの状況から大きく変わらず終わってしまいそうです。

有効求人倍率が少し持ち直したように思われますが、経済全般を見ると、設備投資や消費動向、さらには日本製品の一番の消費国である米国の市場動向をみても、プラスに転じる要素がまだ少ない状態です。

約10年前、1998年の不況時に、日本は過去経験したことがないような「大量解雇やリストラ社会」に突入したといわれました。1998年の年間実質経済成長率はマイナスで、金融機関の自己資本不足を背景に貸し渋りや貸し剥がしが起こり、アジア経済危機の影響からも大企業や中小企業の多くが苦境に立たされた時です。市場には非自発的な転職活動者があふれ、「人材流動の時代が到来した」と言われていました。

ただ、それでもなお自発的な転職者のほうが多かったという状況でした。

まもなく2010年を迎える今、自発的な転職者は10年前に比べ100万名から110万名程度に増えただけですが、一方で非自発的な転職者は、85万名から164万名に倍増しています。

 

「総務省・統計局」平成21年8月-求職理由別完全失業者数(エクセル:44KB)

さて、10年前に筆者が書いたコメントを自ら読んでみて、再考する点が一つあります。

 

「転職市場の明日を読め 2000年 10月~12月」

当時、アクシアムでは年間1,000件程度の求人を受託していて、前年対比で30%の増加がありました。その後、昨年2008年は年間6,000件の受託をするまでに増加していますが、途中多少の上下はあるものの、概ね増加傾向が続いた10年であったといえます。
それが、2009年は年間で3,000件程度の受託にとどまりそうで、いっきに半減してしまいました。

当然、転職市場は厳しくなりますが、アクシアムを創業以来、これほどまでに力が及ばないと感じた年はありません。「個人の皆さんのキャリアの展望をかなえる」というミッションの実現、現実的に転職先や再就職先を1件探すということが、これほど重たかったことは過去なかったように思います。

ただ、過去10年と照らし合わせてみると、もう一つ感じることがあります。この厳しい1年の間でも、やはり自発的なキャリア形成をしている方は再就職においても強いということです。いいかえると、非自発的なキャリア形成を強いられている人は弱いということでもあります。「待ちや受け身の姿勢で転職する(せざるを得なくなる)方は苦戦し、自ら考えて展職をしてきた方はうまく行きやすい」という傾向が顕著に出てきているのです。

どんなにスキルや経験、実績があってもタイミングが合わなければ案件はないもので、この「タイミングをつかめなかった方」が就職活動に苦労し、かくも無残に大量に市場に残っているのです。このようなことは過去にありませんでした。

弊社はスカウトタイプのサーチ会社なので、現職で満足している方や特に転職をお考えでないという方にこちらから声をかけることが多くあります。これをタイプAと呼んでみましょう。次に、特に転職せざるを得ないわけではないながら、自発的に将来を考えて先にご本人から相談にこられる方もいらっしゃいます。これをタイプBとしましょう。そして、非自発的に、転職せざるを得なくなって仕方なくご相談に来るケースもあります。タイプCとします。

タイプAの方は、スカウトに応じてインタビューを受けるまでは進むものの、長期的なキャリアを考えることに時間をかけてきていないためか、最後に決心できずに転職に踏み切れないケースが多くあります。特に不景気な時には及び腰になってしまいがちです。結果、後になって「あの時転職をしておけば・・・。」となることも多いのです。

タイプBの場合は、もっともよい転職=展職ができていることが多かったように思われます。現職に問題はないものの、そのような時だからこそ余裕をもってスカウト案件に耳を傾け、長期的なキャリアを考え、求人の動向もしっかりととらえることができ、よい転職ができるものと感じます。
いわずもがな、最も苦戦するのはタイプCです。能力やスキル、実績の有無、年齢にかかわらず、非自発的にフリーになってしまい転職市場に出たのでは、どうしても場当たり的な転職になりがちです。ここ最近のように競争が激しい転職市場では、再就職に苦戦するのも必至です。

また、タイプAの方はスカウトがもらえるのでまだよいといえるものの、それでも黙って待っていて声がかかるわけではありません。スカウト会社やサーチファーム(アクシアムも含めてですが)はマジシャンではないし、テレパシーで皆さんの転職のタイミングが分かるわけでもないのです。できればタイプBの方のように、より自発的に相談にいらして欲しいと思います。

あるいは早めにご相談にお越しいただければ、ご自分がスカウトの対象になっているのかそうでないのかも、より早く知ることができます。スカウトの対象になっていないなら、なぜスカウトの対象になっていないのか、しっかりと、そして遠慮なく(ある意味容赦なく)ご説明します。これからの社会においては、「今の会社の中で価値があっても、会社を出れば価値がない。」ということは避けたいところです。
辛口の助言となるかもしれませんが、半年、1年の時間をかけてでもスカウトの対象になるようなキャリアとしていただくべく、その要素を獲得していただくようなアドバイスをさせていただきます。
そうすればおのずと自発的な展職もできますし、あるいは非自発的に市場に出ることになっても、スカウトの対象になることが可能になります。

10年前から機会あるごとにお伝えしているとおり、願わくは、自発的なキャリア形成をぜひ行っていただきたいということです。非自発的な転職となってしまうこともしばしば起こりますし、それを100%避けることも難しいのですが、だからこそ自分でコントロールできる時にはしっかりと自発的に動いていただきたいと思います。転機を自ら創りだし、獲得する。機会を逃さずテイクする。この「タイミング」こそ、より重要な要件になってきていると思います。

来年からでも実行できるよう、ぜひ、今年の残り3カ月でキャリアの再設計、再チェックをしてみてください。

また、転職活動中の方は、このまま年の瀬を越えるかもしれないという危機感をお持ちかもしれません。例年、10月から11月にかけては求人が出てくるタイミングではあるものの、今年はそうはならないでしょう。ただ、2010年は必ず増加傾向に反転します。それを信じてしっかりと活動を継続していただきたいと思います。

成功する方の多くは、ほかの大多数の方とは違う動きをするものです。こんな時だからこそ、来るべき新しい時代を考え、明るい未来を信じて行動していただきたいと思います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)