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転職コラム転職市場の明日をよめ
アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)
2008年 4月~6月 2008.04.03
金融業界からの変化
日本国内の金融機関においてもサブプライムの損失が発生し、資本増加などの対策がとられ始めました。アメリカの金融機関における資本増強が各社で数千億単位であるのに比べ、その単位は桁がひとつ小さいものですが、日本の雇用情勢はアメリカよりも半年以上も遅れてその余波を受け始めました。
ドル安によって事業会社の海外売上が減少し、各社の経営戦略に影響が出ていますし、海外からの日本への投資にも当然ながらマイナスの効果が生じています。一方で、既に日本企業に投資を行っているファンドにとっては、ドル安により投資益にプラスの効果が見られています。このような経済の動きすべてが、今後の雇用情勢に変化をもたらすといえます。
金融関連の求人市場だけを見てみると、昨年末まではアメリカのダウンサイジングが始まっているにもかかわらず、外資(米)系企業における求人は新卒も中途も活発で、経済・マーケットの失速とは対照的なぐらいでした。「海外本社はダウンサイジングを実行しているが、日本支社はそれには連動するものではない」「日本市場は特異性が高く、業績は拡大しているので関係ない」とまで言い切る日本支社長や人事担当者がいたほどです。
しかし、そのような姿勢も限界にきたのか、今年の2月中頃からはシニアレベルに限定してはいるものの、ダウンサイジング・部門縮小などが起こるようになりました。一部のファンドや不動産金融企業は経営上の大きな曲がり角にさしかかっており「求人の凍結/延期」といった施策をとるところも出ています。弊社の金融関連顧客企業の一割強程度で、求人が止まり始めました。外資系金融関連企業の多くが半期を終えたばかりですが、その業績を見ていると、今後の採用活動について「注意」から「警報」に変わったと感じるものもあります。金融機関に元気がないと事業会社にも当然影響が及びますので、今年は個人のキャリア形成にとって、本当に用心が必要な年になると思います。
1998年にも、求人市場に同様の雰囲気が漂っていたことが思い起こされます。
金融機関の求人意欲は今後もまだまだ低下してしまうと思いますが、一方で現在はプロフェショナルが求められる時代でもあります。求人がゼロになるなどということはなく、スキルの高い経験者に絞った求人は継続的に行われます。
しかしながら、新しく金融業界に入りたいという方にとっては求人がほとんどなく、また採用された場合でも極めて警戒すべき業界であることは間違いありません。業界動向を読めないと、大変リスクの高いキャリアとなります。また、業界全体でのポジション数が減少し、求人市場に多くの人材が出てくる局面に変わりますので、買い手市場化が進んでいくでしょう。金融業界は更なる統廃合やM&Aなどの形で、まだまだ大きな出来事が起きても当然の状況であり、このような求人市場の買い手傾向が夏から秋にかけて続くと筆者は見ています。
1998年の金融再編当時は、政府系銀行や上場企業である金融大手が破綻するなど、日本の産業社会にとって夢にも思わない大事件でした。ですから、そこに所属する人への同情も少なからずありました。1998年は個人のキャリア形成に対する意識・価値観等が変わるきっかけとなった年だったのですが、そこから10年が経過した今、個人が様々な経済・社会の変化も織り込み済みで自らキャリア選択をしなくてはならない時代へと移っています。
外資系不動産ファンド等では本社での損金計上をまだ行っていないところがあり、損益の状況が外からは見えない場合があります。例えば、その日本支社長から「ぜひ来てくれ」と言われた場合、皆さんはどのように判断をするでしょうか? 金融業界経験者であれば、それなりにDue Diligentするための情報を友人・知人経由等で持っているでしょうが、異業界から転職する個人の場合、それらの情報がありません。
日本支社長から「ぜひ君のようなポテンシャルが必要だ」といわれ、30歳でボーナスも含めて年収2000万円を超える可能性を示唆された場合、舞い上がってしまい、入社の判断を下してしまう人が大半ではないでしょうか。その結果、入社後2週間で日本のダウンサイジングが発表されたり、投資を控える決定がなされてしまい、またも転職活動を余議なくされてしまうこともあるのです。このような状況が現実に起こりうることを、是非知っておいていただきたいと思います。
もしそのような状況に陥った場合には、再度転職活動をする中で”金融のプロとして何故事態を事前に見抜けなかったのか”と厳しい目で市場に判断されることになります。1998年と現在とでは、そこが大きく異なるところです。
弊社にも不動産関連のファンドや開発会社の顧客が多数ありますし、勿論ご推薦したい会社も多々あります。それでもその会社について、万全の保証がされるものではありません。弊社ですら知りえないこともあります。できる限り、懸念される点について事前に調査・確認・検討されることが重要です。(もちろん、弊社もできる限りのお手伝いをいたします)勝ち組の金融機関や日系大手なら安心、ブランドやプライマリーだから大丈夫、プリンシパルな投資ファンドだから安全…などという思い込みは、まったく当てになりません。
10年前、日系大手金融機関では、総合職採用が基本でした。しかし、現在はプロフェショナル職といったポジションを設けているところが多数あります。現在価値を上げてボーナス部分に厚みをもたせ、退職金も積み立てずに当期で報酬を支払ってしまう制度を設定し、従来の総合職に比べてはるかに高い年収を提供できる環境を取り入れています。実際、30代で年収3000万円を超える例も出てきました。このような仕組みは、外資系出身のプロの金融マンを採用するためであったり、逆にプロフェショナルな人材を外に出さないためのリテンションが目的であったりします。
しかしながら筆者は、その2つが目的であるだけでなく、外資並みのダウンサイジングを実行しやすい仕組みができあがったともとれると見なしています。日系企業でもダウンサイジングを容易に行う素地ができつつあると感じています。
前号でも書きましたが、予感や推察といった部分が、個人のキャリア選択の意志決定において、大事なポイントになってきたと考えています。現職に残るか早期に退職すべきか…様々な噂が立ち始めた企業に所属する人にとって、直観的な部分が案外重要だと思います。例えば売却や倒産が決定して新聞発表がされた後では、その金融機関に所属している個人は本当に転職することが難しくなります。いっきに市場に同僚が出て行くわけですから、その意味でも再就職は困難になります。
「倒産発表の最後まで頑張った」というのは、ベンチャー企業では評価されても、大手金融機関などでは「M&Aのプロとして自社が売却されることが予見できなかった」ということで、そのロイヤリティーは評価されません。逆に情報収集力・判断力に欠けると評価を下げられてしまうのは前述したとおりです。発表前に応募してきた人材は採用対象にしても、発表後に応募してきた人材は対象にされない、あるいはディスカウントして評価されてしまうといった事態が起ります。
実務の能力さえあればタイミングを多少逸しても大丈夫、と思われる方がおられるかもしれません。それは20代の人材に当てはめるなら正しいといえます。しかし、40代以上の金融マンがタイミングを逸すれば、高報酬レンジへの転職は非常に困難になってしまいます。ですから、筆者のこれまでの経験から申し上げられるアドバイスとしては、「危ない」との直観が働けば早期に転職活動に着手することです。発表後は、手遅れといっても過言ではありません。
(ただし、これは金融業界での場合で、事業会社であれば倒産・M&A等の発表が起きた後でも、個人のコンピテンシーを使えば転職は可能です。評価の点でディスカウントされることもありません。)
いずれにしても、2008年は、日本の金融市場の変化から目を離せない年になっています。
関連情報
- 「総務省・統計局」平成20年2月の完全失業率『3.9%』(3月28日公表)
- 「厚生労働省・職業安定局」平成20年2月の有効求人倍率『0.97倍』(3月28日公表)
コンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)