転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2006年 4月~6月 
2006.04.01

求人の復調は、転職希望者にとって真の僥倖か?

2006年2月の有効求人倍率は1.04倍となり、昨年12月から連続3か月継続して1.0倍以上を維持しています。振り返るとバブル絶頂期であった91年の1.4倍をピークに、92年には1.27倍、バブル崩壊の93年には0.8倍までいっきに落ち込み、1.0倍をなかなか越えませんでした。ここ最近の数値の動きは、13年ぶりの復調といえます。

アクシアムが誕生したのは93年の9月。求人倍率が最低であった時期に創業したわけですが、この一年で急激に求人需要が拡大し、創業以来もっとも人材市場が拡大していることをひしひしと体感しています。そして、その中身も変化したと思うのです。

ご承知のとおり、求人には公募とスカウトがありますが、スカウトの中にも機密性の高いものとそうでないものがあります。現在、特にその「機密性の高いスカウト」が、劇的に増加しています。

ちなみに、それらのスカウト案件に共通しているのは、求人が発生する前に、必ず資本が動くこと。例えばプライベートエクイティーなどバイアウトファンドによる経営再生・経営戦略の変更には、資本がまず動きます。その資本を動かすのは、会社の株主です。株主から依頼される求人の内容は「経営陣あるいはそれを補佐するポジションの候補者を探してほしい」というもの。また公開、未公開にかかわらず、戦略的に機密性の高いマネジメント、マネージャー、スタッフの求人にも、それに先立ってまず事業投資が行われます。

資本が動かないところに、求人はないといっても過言ではありません。日本のお金が今、どのくらい国内の事業投資・再生に向かっているか正確な実態を知ることはできませんが、設備等はもちろんのこと、「人材育成」にも向けられることを願うばかりです。(現状、企業内研修や育成関連の企画・運営の担当責任者、あるいはマネージャーなどの求人も増えています。人材育成のための企業内投資が行われている結果であればよいのですが。)

すこし話が逸れましたが、増加する「機密性の高い求人」の中でも、注目すべきはマネジメント層の求人です。以前のバブル期のおける1.47倍という数字は、スタッフ層の求人がほぼ大半を占めていたものでしょう。一方、今回の求人倍率1.0倍以上という復調の陰には、前回見当たらなかったマネジメント人材の求人の高まりが潜んでいます。

しかしながら、マネージャーはまだしも、マネジメントともなると人材不足の感がぬぐえません。自信、実績、リスク判断、経営判断、経営の執行……経営者に求められるものは様々あり、そのすべてが経験・見識をもたらす“実践”を通じて得られるものです。その“実践”を伴う人材が、圧倒的に不足しています。

ベンチャーや外資系企業の多くは、経営候補者を40代、あるいは30代に求め始めています。つまり、お金=資本の投資を行う人たちは、逓減するような安定を狙わず、グロースという成長や、新規価値創造というリスクを負う企業の目論み達成のために、エネルギーと時間=資本の投資ができる若者を選ぶ傾向にあるのです。

派遣社員であった人は、しっかりスキルがついていれば正社員になれるよい機会です。年齢にかかわらず、マネジメントを狙うチャンスも到来しています。しかし、求人倍率が復帰したことで社会全体(特に新卒や20代)において、安定志向・組織志向・終身雇用志向が強まっており、よりリスクを回避する傾向にあるのではないでしょうか。

それも一つの価値観なのかもしれませんが、そのような人たちが、将来マネジメントというリスクテイクせざるを得ない立場になれる人材には到底みえません。“責任回避型中間管理職予備軍”に見えてしまうのは私だけでしょうか?回答責任を備えたリーダーを見つけるのが、より困難になってきたように感じています。

就職市場において「買手市場」の時期には個人が自分を見つめ、磨くことができ、「売手市場」の時期には個人が自己を見失い、埋もれてしまいがちになります。「売手市場」となった今こそ、より自分を磨くことに努めたいものです。そのような人こそ、未来のリーダーとして突出してくるのではないでしょうか。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)