転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2006年 新春特別号 
2006.01.01

業界別2006年求人市場の最新動向

アクシアムのキャリアコンサルタントが見る、業界ごとの2006年求人市場動向です。

製造業

昨年に引き続き、2006年も「30代後半から40代のマネジメント候補」の求人が増えると思われます。特に、企業再生関連で、投資サイド(PEなど)からの“新しい経営陣”を求める求人がしばしば見られるようになりました。このマネジメント候補の求人の増加傾向は、まだまだ続いていくでしょう。

また、昨年の後半からは、昨年から始まったM&Aやアライアンス推進、事業開発系求人に加えて「エンジニアリング」あるいは「財務会計」「監査」「情報システム」などの部門でもマネージャークラス以上の求人が増える兆しが見られました。製造業においては、従来、社内の人材で充足していた分野なので、この変化は昨年の特徴的なものといえます。今後も、製造業での本格的なスカウト型求人の増加は続くものと思われます。

ライフサイエンス

関係各省庁の試算によると、バイオテクノロジー関連の産業だけで2010年には市場規模が約25兆円にまで拡大するとされており、研究者や技術者の不足が指摘されています。当然ながら、この分野のマネジメントも不足してきます。さらにライフサイエンス、ヘルスケア分野となれば、この何倍もの市場や新規雇用が見込まれます。しかし、果たしてこれらの業界を目指す人材が増加したり、産業社会の中で育成されているでしょうか?今後その点が懸念されるところです。

第四次バイオブームともいえる活発な業界の動きは、単なるブームではなく、既に産業全体の底流になりつつあります。大学発のバイオベンチャーが数多く創業されましたが、本当に投資家や顧客の期待に応えられるかどうか、そろそろ選別が始まるでしょう。

ゲノム創薬、バイオインフォマティク、疫学研究、遺伝子治療、発生、再生医療、ヒト幹細胞、パーソナル医療、介護……これらの研究や商品化、産業化、国際化は一過性のものではありませんので、長期的な視点で見ていくことが不可欠です。今年もこの業界からの求人は増加していくものと思われます。外資系、ベンチャー、公的機関それぞれからの求人が活発であり、日系大手の求人はそれらに比べ動きが鈍いようです。

IT

求人件数に関しては、昨年からの回復基調が2006年も持続します。急速な技術発展と、それに関連する産業のニーズから、システムのインフラ需要が伸長。さらにいくつかの企業の大型プロジェクトが立ち上がりつつあり、情報への投資が加速していく情勢です。そのため「プロジェクトマネージャー」や「プロジェクト管理」の求人ニーズが高まり、経験豊富な技術者(特に上流行程の人材が不足)を求める声が今まで以上に高まりそうです。

また、Web系と組み込み系のソフト開発のニーズが顕著であり、セキュリティ関連の求人が増えてきます。知識・技術を備えた優秀な若手人材が求められるのはもちろん、プロジェクトを牽引できる経験を備えたマネージャー層が必要とされそうです。

サービス

引き続き、新事業立ち上げ・M&A戦略・提携戦略が進み、それらに携わる「事業開発系ポジション」の求人が増加する予想です。今日のサービス業界は、コスト削減が極限近くまで進み、費用対効果のより高いサービスが拡大する傾向にあります。

そのような流れの中で、特に注目される分野は「教育」「介護」「不動産金融」。いずれも求人が活発です。また、富裕層向けサービスを手がける分野も好調。全体として人材は流動的であり、正社員に限らず、多様な雇用形態で人材を確保しようという企業の目論見が見られるのも特徴です。

コンサルティング

業界全体で求人が増加しています。各社とも景気回復に下支えされた受注が増えており、かなり人手不足の状況です。また、いわゆるブティックタイプのコンサルティング会社やコンサルティング部門(10名前後の組織で高い専門性を持ったコンサルティングを展開しているファーム)が増員をかけたり、あるいは新規に立ち上がったりして人手不足感が増しています。例えば金融、PEやVCに絡んだ案件、CRM、製薬業界などに特化した専門的ファームなどで求人が増えています。

なお、ブティックタイプのコンサルティング会社では、コンサルタント経験者でマネージャークラス以上を担える人材を求める傾向が強いといえます。(もちろん若手のポテンシャル採用も行っていますが)。その一方で、個人側ではコンサルタント人気に翳りが見えはじめており、少数の候補者にオファーが集中する現象もみられます。

求人が増えているということは、もちろん今までどおり選考が非常に厳しい状況には変わりないのですが、今からコンサルティング業界に入っていきたい方には選択の幅もあり、大きなチャンスが到来しているといえます。

金融

プレイベート・エクイティーへの人気が、投資銀行より高まったのが2005年。MBOファンドや企業再生、M&A関連の求人が増加しましたが、2006年はマネーマーケット関連の求人が数年ぶりに増加しそうです。日系大手の再編が子会社も含め完了しつつあり、金融株が上がり始めるにしたがい、業界全般の求人も増加してきました。

2001年から2005年まで底を打ったように聞かれなかったデリィバティブやエクイティー、ボンド、引受けなどのカバレッジバンキングが活発になります。プライベートバンキング関連のポジションは需要のわりに志望者が少なく、停滞ぎみ。また、ベンチャーキャピタルでも求人が増えています。30代前後の金融のプロでスキルとポテンシャルのある方の争奪戦が、外資・日系・銀行・証券・信託・投資銀行・PE・VC・ファンドで行われていきそうです。

動産関連の求人については大手以外は落ち着きそうですが、大手ではまだ需要が拡大しています。新たに日本に参入予定の新規PEの存在も噂されており、一段とプロ対プロの世界が展開していきそうです。一方で個人投資家が尊重される時代になり、金融関連情報サービス、PFIコンサルタント、M&Aコンサルタント、トランザクション、リスクマネジメント、コンプライアンス関連の求人も、金融機関あるいはサービス提供産業として金融機関以上に求人需要が急拡大するものと思われます。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)