転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2000年 1月~3月 
2000.01.10

21世紀にアクシアムができること

2000年を迎えるにあたり、今号ではジョブマーケットの状況だけをお伝えするのではなく、マーケットを昨年1年見て来たアクシアムからのメッセージとしてお送り致します。長文ですがお時間があったら是非お読みいただけると嬉しいです。初めて就職活動を行う学生の方にも参考になるかもしれません。

2000年にアクシアムが成し遂げたいこと

私たちアクシアムは市場のニーズに応えるため、キャリアメーカーとして心から成し遂げたいことは何かと考えてみました。これは困難であっても少しずつ実現していきたいことです。先ず、「キャリアクエスト」を通じて、産業社会の変化を一人でも多くの方に正しく知っていただき、展望をもって変化をチャンスに変えていく意識変革のお手伝いをしたいと思っていること。次に、長い時間が掛かったとしても一人一人のキャリアメイク達成を応援し、一人でも多くの起業家(アントレプレナー)や企業家(エンタープライザー)を社会に輩出するため、アドバイスと情報提供をすることです。これらは企業の名簿から電話を掛けていくといった単純なヘッドハンティングでは、成し得ないことだと思っています。人生のマネジメントに成功する人にこそ、投資家が経営を委ねる時代です。若くして「展職」を実現する人を今ほど社会が求めている時代はないのではないでしょうか。

現在、「大企業で20年勤めた部長経験者が欲しい」などという看板に依存した求人は一切無いと断言できます。きっとこうなるはず、という幻想、願望からキャリアを捜すことはやめ自分で考え創りましょう。所属組織の規模を問わずそこで何を成し得たか、自分の強み=コンピテンスが次の時代に合致しているかどうかを考えましょう。コンピテンスを備えた人材を顧客にご紹介することは、言い換えれば顧客に競争優位性を提供することだと言えます。

20世紀の常識は次世紀の非常識、捨てさる知恵と獲得すべき知恵

今、アクシアムには財務・経理、マーケティングなど各分野でコンピテンスをもった人材が欲しいという声が寄せられ、ベンチャー企業、外資系企業から、新規事業開発や、新しい技術や知恵を備えた人が望まれています。私たちが成し遂げたいことは、この声を一人でも多くの適格者に届け、相互の展望が合致していれば、新しいキャリアのための機会の創造につなげるということです。

工業社会にも発展を支える知恵はありました。しかし経験に基づく過去の知識、見識、知恵と呼ばれるものが今ほど邪魔とされることは無かったのではないでしょうか。自社のモノを売り込むことに専念していれば良い時代、供給過多を引き起こした経済構造は終焉し、資源を有効活用せざるを得ない21世紀、社会から求められる人物像は大きく変わってきています。サービス、付加価値産業の発展する時代が到来し、アクシアムが受託する求人案件変化は99年劇的でした。98年には製造業からの求人依頼が全体の65%であったのが、99年には逆転し35%程度に低迷し、サービス業での人材の需要が急激に拡大中です。

需要側の声、即ち現実的な経営者や株主の声を多く聞くこと、更に市場の声を聞きながらも市場に翻弄されること無く、長期的な視野を持ち続けることが重要です。成功への戦略的キャリアメイキングに必要なものは、自分らしい人生設計と自己責任&自己選択のバランス、そしてより相手のことを思いやることではないかと思います。ビジネスを行う中で、こちらは思いやっているのに先方からは見返りが無いと思っておられる方もいるでしょうが、思っているだけでは無理で、思いを伝える充分な表現力と自分が成し遂げた結果をもっていなければ分かり合うことは難しく、ちょっと昔のように以心伝心とは行かない時代になったことも確かです。

コンピテンスとは競争優位性を備えた力です。新規性の高い技術や、ノウハウもこれに当たりますが、知識だけではすぐに広がってその人だけのコンピテンスとはなり難いでしょう。プラスアルファが必要です。市場が求めるキャリアのコンピテンスと意識とはどの様なものかまだよく理解されてなかったり、誤解されたままです。今まで就職といえば「会社」を探す行為であり、中には会社を転々として転落し、失業するケースもありました。会社単位の発想概念を捨て去り、個人単位で社会構造を考えた場合、経営者に成りたければ株主という個に対して説明責任と競争優位性をもった人材になるべきだと思います。マネジャーに成りたければ、経営者に対し説明責任をもった人材になる必要があります。スタッフであれば経営者から信任されているマネジャーに対して、自分の強みをアピールする必要がります。また、これからは株主や経営者や同僚や自分のボスを選べるようにもなってきて360度の評価もなされつつあります。人間を見るアナログの力は、ネットワーク社会で今まで以上に要となってきています。労働市場といっても、まとめて一箇所で市場(いちば)が開かれている訳では無く、株主や経営者という個人が多数いるところに自分から売り込んで行くことになります。

「キャリア」という言葉もまだ誤解されることが多く、「キャリア志向」と呼ばれるものは、大抵の場合キャリアトラック、硬直的な組織内の既成職業遍歴、もしくはがむしゃらに働く人のことを指す風潮がありますが、そうではありません。必ずしも経営者や権限志向の人を意味するのではなく、各自が自分らしい人生設計を描き、自分を信じ、自分の展望を果たすために、相手のいる市場で意味のある努力を継続して行うことを意味します。

キャリアの最終ゴールとして経営者とマネージャーを目指すのとではキャリアプランの設計が違ってくるでしょう。プランを実現できるかどうかは市場が厳しく判断することになるでしょうが、キャリアの評価はあくまでも各自が人生の最後に行えるものでもあります。キャリアは決して単なる生計をたてるだけのものではなく、既に個人のアイデンティティーとなりつつあります。

モノ創り幻想と高度教育水準の幻想

企業の定義は「財・サービスを社会に提供し続けるところ」です。この「財」をモノと捉え、「サービス」を「小売業」などと間違って考えている人が以外と多く、コンピュータソフトやIT産業、通信までモノの概念に入れてしまっている人が多いようです。ビジネスコンサルタントや会計、法律など専門的で高度なサービスを提供する企業は、そのどちらにも入らないように解釈されていることもあります。コンサルタントを「先生」とよんだり、勤め先が「◯◯事務所」なので企業とは違うのだという錯覚です。工業社会の概念から離れて、サービス産業、付加価値産業を理解する必要がありますね。

また、「狭い業界知識」を持ち続けることイコール「コンピテンス」だと思っている人もいます。グローバルとインターナショナルを今だに区別できておらず、海外勤務から帰国後はすぐに外資系社長になれると思っている幻想家もこれにあたります。銀行に長かったので企業財務は任せてもらえるだろうという過去の幻想で求職活動する人、大企業での経験は中小企業で活かせるという幻想家、英語ができるので国際的な感覚を活かした仕事ならできるだろうという幻想家も沢山います。残念ながら、色々な思い込みやマインドセットでキャリアの選択肢が埋め尽くされています。

これらの人は供給過多状態となっており、市場での価値を持っていないことに気づかないまま過ごしています。供給過多の社会で不良資産を抱えた企業と同じで、個人のキャリアも不良資産化してしまってはいけません。同質のキャリアが供給過多の状態にあれば、資産価値は下がり、時価総額(現在価値)がつかない人材ばかりになってしまいます。

同質の人材を生み出す高等教育や就職後の会社研修にも問題はあると思います。日本は高度な教育水準といっても、社会が必要としている知識を教育機関が与えているというのは思い込みで、もうこれ以上不要だというくらい同レベルの同質人材を輩出する構造です。恐ろしいのは、不景気に成れば成るほど均等化に向けて皆と同じ行動を取ろうとしている人が多いように感じることです。例えば社会人で大学院への進学者が増加していますが、その知識を将来どう活かすのか、自分の関心ある分野で最も先駆的な教授がどこにいるかといった判断基準を持っている方は本当に少数です。学校側も他との違いを打ち出せる教育方針、カリキュラムが学校経営上も必要であるにも関わらず、差別化されていないところが多すぎます。どんな企業が卒業生を採用しに来てくれるかという情報公開ができる大学院就職課は殆ど無いというのはおかしいと思いませんか。社会人入学とはいうものの「学生はやっぱり授業料を払う消費者である」という悲しい認識を学校側が持っているのでしょうか。だとしたら残念なことです。人生を賭けて大学院で勉強している社会人も少なくなってしまうでしょう。投資収益性を全く無視して数年を知識習得に時間を使うよりは、事業のひとつでも起こした方がよほど勉強になるかもしれないと思うくらいです。

大学入学の段階、いやもっと前の小学校の受験戦争で既に固定概念ができ上がっていたりして、「主体的に学ぶこと、その後それをどう活かすか考えること、人の話に耳を傾けながらも自分オリジナルの考え方を尊重すること」の準備すら実践されていないという問題はもっと根深いのだろうと思います。キャリアのコンピテンスであるとか、資産であると思い込んでいたものも、多数同じものを持っている方がいるようでは絶対的なコンピテンスに成ら無いということも認識しておくべきでしょう。劇的な変化は、常識が既に幻想となっていることに気づかない人には全くお構い無しに、どんどん進んでいってしまいます。

これを読まれて、当然だと思った方、参考になったと思った方、様々だと思います。会社、学校や家庭で常識と呼ばれていたものに『?』を付け始めた方も多いかと思います。

ベンチャーは給与が低いといわれていることもかなりの変化を見せ始めました。外資系金融機関よりも日本のベンチャー企業の方が既に賃金が高いケースも増加し始めました。一方、「年収は半額になったがこれは一時的なものであると思っているし、大企業で得られなかった生き甲斐や自由な裁量があり実に充実している」といった人も少なくありません。逆に「大企業だからこそ今これができる。このチャンスを自分のキャリアにも活かす」という人もいます。

21世紀は、「人との違い」が「人のネットワーク」の中で、活かされる時代でもあるように思います。ある人だけが持ち得る価値観から大きな力が生まれることもあるでしょう。

自分の強みを最大限に表現できる場を皆さんが創るためのサポートを、アクシアムも21世紀に掛けて更に続けていきます。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)