転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

1999年 7月~9月 
1999.07.01

企業家になるか?起業家になるか?

男子失業率は5%を超えた。女性は4.5%である。この高い失業率はまだまだ高まるだろうと多くの人が予測している。ではその雇用をどうすれば増やせるのだろうか?

いったい誰が増やしてくれるのだろう?

投資家も経営者も、本気で雇用を創造したいのだろうか?雇用の拡大にベンチャーの育成が言われて久しい。何よりも起業家を産み出す社会構造を作り出すことが優先だとも言われている。だが雇用を産み出すことを第一の目的にしたベンチャー起業家にまだ会ったことがない。

日本の大企業に10年以上在籍した人の多くは「リスクをマネージすること」と「リスクを回避すること」を混同しているのではないか。自分なりの展望や目標を探すために展職するのではなく、転職して自分のキャリアの保全ばかりを求めている。だからどこに移るにしてもリスクに映る。自分でキャリアを切り開き、会社に利益をもたらし、社会にプラスをもたらすどころか、それをイメージすることすらできないのである。ビジョンというほど大げさでなくとも、「うまくいく」と自分で思うことすらできないのである。マイナスをイメージすることは容易である。本当にこれで大企業を舞台に活躍してきたのだろうかと思える人が多い。外資系や、日本の中小企業や、ましてはベンチャー企業ではとても通じないだろう。こんな人はきっと大企業の中でも通用していないのに、雇用だけが継続されてきたのではないだろうか。

社会は『Entrepreneur/起業家』だけを必要としているのではなく、大きな企業を革新的に経営してゆける『Enterpriser/企業家』をも必要としている。どちらもリスクをとって、利益をもたらす人である。どちらも革新的な人々である。失敗を恐れず創業する起業家だけでなく、大きな会社でリスクをマネジメントして、会社の生産性をさらに上げて行く経営者、管理職、すなわち企業家が必要なのである。起業家もやがては会社を大きく育み、企業家となる。企業は事実として「起業家精神をそなえた企業家」を必要とするが、起業したい人を必要とはしていない。起業家は、創業時には創業メンバーとして起業家を受け入れるが、大きくなるにつれて企業家を必要とする。

起業家と企業家はどこが違うのか?英和辞典を見てみよう。

起業家:Entrepreneur Entrepreneur:1.企(起)業家 2.興行主 3.仲介者

企業家:Enterpriser Enterprising:1.企業心(進取の気性)に富んだ、積極的な 2.冒険好きな

ベンチャー起業家が冒険だとされる一般解釈に比べ、企業家に冒険の意味が含まれるところあたり、辞書の記載とはいえ、考えさせられる。

また起業家の意味に含まれる「興行」は、起業家が自分の夢やビジョンに、投資家や従業員を巻きこんでゆく様を表わしているようでおもしろい。スピンアウトしたからとか、転職先がないからベンチャー始めますでは、とても自分の雇用ですら開発できるわけはない。

企業家や起業家を目指そう。会社に勤めて実績を出しただけで役員になってもらっては、株主も顧客も困る時代になってきた。経営能力は、サラリーマンをやっていればそのうち備わるというものではない。ご褒美でもない。他人の雇用を作れる人が企業家や起業家だ。大きな組織で雇用を大きく生みだす企業家も、起業家に負けずもっと胸をはろう。リスクをとって雇用に貢献しよう。

ジョブマーケットで増加してきている求人需要は、企業家を対象とするものである。成長しながら高い収益性を実現している外資系やベンチャー企業では、マネジャーやディレクターの求人が後を絶たない。リスクを回避する人(言い訳を用意する人)ではなく、リスクをマネジメントして利益を出せる人が欲しいのだ。マーケティングの能力やセンス、事業計画の設計、事業開発をリードできる企業家のことである。スピード、自信、実績、国際性など全てが備わっていなければならず、しかも35~40歳で社長として株主への説明責任を果たせ、従業員を惹き付ける人である。使命を自分で作れる人だけが次世代のリーダーになれる。今までの日本のマーケットでは「はみだしもの」がこれに当たっていたが、資本の国際化により、博士でビジネスができる人、技術者でマーケティングも財務も強い人、20代でコンサルタントの経験があって30代は事業会社にいたような人が、新たな企業家のイメージである。皆と同じ情報、価値感、答えしか用意できない人では、新たな社会の需要に応えられない。

エースが起業し、エースが企業を大きく冒険に導き、結果に責任をもつ時代である。経営者の結果とは、雇用や株主の利益を創りだすことである。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)