転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

1997年 7月~9月 
1997.07.01

キャリアメーカーが雇用の流動を担う時代

中高年の問題 (総務庁97年6月7日発表の労働力特別調査結果を踏まえて)

1年間に離職を経験した人数
(前年度に比べ増加傾向)
約674万人
1年間に離職を経験した後、再就職した人数
(全体の約44.4%が再就職可能)
約299万人
1年間に人材紹介(有料職業紹介事業)を経由し就職した人数
(全体の約3%)
約2万人

なぜ?たった2万人しか人材紹介会社を利用しないのか?

理由は3つあります。まず第一に、労働省から認可をうけている人材紹介会社が、有料職業紹介事業所と職業安定法で名称が定められていたため、キャリアの相談や職業紹介が有料だと思っている人が多いようです。(今年4月の法改正で、有料職業紹介事業所の名称をつけなくてよいことになりました。)二番目には、人材から信頼されている職業紹介会社がまだ少なく、キャリアメーカーと呼ばれる海外のプロフェッショナルとはほど遠いサービスしか提供できていないことです。

三番目は、個々人のキャリアに関する考え方の問題です。今までは再就職は構造として会社の責任とされてきたことです。日本企業間では同業企業への転職は存在せず、関連会社への出向が当たり前となっています。今までの産業構造では、自らキャリアを設計し実行した人はあまりいなかったと申せます。これからは、会社内でのキャリアプランのみならず、広くグローバルな市場でのキャリアプランを若い間に考え実行しなくては、生産性の高い人材として会社にも社会にも貢献する事は叶いません。これからますます労働市場の常識は変わっていきます。将来の社会構造を先取りした社会的普遍的妥当性のある能力開発を若い間に行う必要があります。今の中高年の多くが就労できない問題の主たる原因は、会社内で役立つ能力開発に終始してしまっており、いざ再就職の際に労働市場で評価される能力、意志を待ち合わせていない事です。それに気付いても時間を戻す事ができない事です。でもバブルがはじけた後からでも対策を講じる事はできたでしょうし、今からでも対策を立てる事は可能です。これだけ変化していても、自分はリストラの対象にはならないと思い込んでいる人も多く、35才以下の若い人でもなおさらこの事実に気付いていない人が大勢います。実際に再就職活動を行ってから、初めて労働市場で求められるものの内容とレベルと高さに愕然としてしまいます。

これからはもっとキャリアメーカーのサービスを活用する事をお薦めします。

半数以上の離職者が1年間以上、職を見つけられない状態にいます。さらに、再就職後の報酬はかなり減少しているものと思われます。基本的な流れとしては、”Pay for Position” となってきている事に気づくことが重要です。スタッフとしての報酬、マネジャーとしての報酬、経営者としての報酬などが、それぞれ明確に分かれる傾向にあります。勤続年数に依存した評価から、数字で判断できない「キャリアの価値」を判定しなくてはならない時代とも言えます。ともすれば、知識や能力のみが労働市場で身を守る術と喧伝される傾向にありますが、それに加えて、人生としての価値を過去、現在、そして未来に見い出しているかどうかが大切な時代になってきています。『会社』への貢献のみならず『社会』への貢献でキャリアを設計する事が必要です。若い世代への手本となるキャリアを実行して下さい。

しかしながら現実的に今の日本の労働市場では、会社から離れてしまった場合には報酬や社会的利益が著しく低くなってしまいます。このため中高年層は、さらに会社に残留しようという依存傾向を深める事となります。本当は、働く権利について自律した正しい主張ができるだけの意志と能力を備えているべきなのですが。自分から労働市場に打って出るだけの『ビジョン』や『思い』と呼ばれる心の側面が不足し、加えて現実的な職能経歴が不足しています。時間を戻せない中高年にとってこの問題は深刻ですが、1~5年の準備期間があればセカンドキャリアの設計は可能です。報酬を目的にせず、自分らしいキャリアデザインとその実行が大切です。『ビジョン』や『思い』を持ち、生涯人間として社会と関わる事がキャリアの証です。自分で命を運ぶのが運命ではないでしょうか?

約6600万人の労働人口構成

  製造業 農業 建設 流通 飲食 サービス
現在の主な構成 1500万人 400万人 600万人 1200万人 500万人 1800万人
今後増加する産業 教育、スポーツ、レジャー、飲食、医療、文化、健康

これからキャリアが求められる産業は、家計で言えばその他の支出にあたるものです。産業や経済の二重構造はさらに深刻となる可能性もあります。工業社会からネットワーク社会へと変化する中、キャリア感も大きく変わってきています。具体的には年収500万円程度の領域で生活していく人口比率が85%、800万円以上が15%と言われています。いずれにしても200兆円の日本の資産と、300~600万人の人的資源の再分配を早急に進めるべき事態です。

概況

97年5月の有効求人倍率は0.73倍で、前月よりわずかに上昇。2ヵ月ぶりに改善

完全失業率は3.5%と前月より0.2ポイント上昇し、過去最悪の水準。
特に女性の失業率は3.8%と過去最悪。
転職などを理由に自発的に離職した失業者は101万人に達した。(総務庁5/27発表)

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)