転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

1995年 7月~9月 
1995.07.01

労働白書“高失業社会”宣言

6月末に発表された平成7年度労働白書によれば、既に日本社会が「高失業率社会」に入っている事が明らかとなっています。就業者の6割が既にサービス業に就労していますが、今後さらにこの業種における人材には、プロフェッショナルである事が望まれています。

白書からは、労働省が市場を正しく認識し懸命に需給調節対策を行っている事が判り、高く評価できます。しかし残念な事にホワイトカラーの職能開発支援のために平成6年から初まったビジネスキャリア制度には、「人事・労務・能力開発」「財務・経理」などのコースをすでに5000名が受講終了しているとのですが、本当にこの制度がその人々に再雇用をもたらしたかどうかまだはっきりしません。折角の制度も社会が受け入れなくては意味がありません。またこの制度についても政府が勧める資格だからと言う理由だけで受験するのではなく、真に社会が必要としている職能で自分に適したものかどうかを判断した上でチャレンジするべきだと思います。もしこのコース終了者のどなたか、このインターネットのページを読まれたなら、この点についてぜひご意見を直接伺いたいと思います。お便りお待ちしています。

日本の失業率は現在3%程度で上昇してきています。特に60~64才と15~24才の層における失業率が特に高くなっています。ECやアメリカと比較した場合、アメリカは5~8%で経済状況に合わせて上下するものの、ある意味では安定しています。この理由は個人が仕事を国や企業に頼っていない事があげられます。インターン制度など、日本にも昔あった丁稚奉公的雇用形態(無給就労による職能開発)など、若いころから高学歴者も低学歴者も、自分自身で会社や職能を選ぶキャリアに対する姿勢が現れているだと思われます。ダウンサイジングが吹き荒れたこの数年間でも、大手企業をレイオフされた人材が職能を活かしてベンチャー企業に就労したり、個人事務所開設したりできる社会環境にあります。

一方ECは日本の比にならない程、失業率がさらに上昇しており、日本以上に構造的な問題が顕在化しています。アメリカほどベンチャーが活発でない事に起因するように思えます。白書には述べられていませんでしたが、アメリカは今後、若手就労者数が増加し、加えて外国人知識者層をも受け入れていきますが、日本ではこの2つの層が減少してゆく事も問題です。今後、新規価値創造を若者にのみ任せるのではなく、中高年者にも経験を活かしてほしいと期待します。そのためには労働省のみならず、政府全体で明快な雇用創造への対策の立案と早期実施が望まれます。

概況

5月の有効求人倍率は0.63、失業率は3.1

90年代に16万人が就労していた証券業界では、現在11万人まで減少し、今後さらに8万人にまで削減しないと、経営が成り立たないと言われています。また6月28日のオート・トーク決着により自動車業界ではさらに3万人が雇用を失うと言う専門家もいます。マルチメディアの市場が将来約123兆円となり新規雇用が生まれたとしても、そこへ就労するには、それなりの職能が必要です。すでにこれらマルチメディア業界から発生し始めた求人内容を見ましても、現在の労働市場では、その職能要求に見合った人材がほとんど見当たりません。すなわち日本の大学や専門学校、さらに企業内研修によって、これら新規産業(仕事)のために、プロの人材あるいは候補者を創造しているとは言い難い状況です。学校教育だけでなく、産業界も教育機関と共に、将来必要な人材育成に乗り出すべき時期が到来しています。

また金融機関でも、外資系企業から弊社に依頼される求人のプロフィールの能力は、資産管理、年金運用、商品開発、審査業務など、バブル期より高度になってきています。金融実務を通じて一早く人材を育成しなければ、東京市場が取り残されそうな気配です。バブル期の税金対策研修ではなく、今こそ将来に必要な人材を育成するための投資が必要です。

マルチメディア時代の人材活用

6月30日の日経新聞生活家庭欄でインターネットによる求人状況が取り上げられ、大学生達が日本の大企業に求人情報掲載を期待している姿が出ていました。大企業人事担当者の本音としては、見込みのない応募者との連絡に多大な時間を取られるインターネットほど採用効率が悪いものはないと思っている事に、学生の方々も早く気付いて欲しいと思います。もっとインターネットを活発に利用する企業にこそ就職先を見い出してはいかがでしょうか。

英語ができる方には、アメリカで既に始まっている、全米5000社以上の求人情報が掲載されているサーバーをご紹介します。ご覧になるだけではなく、応募はもちろん、ご自分のレジメを登録し、実際にどのような企業から連絡が来るか挑戦してはいかがですか?すでにレジメは国境を越えられる状況です。

現在、ベンチャーウェブの求人募集には数社のみ掲載されていますが、今後増える見込みです。各求人掲載企業の人事の方のお話では、外国人からの応募が多く、今後は日本人の方々からの応募が期待されます。履歴書や質問をどしどし送ってあげて下さい。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)