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2018年7月

ティール組織 ~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~
フレデリック・ラルー(著)、嘉村賢州(解説)、鈴木立哉(翻訳)

今月は今年1月の刊行以来、話題となっている組織論の本『ティール組織』を取り上げたいと思います。

著者であるフレデリック・ラルー氏はマッキンゼーで10年以上にわたり活躍した、組織変革に関する専門家。マッキンゼーを辞して独立後、約2年半もの時間をかけて世界中の組織を調査・研究し、本書を執筆しました。

著者は人類の誕生以来、組織というものは5つの段階を経て発達してきていて、現在はその5段階めである新たなモデルが出現しつつある最中だと主張します。その5段階めが、本の邦題にもなっている「ティール組織」だというのです。そして、『人類の意識が新たな段階に移動するたびに、新しい協働のあり方、言い換えれば新たな組織モデルを生み出してきた(「はじめに~新しい組織モデルの出現」より引用)』として、その発達の契機となるのは人々のパラダイムの変化であると結論付けました。発達心理学の研究に紐づけて組織論を展開した点は、非常にユニークかつ画期的です。

本書のキーワードである“ティール(teal)”とはそもそも色を表す英単語で、青と緑の中間色とでもいえばイメージしやすいでしょうか。著者は以下のように、原始から発達してきた各段階の組織に色を当てはめ、その特徴を説明し、最新段階の組織を表現するのに“ティール(teal)”を選びました。

【人類のパラダイムと組織の発達段階】 ※日本語版付録より

無色
血縁関係中心の小集団。10数人程度。「自己と他者」「自己と環境」という区別がない。

神秘的(マゼンダ)
数百人の人々で構成される部族へ拡大。自己と他者の区別が始まるが世界の中心は自分。物事の因果関係への理解が不十分で神秘的。

衝動型(レッド)
組織生活の最初の形態、数百人から数万人の規模へ。力、恐怖による支配。マフィア、ギャングなど。自他の区分、単純な因果関係の理解により分業が成立。

順応型(アンバー)
部族社会から農業、国家、文明、官僚制の時代へ。時間の流れによる因果関係を理解し、計画が可能に。規則、規律、規範による階層構造の誕生。教会や軍隊。

達成型(オレンジ)
科学技術の発展と、イノベーション、起業家精神の時代へ。「命令と統制」から「予測と統制」。実力主義の誕生。効率的で複雑な階層組織。多国籍企業。

多元型(グリーン)
多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織の時代へ。ボトムアップの意思決定、多数のステークホルダー。

進化型(ティール)
変化の激しい時代における生命体型組織の時代へ。自主経営(セルフマネジメント)、全体性(ホールネス)、存在目的を重視する独自の慣行。

学生時代に生物学を専攻していた私としては、人類の進化になぞらえた組織の発達論、その最新段階に生命が生まれる海の碧色のような“ティール(teal)”が用いられているのはとても興味深いですし、組織の発達のプロセスが何か進化論をトレースしているようにも思え、「まったく新たな組織が出現しつつある」という著者の主張にも納得させられました。ただそこには、進化論とは異なって、適者生存というより相互進化ともいうべき発展があるようにも感じました。生物学も組織論もまだまだ発見や解明、発明の余地が大きい分野。今後の更なる研究にも期待したいところです。

さて、これまで尊敬されてきた会社の多くは、著者の定義でいえば達成型(オレンジ)のグローバル組織やその経営者でした。私がアクシアムを創業し、マネジメント・リーダー人材の皆さんのキャリアをご支援して25年以上が経ちますが、その間に世界の産業構造は加速度的に変貌。あのGEですらダウ銘柄から外れ、いま組織、そしてリーダーの在り方は、明らかに変わりつつあります。GE、IBM、マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブックなどの名だたる企業が、これからブロックチェーン・エコノミーやシェアリング・エコノミー、AIやシンギュラリティなどの波を乗り越えられるのかという時期に、本書が刊行されたのは感慨深いことです。

著者は、何よりも“ティール(teal)”という新しい文化、そのバラダイムを共有する時代が来ていると説いています。本書の中では何度もオランダの非営利在宅ケア組織・ビュートゾルフが取り上げられますが、そこでは、階層やコンセンサスに頼ることなく仲間との関係性の中で動く「自主経営(セルフマネジメント)」、自分があるがままの姿で働き組織がそれに寄り添う「全体性(ホールネス)」、組織と個人とが目指すべき「存在目的」を共有するという、“ティール(teal)”ならではの特徴が顕著にみられ、ティール組織の成功事例として紹介されています。

これからの組織の在り方、働き方を模索するにあたって、ひとつのテーゼが“ティール(teal)”なのは間違いないでしょう。ただ、今までの組織管理論にそれぞれ弊害があったように、進化の途中ではストレートな正解はありません。実際にティール組織をロールモデルとして改革を狙う場合にも、まだまだ十分な議論、準備が求められるのだと思います。

組織の一人一人が自主経営、つまり自らのリーダーとなり集合体を作る自律的な組織。組織の目的が集まったメンバーにより進化し、メンバーの生きがいをサポートする/し合う組織…。そのような組織が数多く存在する世界とは、どんなものなのでしょうか。まるでクラウドコンピューターのように、メインフレームもサーバーも不要で、人間の仕事が機能と感情でつながっているのでしょうか。ぜひ皆さんも本書のページを開き、これからの組織や働き方に思いを馳せてみてください。

ティール組織 ~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~ 出版社:英治出版
著者:フレデリック・ラルー(著)、嘉村賢州(解説)、鈴木立哉(翻訳)

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)