転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2017年9月

戦略コンサルティング・ファームの面接攻略法 ~マッキンゼーの元面接官が教える秘密のノウハウ~
ビクター・チェン (著)、渡部典子(訳)

小生は仕事柄、戦略コンサルティング・ファーム(以下、戦略ファーム)在籍者、もしくはこれから目指す方とお話をする機会が比較的多くあります。昨今、戦略ファーム業界は求人数がとても多く、ゆえに選考の難易度は一昔前に比べるとやや下がった感はありますが、それでもかなりの確率で選考過程において脱落してしまう、狭き門の業界であることに間違いはありません。

本書はタイトルだけを見ると、戦略ファームの面接対策本のように思えますが、わかりやすさ、解説の深さなど、面接対策面においてももちろん秀逸なうえ、コンサルタントの仕事についても様々な角度から触れており、コンサルタントという職業はどのような仕事を行い、何が必要とされるのか? どのような思考で業務にあたっているのか? を学べる書になっています。

著名な経営者の中には戦略ファーム出身者も多く、そういった経営者がどんな思考で経営状況を分析し、経営にかかわる事象を分解して考えているのかに迫ることができるのではないかと思い、今回の『キャリアに効く一冊』に取り上げた次第です。

以下に、本書に紹介されていた内容のうち、彼らの思考過程を知ることができるポイントを挙げてみました。

3 「定問題の基本スキル」より
・大きな数字を正しく計算する
・切りのいい数字をうまく使う…一つの計算の中で、最初の数字を小さく丸めたならば、あとの数字で大きく丸めて相殺し、誤差を小さくする。コンサルタントの多くは、誤差が±20%以内であれば「かなり良い推定」と考えるのが一般的。
・プロキシ(あるものの代理として機能するもの)を見つける

5 「インタビュアーは志望者に何を求めているのか」より
「私はこの人をフォーチュン500の企業のところへ、指導者なしに1人で送り込むことができるだろうか。この人はクライアントとうまく接しながら、クライアントの問題を解決し、会社の評価を高めてくれるだろうか」。これこそ、コンサルタントがインタビューをしながら考えていることであるが、ほとんどの志望者はこのような視点を理解していない。(中略)別の表現をすると、インタビュアーは次のように自問自答しているのである。「この人はすぐに自力で問題解決ができる人材になってくれるだろうか。それとも私が何年間もつきっきりで面倒を見ることになるだろうか。」

7 「仮説の効果的な用い方」より
仮説主導のアプローチでは、最初に立てた仮説が結果的に正しくなかったということがしばしば起こるが、この場合でも「何が正しくないのか」を素早く、確信を持って判断し、その仮説をボツにすることができる。考えられる結論の幅が狭められることによって、問題解決に要するプロセスが短縮されるのだ。

8 「イシュー・ツリーの使い方/準備しすぎ症候群」より
インタビュアーが志望者は「準備しすぎだ」とこぼす場合、次の2つのいずれかを意味している。
・その志望者は誤った準備に時間をかけすぎている。
・その志望者はけケースをうまく始め、しっかりと組み立て、枝の分析もうまくこなしたが、このレベルのスキルの志望者なら通常は見逃さないキーインサイトを外している。そのため、結論から特定の要素が抜け落ちてしまっている。
 
インタビュアーが「準備しすぎだ」と評価するときの真意は、その準備が間違っており、志望者が暗記したことに凝り固まって、ケース・インタビューの間に論理的に聞いたり考えたりすることを基本的にストップさせていることにある。ケース・インタビューは思考ゲームであり、記憶を呼び覚ますゲームではない。(中略)インタビューで求められているのは、思考のできる志望者であり、特定のフレームワークに関連した15の質問を盲目的に思い出すことではない。重要なのは15の質問をすることではなく、15のうち最初のいくつかの質問への答えを聞いて理解し、そこで起きていることを考え(仮説構築)、あるフレームワークを使い続けてよいかどうかを判断することだ。

16 「志望者主導のケースの始め方/インタビュアーから情報を引き出す」より
コンサルタントとして働くなら、常に時間と資源の制約下に置かれる。熟考したうえでの論理的アプローチは、コンサルタントとして生き残るために欠かせない。だから、コンサルティング・ファームは志望者にこうした能力があるかどうかを見ていくのだ。以下は、ケースを始めるための5つの実用的なステップである。
 
ステップ1 時間を稼げ
ステップ2 理解したことを明確にする
ステップ3 再び時間を稼げ
ステップ4 自らの仮説を述べる
ステップ5 分析、構造化したケースを図に表す

21 「グループ・ケース・インタビュー/新人コンサルタントはなぜ失敗するのか」より
・マネジメント・スキルが弱い(クライアントをマネジメントするスキルが弱い)
新人コンサルタントは自分の正しさを必死に証明しようとするあまり、クライアントに恥ずかしい思いをさせたり、面目をつぶしたり、怒らせたりすることがある。しかし本来は、“外交的”に「異なる見解」として、自分のロジックを説明し、クライアントに恥をかかせることなく、新しい見方で物事をとらえる機会を与えるべきなのだ。
 
・頑固で理屈っぽい
新人コンサルタントの中には、自分が最初に思いつかなかったアイデアを受け入れるのに苦労する人もいる。(中略)間違いだとわかっていても、面子を保つためにごり押しするコンサルタントもいる。それよりも、ほかの人が正しことを認めて、その人の計画やアイデアで進めることに合意すべきだ。(中略)コンサルティング・ファームでは、事実に基づく(特に直感に反する)インサイトを中心に日々物事が進められる。事実で裏付けを取って証明できない限り、あなたが何を考えようと重要ではない。事実を携えているなら、それを示せばいい。そうでないなら、そのことを認めて、先に進むだけの柔軟性が求められる。要するに、敵対的になってはいけないということだ。

24 「自信を示す方法」より
コンサルティング・ファームが探しているのは、自信あふれる態度でケース・インタビューに臨む志望者たちである。(中略)クライアントは表向き、重要な意思決定に必要な分析的業務をコンサルティング・ファームにアウトソースしているように見える。さらに言えば、クライアント(企業ではなく、取締役本人)はこれから下さねばならないビジネス上の意思決定に確信を持てずにいることが分かる。それは多くの場合、クライアント個人のキャリアが極めて高いリスクにさらされていたり、「キャリアをかけた」意思決定だったりするのだ。(中略)クライアントは分析だけにお金を払っているのではない。一連の具体的行動に対する、自信と安心を買っているのだ。(中略)コンサルティングとは、コンサルタントからクライアントへ の(意思決定における)自信の移転である。コンサルタント自身が全体的に、あるいは具体的な意思決定の提案に関して自信のない態度を示すようであれば、そうした移転は難しくなってしまう。
 
ケース・インタビューにおける自信は、以下の3つから生じる。
・テクニカル・スキル
・メンタル面の正しい認識
・徹底した練習

いかがですか? ケース面接、フェルミ推定など、戦略ファームの面接ではよく出題されるものですが、経営課題を解決する思考のコツ、解決までのアプローチなど、大いに参考になりそうです。ただし、同書を読んだからといって一足飛びに面接で高い評価を得られたり、経営スキルが身についたりすることはないでしょう。これまでに著者の作成した資料を使って、見事に採用通知を手にした人たちからの体験レポートによると、トップクラスのファームから採用通知を受け取った志望者の90%がケースの準備に50~100時間をかけていたそうです。

つまり繰り返しの修練こそが重要であり、にわか仕込みに事前に準備をすれば、偶然面接が通るようなことはないということです。いくつものファームからオファーが提示されるよう、経営をあらゆる角度から見られる基礎力をしっかりと身につけることを目指すほうが、むしろ近道なのでしょう。それがコンサルタントになるため、さらに一流のコンサルタントになるため、さらに一流の経営者となるために必要なことなのだと小生は捉えました。

本書の内容は、戦略ファームを目指す人にはもちろん、事業会社サイドで経営を目指す人にも実業務に活かしていただけるはずです。戦略ファームの面接対策本はすでに多くの書が出版されていますが、その中でも間違いなく良書に入る一冊といえると思います。

戦略コンサルティング・ファームの面接攻略法 ~マッキンゼーの元面接官が教える秘密のノウハウ~ 出版社:ダイヤモンド社
著者:ビクター・チェン (著)、渡部典子(訳)

コンサルタント

若張 正道

株式会社アクシアム 
取締役/エグゼクティブ・コンサルタント/人材紹介事業推進マネジャー

若張 正道

大学卒業後、大手食品商社の営業部門からキャリアをスタート。人材サービスに関心があったことから、2001年、アクシアム入社。新規事業であるMBAをメインとしたネットリクルーティングサービスの立ち上げに参画。無事にローンチを果たし、その後は人材紹介事業推進マネジャー 兼 エグゼクティブ・コンサルタントとして、ハイエンド人材の展望ある転職=「展職」を支援している。