転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2017年2月

99.9%の人間関係はいらない ~「孤独力」を磨けば、キャリアは拓ける~
安井 元康 (著)

今月は、元・経営共創基盤のプリンシパルで、現在は株式会社MCJにて取締役に就いておられる安井元康氏が、昨年12月に上梓された本をご紹介したいと思います。

なんともインパクトがあるタイトルのとおり、安井氏は本書で「0.1%の人間関係が充実していれば、残りの99.9%の人間関係はいらない」と主張。自分に嘘をつくことでストレスをため、他人に嫌われないために生きるのではなく、自分らしいキャリアや自分が信じる道を進むために、堂々と嫌われても良いのだと説いています。本書は、知らず知らずのうちに社会や学歴といったものに自分の生き方を決められてしまっている人たちにとって、救いの書となるかもしれません。

一方、「人間関係をリストラすることや周りの人から嫌われることで、キャリアが拓けるなどあり得ない!」と一見しただけで、本書を手にも取らない人もいらっしゃることでしょう。世の中の99.9%の人たちは、まさに「人間関係こそが大切」「人脈は多いほうが良い」「他者から評価され、好かれるほうが良い」と教えられてきたのですから。

しかしながら、「自分の人生を誰かにコントロールされ、思いのままにならなかった」「 “意味のある人間関係”とは何かわからなくなった」などと後悔する前に、少し立ち止まって、安井氏のような異なる価値観で自らの人生を眺めてみるのも大切なのではないでしょうか。

0.1%の人間関係を充実させるには、周囲の99.9%の人に合わせ、仲間内だけで評価されるような行いはまったく意味がありません。自分が信じるもののために自らを磨き、人生を貫く力を持つことこそが重要になります。本書では、現在進行形で成長を目指す人には、昔の武勇伝を語るしかない先輩や、同じ話しかしない知人は必要ないとバッサリと切り捨てられています。残りの0.1%の人間関係を充実させるために努力を惜しまない人について、「確かに孤独かもしれないが、周りの外部環境からのけ者扱いされている“孤立者”ではない」と安井氏。主体性と勇気を持ち、所属する会社や組織ではなく社外に通じる力を蓄えよ、というわけです。

安井氏にとっての「良い会社」の定義は明快です。「自分にとって成長のチャンスのある会社」であり、それは「努力×環境=結果」の法則が成立する会社。私もこの意見には同意です。自分の能力を磨くことができ自分の能力が生かせる環境であれば良い結果が出るという、至極当然のことなのですが、そのような場ばかりではないのが残念なところ。ですから「ズレている基準に自分を合わせるのではなく、自分が自分のままで評価される場所を探す」べきだというのです。

また安井氏は、キャリアプランについても本書の中で言及しています。

私はことキャリアにおいて長期の目標なんぞ立てる必要はないと思っています。 ~中略~ 職業の選択肢が限られている中で、なおかつ安定や成長が比較的容易に見通せたがゆえに、長期の目標を立てること(または立てたと言い張ること)が可能だったのです。ところがご存知のとおり、現状はキャリアを取り巻く環境が不透明感と不確実性に支配されていますから、長期的な目標を持つことが適した時代のメンタリティーでは生きていけないのです。 ~中略~ 「今の自分よりも凄い自分になっていたい」、または「幸せな人生を送っていたい」。それだけで十分です。

安井氏が言うように、不確実な事象の多い現在においては、確かに長期的ゴールを無理に定める必要はありません。しかしながら、5年程度のスパンでの展望を持ち、その実現に向けて行動することは、キャリア形成上、とても大切だと私は考えます。

安井氏ご自身、まだまだ人生で最も挑戦をする年齢にあります。そして、成長をし続けておられます。それもあって、まだ本書では人生をかける価値、人間の生きる意味、社会に行うべき還元等についてコメントすることを意図的に避けているか、排除しているように感じました。(また、そのようなコメントは99.9%の人たちが喜びそうな内容になってしまうからかもしれません。)しかしながら、きっと10年後に新たな著書を出されるときには、そのあたりのことにも安井氏らしい視点で言及いただけるものと期待しています。

私の知る著者・安井氏は、決して社会への貢献や他人への思いやりを無視してキャリア形成してきた人ではありません。本書は優秀で恵まれた人よりも、たとえ飛び抜けて優秀でなくとも、たとえ環境に恵まれていなくても、自らの人生の可能性を信じ、幸福な人生を送ろうと懸命に努力する人達へのエール、生き方の指南書です。

本書の最後に、2014年11月に弊社が主催したキャリアフォーラムにおいて、経営共創基盤・代表の冨山和彦氏と、当時同社に勤務していた安井氏をお招きした時の、冨山氏の基調講演、そして冨山氏と安井氏のパネルディスカッション(小生がコーディネート)が収録されています。

本書で述べられている「0.1%の持つべき人間関係」とは、安井氏にとってはきっと冨山代表のような方を示すのだろうと思って本書を読み終えました。

99.9%の人間関係はいらない ~「孤独力」を磨けば、キャリアは拓ける~ 出版社:中央公論新社
著者:安井 元康 (著)

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)