転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2017年1月

ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」 ビジネスで勝ち残るための13の教え
ジャック・ウェルチ、スージー・ウェルチ(著), 斎藤聖美(訳)

書店で目に飛び込んできた『リアルライフMBA』の文字。今月は、MBAの方々のキャリアをサポートさせていただいている身として、思わず手に取った一冊をご紹介いたします。

本書の著者はジャック・ウェルチ氏と奥様のスージー・ウェルチ氏。ジャック・ウェルチ氏は1981年から2001年までの20年間、GEで会長兼CEOとして経営手腕を発揮しました。その実力と実績は、フォーブス誌が2000年に「世紀の経営者」と称えたほどです。

ウェルチ氏は2010年からオンラインでMBAプログラムを提供(※1)していますが、本書ではどのようなことを述べているのか? 日々の業務の中で遭遇する現実・事象について、何を考えどのように実践していくべきと教えているのか? そしてそれらを具体的にはどうやって行うのか? 等々、その内容に引き込まれ、つぎつぎと興味が湧いて一気に読み進めてしまいました。
※1ジャック・ウェルチ経営大学院

本書は今日におけるビジネスとは何なのか、どのようにビジネスゲームは戦われているのか、それを理解するフレームワークと実践について多数の実例を示し述べています。その文体は「やあ、おめでとう」「よし、いいぞ!」「いいか…」などなど、「君(である読者一人一人)」に熱く語りかけていて、まるで講義を聴いているかのようです。そして実に分かり易く、ビジネスで勝つためにはどのように考え行動すればよいか、講義(指導)してくれます。

まず「ビジネス」について企業のあり方を述べ、次に「チームとそれを率いるリーダー(リーダーシップ)」のあり方を説き、最後に「自分について」考える。各章毎に具体的な取り組みポイントが満載で、「確かに!」と納得できます。しかも、階層(マネジメント、リーダー、スタッフ)に関係なく、現在の自分の仕事に当てはめて考えられる内容なのです。最初は本の始めから読み進め、一読した後は、必要な時に必要な章を読み返せばいい。自分流に使いこなせるように、重要なポイントは章の最後にまとめてある工夫も、「自分の指導書」としてすぐに活用できると思いました。

本書は3部構成。それぞれの紹介とあわせて、私が頷けたポイントや気づいた点を交えて、以下にそのエッセンスをお伝えしたいと思います。皆さんも同様に「自分事」と感じていただけるのではないでしょうか。

【第1部 ゲームについて】

●ビジネスは究極の団体競技である。企業が市場で勝つために、最も重要なことは「ミッション、行動、結果」の一貫性があること。ミッション(目標)を明確にし、望ましい行動を列挙し、社員がこの2つをどのくらい達成したかを測り、それに対して褒賞する。

この一貫性が、一人一人が楽しく仕事に取り組み、チームが活性化し勝てる組織となるため最も重要なこと。シンプルで当たり前のようですが、それが難しい。だからこそウェルチ氏は本書の中で繰り返し「一貫性の重要性」を説いています。

●成長していくためには社員、メンバーがイノベーションを起こすようやる気を起こさせる「リーダーシップ」が必要である。ビジネスにおけるイノベーションは「絶え間ない、継続的な、通常業務」の改善である。「今日私の仕事をもっとよりよくする方法をみつけよう」。皆が仕事のやり方を常に改善する動きとなればインパクトが生まれる。そして改善されたこと、改善した人を褒め称えること。絶え間ない改善とイノベーションは同じである。

継続的な成長にイノベーションは欠かせません。イノベーションは一人一人の日々の改善の積み重ねであるとウェルチ氏は説きます。小さなことでも何か工夫はできないかと常に考え、実行することは、まさに「自分事」です。

●グローバリゼーションが成功するには4つの重要な要素がある。
1.グローバリゼーション戦略はウィンウィンになっているか
2.最も必要とされる唯一の資質 ― 優れた判断力を持つ人材を送り込んでいるか
3.リスクに対して現実的か
4.海外進出の利点をフルに活用しているか

昨今、各社でもグローバル展開に対応できる即戦力を探す求人が増えています。ウェルチ氏はグローバルに成功するために最も必要なことは「優れた判断力を備えた人材の配置」と言っています。ビジネス判断力、異なる文化に対する感受性・自信、地元の習慣・慣行を尊重した上で会社の意思ややり方をプッシュすべきか、今がその時か、あるいは否かを判断する力。海外事業拡大の成功の鍵は、そのような「優れた判断力をたっぷり持つ人材」が担っているかにかかります。そのような方を発掘し、企業へ紹介することの難しさを私自身も痛感しています。上記を満たし、優れた判断力をお持ちの方、今が大きなチャンスです!

●財務で絶対に知っておくべき用語「キャッシュフロー」「貸借対照表」「損益計算書(の勘定科目)」の関係性が描けること。とりわけ財務で関心があるのはたった一つ、差異分析だ。

つまり、差異分析はビジネスを判断する手段であり、可能性、リスク、真実を浮き彫りにするツールであると氏は述べます。「もう財務を恐れない」という章のタイトルで財務への精神的ハードルを下げ、必要なことをシンプルに教えてくれています。

【第2部 チームについて】
ここでは新たなリーダーシップの在り方と、「ワオ!(楽しい、興奮する、力を与える環境、会社に行きたいと思わせる環境)と言わせるチームづくり」のための現実的な方法が説かれます。

●リーダーに必要なものは2つだけ。
1.真実と信頼
2.絶え間なく真実を追い求め、たゆまず信頼を築く
「真実」とはビジネスの現状や今後の課題を1つ1つ掘り下げ、徹底的に本当のことを追求していくこと。

本当に戦う場所はどこだろうかと探していくこと。ビジネスではその「真実」は競争力を高める武器になります。レポートを鵜呑みにするのではなく掘り下げて考える、追求することが重要です。「真実」を扱い、「真実」を要求し、常に「真実」を見せるリーダーを人は「信頼」します。「信頼」がなければ「真実」は得られません。「信頼」は「話を良く聴くこと」「相手の頭の中に入り込むこと」、社員、上司、同僚、あらゆる関係者との出会いで、磨かれ鍛えられる自分を律する「筋力である」といっています。

●「ワオ!(楽しい、興奮する、力を与える環境、会社に行きたいと思わせる環境)と言わせるチームづくり」をするためのリーダーの戦術は下記の5つ。
1.心の奥底に入り込む
2.自分はチーフ・ミーニング・オフィサー(仕事に意義を見いだす最高責任者)。リーダーは仲間に目的を与えるために存在すると言っても過言ではない。「私たちはここに行くんだ。その理由はこれ。そこにたどり着く方法はこれ。そこで君はこういう役割を果たす。これが君の得るものだ」と、たゆまず情熱を込めて説明する。
3.部下の仕事の障害を取り除こう
4.「気前の良い遺伝子」を喜んで見せよう
5.仕事が楽しくなるように、マイルストーンを達成するたびに、もしくはささやかな成功のたびにお祝いをしよう。ユーモア、率直さを取り入れよう。社員が彼ららしくやれるようにしてあげよう。厳しいときにも社員が仕事をしたいと思うようでなければならない。そうするのはリーダーの仕事である。

楽しさだけではチームは成長しませんが、「ちいさな成功」でも「よくやったね」と褒められ、チームで分かち合えると嬉しくなります、次もやりきろうと意欲・行動が前向きになります。「褒める」ことはシンプルですが、これもなかなかできないことです。「達成したことは当たり前」となり、できていないことが目についてしまい「できていないことへの指摘」が出てしまいます。仕事でも、家庭でも「ワオ!」と言える環境を作り、楽しく取り組み成長し続けていく大切さに納得です。

【第3部 君のことだ】
「君=自分」のキャリア・マネジメントについて、ウェルチ流「展職」の見つけ方を教えてくれています。

●運命との出会い/運命の領域(AOD:Area of Destiny)。
「得意なコト(人より秀でることやもっとも影響を与えたこと)」と「好きなこと」の重なったところで次のキャリアを見つける。仕事が仕事でなくなり、充実感にあふれた人生となる。

●ワーク・ライフ・バランスではなく「ワーク・ライフの選択」
仕事と生活のバランスは人により価値観が変わる。80対20と言う人もいれば50対50が理想という人もいる。自分はどのようなバランスを人生に望むのか、掘り下げることをお勧めする。「私の選択はどのような結果をもたらすか? それは私の価値観と一致するだろうか?」これらの質問への回答に従って生きるのは「君」なのだから。

●キャリアに行き詰まった時は行き詰ったのはなぜだろう、と「真に理解」することから始まる。次は、抜け出すための6つの行動をおこそう。行き詰まりからの脱出は変革だ。6つ全てでなくても、自分が苦手と思ういくつかをピックアップし実行してみるだけで道が開ける。
1.期待以上のことをする
2.難しい任務を率先して引き受ける
3.意見を聞いてもらえるようにする
4.テクノロジーについていこう
5.全ての人はメンターだ
6.親切な態度、周囲を勇気づける態度に変える

●今の仕事が終わってもキャリアは終わらない、新しい自分への招待状。新たな仕事、新しい人達、新しいやり方、新しい習慣、新しいカルチャーの機敏。いままでのやり方を一旦捨てて変化を受け入れてみる。それが新しい可能性へ繋がり次のキャリアへ繋がって行く。

キャリア・マネジメントは、仕事をしているすべての人がどこかで遭遇する共通の問題です。正解はありませんが、どのように考えたら良いか、考え方の多くのヒントがここにあります。キャリアの行き詰まりから脱出する6つの行動は、ときに耳が痛く、取り組むのに力と意思が必要。ですが、どのように取り組むのか本書はわかりやすく示唆してくれます。

「ワーク・ライフの選択」「仕事が変わること、変えることは新しい自分への招待状」など、前向きに進むための後押しをしてくれる力強い言葉の数々は、新たなキャリア構築に勇気を与えてくれます。この第3部からは、まさに「自分事」として、あるいは一人の仕事人として、多くの示唆を受け大いにヒントを得ることができました。

以上、「ビジネス」「チーム」「君のこと」にまたがる13の教えのエッセンスをお伝えしましたが、それらをひと言で表すなら、下記の言葉に集約されるでしょう。

「何もせずに手をこまねいていることはリスクを意味する。もっと正確に言うなら、学びをやめることはリスクを意味する。積極的に学ぶと、君の組織、チーム、そして君のキャリアにどのような変化が起きるか、見てごらん。ワクワクした気持ち、成長、成功。そういった変化が出てくることだろう。」

力強く、そして心強い教えの数々が、もっとワクワクしたい、成長・成功したいと意欲をかき立ててくれる本書。すぐに使える具体的な行動のポイントは、皆さんのキャリア人生の一助になると思います。ぜひ、お勧めしたい一冊です。

最後にひと言。
「仕事は人生であり、人生そのもの、だからこそ愉しもう!」

ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」 ビジネスで勝ち残るための13の教え 出版社:日本経済新聞出版社
著者:ジャック・ウェルチ、スージー・ウェルチ(著), 斎藤聖美(訳)

コンサルタント

大石 順子

株式会社アクシアム 
エグゼクティブ・コンサルタント

大石 順子

大学卒業後、日系消費財メーカーに14年間在籍。その後、マーケティング・コンサルティングファーム、人材育成コンサルティング会社にて、顧客視点のマーケティング(リサーチ&商品開発)、新規事業戦略立案や新商品開発、CS調査・課題解決に携わる。2005年、アクシアムに参画。自らの展望を叶え、現職へ「展職」を果たした。“転々とする転職ではなく展望ある転職=「展職」を”という理念のもと、約10年間、キャリアコンサルタントとしてハイエンド人材のキャリア形成をサポート。キャンディデートひとりひとりの展望を実現すべく、その思いに寄り添った丁寧かつ的確なコンサルティングを提供中。