転職コラムキャリアに効く一冊

キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。

2016年7月

一流の頭脳の磨き方
山崎 裕二 (著), 岡田 美紀子 (著)

今月ご紹介するのは、Executive MBA(以下、EMBA)の真の意味を、多数の卒業生への聞き取りからまとめた会心の書『一流の頭脳の磨き方』です。

著者のお二人は、UCLA-NUSのEMBAプログラムの同窓生であり、それぞれビジネスの第一線で活躍されながら、EMBA卒業生の組織Japan EMBA Alumni事務局を共に運営されています。本書は、お二人自身の学びはもちろん、その豊富な人脈の叡智を結集し、世界のトップエリートたちがどのように「考える力」を磨いているのかをまとめた内容になっています。

通常のフルタイムのMBA留学と、EMBA留学の違いは何かといえば、留学前の職業経験の長さでしょう。MBA留学生に職業経験の比較的短い20代から30代前半の方が多いのに比べ、EMBAには30代後半から40代の人材が主流となっています。どちらもビジネス理論やビジネスフレームを学び、経営全般の知識を得ることや、ビジネスを進める上で経験だけで物事を判断しないための訓練を行うことなどは同じ。ただ両者が圧倒的に異なるのは、クラスへのコントリビューションという点です。EMBA留学生は既に多種多様のリアルなビジネス経験を積んでおり、参加者は授業からの学びに加え、学友からも多くの得難い知識や考え方を獲得することができるのです。本書を読み進めると、実際にEMBAにおいて圧倒的に現実的なクラスディスカッションが行われ、それこそが大きな学びとなっていることが良く理解できます。

通常のMBA留学は、卒業後のキャリアチェンジにかなり有効ですが、EMBAはそうではありません。またキャリアチェンジを目的のひとつにしている方も実際ほとんど見られません。EMBAの価値とは、ずばり「学び」のため。経営を目指し自分を真剣に高めようとすれば、これまでの10年、15年では不足しているものがたくさんあることがわかってきます。ですからEMBA志願者は単なる転職やキャリアアップのためではなく、純粋に自分を高めるため、頭脳を磨くために留学しています。著者ならびに本書の執筆に協力した人たちの共通の思いとは、このような「EMBAの価値」を多くの人に伝えたいというものなのです。

実際、著者のその目的は達せられているように思います。仕事をしながらでも世界の変化や他業種の変化を理解でき、また自分を見つめ直すことができるEMBAの面白さを、本書はリアルに表現しています。35歳以降もビジネス・プロフェッショナルとして自らを高めようと志す人に、本書はEMBA留学という選択肢について考える良いイントロダクトリーになるでしょう。

本書の序章には、ビジネスエリートの頭の中には「この学びが現場でどのように機能するのか?」「どんなビジネスを生み出すのか?」「どれほどの利益につながるのか?」といった発想が常にあり、インプットとアウトプットまでのスピード感にとにかく驚かされるというくだりがあります。彼らは「時はカネなり」の意識が非常に強く、そのスタイルは「学びと実践を同時進行させる」ことに尽きると語られ、彼らが重視する時間軸の有効性が随所で述べられています。また第3章では、「失敗しても叩かれても“次のチャレンジ”を考え続けろ」との主張がされ、日本人にはなかなか持てない「失敗にも価値がある」という考え方の重要性が説かれています。これらはまさにEMBAらしいものであり、35歳以上のビジネスパーソンにいま最も必要な価値観なのではと思いました。これからの日本社会に必要な人材とは、本書で述べられているような「次のチャレンジ」を考え続ける人、さらに言えば次のチャレンジを実行できるだけの、知識・経験・志(精神性)を鍛えた人なのではないでしょうか。

勿論、ビジネススクールだけが経営者を育成するわけではありません。しかしながら、とかく日本企業では若手人材には多数の研修プランが企画され、実行されるのに対し、中堅人材には社外に出ても通じるスキルや知識を得る機会が極めて少なくなってしまいがちです。現状、それを補うのは会社ではなく、自分自身。中堅の優秀な人材がEMBA留学を考えた時に、2~3年の間のうちにせめて12週間なりの期間を有給で取得でき、現場の仕事から離れることを許可するようなシステム(外資系企業が備えているような制度)が日本企業でも広がることを願ってやみません。

一流の頭脳の磨き方 出版社:ダイヤモンド社
著者:山崎 裕二 (著), 岡田 美紀子 (著)