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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2016年5月
史上最強の人生戦略マニュアル
フィリップ・マグロー(著) , 勝間和代(訳)
自分のキャリアを戦略的に設計するにはどうすればいいのか?
自分の人生をいかにデザインすべきか?
人生の選択はどう決定すればいいのか?
そもそも、何から考えればいいのか?
そんなご相談者からの質問に、キャリアコンサルタントとして数多くお答えしてきた私にとって、本書「史上最強の人生戦略マニュアル」は至極当たり前に思える指南書でした。その内容に何ら異論はありません。ですがもし本書を読まれたなら、読後にどこか違和感を持つ方も少なからずおられるはず。かく言う私もその一人でした。
しかしあえて、今月の『キャリアに効く一冊』に取り上げさせていただいた理由は、その違和感そのもの。異なる意見、異なる価値観を根底に備えた主張こそ、一度読んでみる、受け入れてみる、考えてみることが重要であり、新しい気づきを与えてくれることもあるからです。
本書は、訴訟コンサルタントのフィリップ・マグロー氏の著書「Life Strategies:Doing What Works, Doing What Matters」を、経済評論家の勝間和代氏が翻訳したもの。決して特別なことを述べているわけではなく、極めてベーシックな内容なのですが、その切れ味は鋭く、考え方が見事に体系付けられている点はさすがでした。臨床心理学の博士であり、また心理学を応用して訴訟弁護士に法廷戦略などの助言を行うコンサルタントとして活躍し、さらにテレビ司会者としても人気を博するなど、様々な分野で活躍するマグロ―氏の知見の深さからくるものなのでしょう。
まずもって本書は、第2章から読み始めることをお薦めします。著者は第2章から第11章までを割き、「人生の10の法則」を挙げて解説。これらの法則は厳然たるルールであり、人生戦略を考える上での基本ルールであると説いています。
<人生の10の法則>
法則(1)ものがわかっているか、いないか/第2章 本当に生きるということ
法則(2)人生の責任は自分にある/第3章 自分の選択と行動に焦点をあてる
法則(3)人はうまくいくことをする/第4章 「見返り」が行動を支配している
法則(4)自分が認めていないことは変えられない/第5章 問題は、あなたが認めるまで悪化していく
法則(5)人生は行動に報いる/第6章 違うことを「する」
法則(6)事実なんてない。あるのは認識だけ/第7章 過去の出来事を言い訳にしない
法則(7)人生は管理するもの。癒すものではない/第8章 今すぐに人生計画を立てる
法則(8)私たちは自分の扱い方を人に教えている/第9章 見返りを断つ
法則(9)許しには力がある/第10章 憎しみはあなたの心を変えてしまう
法則(10)自分が求めているものを知り、要求する/第11章 あなたのゴールラインはどこか?
特に第2章「本当に生きるということ」に挙げられた第1法則「ものがわかっているか、いないか」には、本書全体を貫くマグロ―氏の主張が込められています。
「これは非常に基本的な法則なので、人生戦略を立てるうえでの課題と受け止めるべきだ。もちろん、あなたがまだ、もののわかった人間の一人でないならば、そうなりたいと思うだろう。たいていどんな場合にも、もののわかった人間とそうでない人間がいる。両者を見分けるのは簡単だ。もののわかった人間は、その分いい思いをしている。ものがわかっていない人は、途方に暮れて挫折感を抱き、しばしば、やるだけ無駄なことをして、「どうも自分は運に見放されている」と不満を漏らす。もののわかった人は、調子を合わせることで、ただ何かをやるだけでなく、それを思い通りにしているように見える。はっきりとした成功の公式があることがわかっているから、馬鹿げた間違いを犯さないし、「~であるべき」といった考えにとらわれない。彼らには自分の公式がある。望む結果を生み出すのに必要な知識を身につけているので、いつも成功する。(中略)望む結果を生み出すのに必要な情報や技術もなしに行動すると、必ずこの「人生の法則」に背いてしまう。
同じ第2章の中で、自分の人生に関係する相手とうまく付き合っていくために、「彼らを動かしているものが何か」を知る必要があるとして、「他人を理解するための八つのリスト」と「万人に共通する10の特徴リスト」も紹介されていました。その内容は、臨床心理学者である著者ならではの指摘で、大変感心させられました。
<他人を理解するための八つのリスト>
(1)彼らは自分の人生で何をいちばん大事にしているのか?倫理だろうか?それとも金や成功だろうか?あるいは力だろうか?それとも思いやり?彼らの人生観の中で本当に重要なものは何だろう?
(2)彼らは、人生はどういうもので、どうあるべきだと期待し、そして信じているのか?
(3)彼らは、何に反発を抱き、どんな傾向―恐怖、偏見、先入観―があるのか?
(4)彼らは、どんな姿勢やアプローチ、あるいは哲学を拒絶もしくは認める傾向が強いのか?
(5)ある人物が「いい人」で、信用できるという結論を下すために、彼らは相手からどんな言葉を聞く必要があるのか?
(6)彼らはどういったことを適切だと見なすのか?
(7)彼らは自分のことをどのように思っているのか?
(8)彼らが人生にいちばん望んでいるのは何か?
<万人に共通する10の特徴リスト>
(1)すべての人がいちばん恐れるのは、「拒絶される」ことである
(2)すべての人がいちばん必要としているのは、「受け入れられる」ことである
(3)人を動かすには、相手の自尊心を傷つけない、もしくは、くすぐるようなやり方をとらなければならない
(4)人は皆―例外なしに―どんな状況にさしかかっても、「自分はどうなるのだろう?」という不安を、ある程度は抱く
(5)人は皆―例外なしに―自分にとって個人的に大事なことを話したがる
(6)人は、自分が理解できることだけに耳を傾け、自分の中に取り入れる
(7)人は、自分に好意を持っている人を好み、信じて頼る
(8)人はしばしば、はっきりとした理由もなく行動する
(9)上流階級の人の中にも、料簡の狭いつまらない人間がいる
(10)すべての人には―例外なしに―「外面」がある。あなたは、その仮面の向こうにあるものを見なくてはならない
いかがですか? 直感的に理解できているもの、あるいは書物等で読まれるなどして理解しているものもあるでしょう。しかし、あらためで言語化されたものを見ると、自分の中で抜け落ちている視点、観点が見つかるのではないですか。
また、マグロ―氏は第13章の中で、キャリアプランの設計マニュアルとなる「目標設定の七つのステップ」を読者に提示しています。第12章の最後のパラグラフ「夢と目標の違い」を述べた文章とともに、見てみましょう。
「独創性と空想にふけりたいという意欲さえあれば、夢は見られる。だが、こうした夢を現実に変えるためには、それだけでは不十分だ。エネルギーと戦略、計画、そして非常に特別なテクニックと知識が必要だ。私は、これらのさまざまな要素を、“戦略的人生設計”と呼んでいる。」
<目標設定の七つのステップ>
ステップ1 具体的な出来事や行動のかたちで自分の目標を表現する
ステップ2 達成度を測れるようなかたちで目標を表現する
ステップ3 目標に期限を設けよう
ステップ4 コントロールできる目標を選ぶ
ステップ5 目標達成につながる戦略を立てる
ステップ6 段階的な目標を定める
ステップ7 目標達成までの進捗状況に責任を持つ
実際に手につかめるのは、夢ではなく目標。現実的な目標を追求するのに重要なこの七つのステップを、計画の段階から取り入れることで、現状に変化を起こすための戦略がより有効になると著者は主張します。「目標を立てる」「目標をもつ」ことの中身をこのように分解し、ステップとして提示することで、なすべきことがより分かりやすくなり、効果が最大化されると感じました。
そして最後に、著者は「あなたが見つけ、従い続ける必要がある“必勝パターン”」すなわち「自分の公式」を見つけよ、と説きます。その近道として成功例を徹底的に研究すべし、というのです。
<「第14章 自分の公式を見つけよう」より抜粋>
「よく、失敗から学べと言われる。これは真実を突いた賢明な言葉だ。あるやり方で試みて失敗したら、あなたは失敗につながった態度や行動に特別の注意を払い、自分の選択肢から抹消する必要がある。人々がうまくいかない態度や行動にこだわり続けるのには、いつも驚かされる。人々は、頑固に同じ行動を取り続け、壁に何度も何度も頭をぶつけ、結局いつもの骨折り損のくたびれもうけになっていることに、気づいていないように見える。私はこうした人たちにそのことをたびたび指摘し、実に基本的に思える質問をぶつけてきた。「どんな手段やかたちをとっても自分の行動がうまくいっていないことに、あなたは気づかなければならない。いったいなぜ、しつこくそんな事を続けているのか?」。(中略)つねに成功している人は、幸福なのではない。突破口を自ら切り開いたのだ。目標や戦略はめいめい違うかもしれないが、彼らの戦略と成功するための計画をすべて並べれば、その戦略の核心に一定の共通項がある事に気づくだろう。この共通項は、成功の必要条件なのである。これがないと、あなたは失敗する。
<成功者が必ず持っている10の要素>
●ビジョン ●戦略 ●情熱 ●真実 ●柔軟性 ●リスク ●人の輪 ●行動 ●優先順位 ●自己管理
確かにうなずける点、学ぶべき指摘が多々あります。ただやはり、私にとってはしっくりこない思いも残りました。その端的な例が本書の結びの言葉にあります。
「現状や仕事が何であろうと、学校での成績がどの程度であろうと、あるいは学がなかろうと、「人生の法則」に従い、成功の公式の要点を自分の中に取り込めば、あなたも人生の勝者になれる。人生の勝者になる、ならないは、あなたの選択次第だ。」
本書に対して最後まで残る違和感の主な正体は、おそらく著者がいう「人生の法則」にしたがって成功の公式を守れば人生の勝者になれる、という箇所なのだと思います。
人生に偶然はないと信じる人、人生を自分でコントロールしたいと強く思う人には、本書は極めて有効な精神安定剤になるでしょう。そうでない人にとっても、気付きを与えてくれる数多くのエッセンスが本書にはちりばめられています。しかしながら、私にとってはやはり“他人と戦ってばかりの人生から学び取った公式”に思えてなりませんでした。私も私自身が望んでいるものは何か、いま一度よく考えてみなければならないのかもしれません。