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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2016年2月
キャリア転機の戦略論
榊原清則(著)
良書とは、アカデミアの分野においてもエッセイの分野においても、たとえ10年20年と年月を経たとしても「これは正しい」「共感できる」と思えるものを内包しています。
バブル華やかりし1989年に読んだ榊原清則先生の『ニューハードワーカー』(PHP研究所)は、私に鮮烈な印象を与えてくれました。その中で先生は、90年代には従来の会社への滅私奉公とは異なり、自主的にハードワークに励むプロフェッショナルが台頭すると述べておられました。その10年後、バブルが崩壊して日本の大手企業の経営破たんが起こり、人々の仕事観・職業観を揺るがすことになるのですが、この主張はまさに正しかったと思います。
そして今回、2004年に先生が上梓された『キャリア転機の戦略論』を久々に読み直してみて、見事に“今の日本におけるキャリア”を考える示唆に溢れていると驚きました。本書は「個人にとって大事である仕事、個人史に必ず訪れるキャリアの転機に、どのような戦略をとればよいのか」を問うた意欲作。そのようなテーマに対して先行研究を参照しつつ、独自要素を持った仮説を立て、データに突き合わせてその仮説を実証する手法で構成されています。
冒頭、大学を卒業して3年のある教え子からの相談が例示され、本書は始まります。朝9時から夜11時まで働く彼女は「まるで高度成長期の働きバチのようで、情けなくなる」と先生に打ち明けるのですが、彼女は「決してハードワーク自体に悩みがあるのではなく、じつは自分の生きたいワークスタイル、ライフスタイルというものがわからず、自分の職業人生について展望をもてないことが悩みなのだ」と先生は看破するのです。これは非常に重要な指摘です。
また先生は「仕事をもつということが人生の大事であるとしても、仕事との関係の仕方や生き方は、時代や文化によって様々である。その上で、キャリア(Career)とは、仕事上の経験が人と人生の中で、どういう時間的順序で起きるのかを表す言葉である。もともとキャリアという言葉の由来は、まっすぐに伸びる馬車道からきている(セネット1999年)といわれるが、今日ではまっすぐな積み重ねとしてのキャリアは珍しくなっているかもしれない。長期的な展望が立たないという声が多いのである」と述べ、危機感を募らせておられます。
私はアクシアムの創業以来、キャリアや職業人生について、どのような展望をもてばよいか? ということを本当にたくさんの方とご相談してきました。その中で目にしたのは、若者だけでなく、多くのミドルエイジの方々が長期的な展望を持っておられないこと。先生のご指摘と同様に、私もこれらのことがキャリア構築における最大の問題であると感じています。
また、本書をいま一度皆さんにお勧めしたいと思ったのは、欧州のビジネスパーソン12名分の個人史が紹介されている点にもあります。先生は、欧州のビジネススクールでMBAを取得した20代から60代の人材(若者からエクゼクエィブプログラムを終了したミドルエイジまで)を対象に、CV(履歴書)やレジュメを注意深く点検し、2時間の個別インタビューを実施。キャリア初期(20~30代前半)の3事例、キャリア中期(30代後半~40代)の6事例、キャリア後期(50代以上)の3事例を記録し、彼らあるいは彼女らが、どういうかたちで自分のキャリアを開拓し、発達をはかっているかを明らかにしています。
それらは決して“こうすれば成功する”といった簡単なノウハウのたぐいではありません。リストラや不況のさなか、高学歴といえども運・不運に見舞われ、もがきながら生きる人々。その記録から見えてくるのは、いい意味での「しぶとさ」と「適応力」です。そして、共通しているのは、年齢にかかわらず各自のキャリアを長期的にとらえ、多少なりとも「自分でデザインする必要性」を感じていること。それらが彼らや彼女らを輝かせているように感じました。
最後に、先生が挙げておられる、キャリアの転機を“戦略的に”乗り越えるための要点=キャリアを自覚的にデザインする際の要点をご紹介します。
- 短期ではなく中長期でとらえる
- 後手後手ではなく先手(環境変化に振り回されない)
- 先手を打つには、そもそもビジョンや使命や目標が必要
- メリハリをつけて選択する
- メリハリをつけて選択する際に(逆説的だが)自然な流れをつくる
榊原先生が私たちに示してくださった、欧州MBAホルダー12名のキャリア形成の記録(迫力ある事実の記録)は、特にこれから国内外のビジネススクールを目指す方、MBAを取得したがキャリアや人生の転機に直面している方には、大いに参考になるでしょう。ぜひ一読をお勧めしたいと思います。
◆この他、お勧めしたい榊原先生の著作
- 『経営学入門(上)(下)』日経文庫/2002年
- 『美しい企業 醜い企業』講談社/1996年
- 『講義のあとはパブで』実業之日本社/1996年
- 『日本企業の研究開発マネジメント―“組織内同形化”とその超克』千倉書房/1995年
- 『企業ドメインの戦略論―構想の大きな会社とは 』中央公論新社/1992年
- 『90年代・企業が求める人材の条件―「ニューハードワーカー」と「柔らかな経営」の時代』PHP研究所/1989年
◆YouTube 中央大学ビジネススクール公式Ch
榊原清則教授
本田宗一郎の言葉に「人生に回り道はない」というものがある。一見迂遠で遠回りに見えることでも、あとで考えてみると、結局なにごともその人の成長に役立たないものはない、というのである。名言と思い、私が大切にしている言葉である。