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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2016年1月
グローバルエリートの仕事作法
梅澤高明(著)
2016年の最初にご紹介するのは、A.T.カーニー日本法人会長であり、テレビの解説者としても人気の梅澤高明氏の書「グローバルエリートの仕事作法」です。「頂点に立つ人は何のために働くのか」という帯の言葉が示唆するとおり、じつは本書の本質は仕事のノウハウ本などではなく、梅澤氏ご自身のキャリア形成について描かれた自叙伝ともいえるもの。MBA留学を目指している若者、グローバルなビジネスエリートを目指している人には非常にお勧めの一冊です。
日産自動車から企業派遣生としてMITのMBA課程に留学し、33歳で卒業した著者。アメリカで多種多様な人材の中に身を置いて学ぶうち、卒業後もアメリカに残って仕事をしたいと強く希望するようになります。英語が得意でなかったという梅澤氏が、見事にA.T.カーニーのニューヨーク支社に採用されたのはなぜなのか? 本書にはその経緯が赤裸々に書かれているのですが、マーケティングをコアとした強み、キャリアチェンジに見えてその実はしっかりMBA留学以前の経験、すなわち日産自動車で培った力を持っていたこと(マーケティングや自動車産業における戦略策定をご自分のものとしていたこと)が、採用を勝ち取れた要因だったと打ち明けておられます。
そして今日まで、梅澤氏は戦略コンサルタントとして数々の実績を残してこられたわけですが、本書の後半では、構想だけで実現しなかったプロジェクトについても述べています。いわば成功談だけでなく失敗談や挫折談にも言及されているあたりは、グロービスやILSといった教育機関で教鞭をとり、若手人材の育成や社会貢献に心血を注いでこられた梅澤氏の実像、思いのたけが垣間見えるようです。また、日本人であることを誇りに思っておられる氏だからこそ語れると感じる内容も多く、様々な視点や示唆を得ることができるでしょう。本書全編にわたり、氏の筆致には成功者の高慢さが微塵もなく、高潔であり、グローバルリーダーとしての氏が提唱する“グローバルエリートの作法”そのものを体現しているようにも感じられました。
一方、舌鋒鋭く語られている箇所もあります。それは、MBAが活躍するグローバル企業と日本企業を対比してのくだり。MBAを求めるグローバル企業において彼らの形式知は必要不可欠なものですが、「MBAなど邪魔だ」といわれることも多い日本企業の現場重視主義については極めて辛口の論調で語られており(その内容には我が意を得たりの思いでした)、そのメリハリも大変興味深かったです。
梅澤氏はグローバルエリートになるために、3つのルートを列挙しています。
- 日本企業の海外部門で働く
- 外資系企業の日本支社に就職する
- 外資系企業に海外で就職する
ご自身は(3)を実現化したわけですが、このルートに進めるのは日本人MBAの数パーセントでしょう。その狭き門に限らず、それぞれのルートでのキャリア構築のポイントやアドバイスについても、本書では言及されています。
それから、グローバル企業で必要なスキルについて、氏は以下の5つを挙げています。
- ロジカルシンキング(論理的思考)
- アナリシス(分析)
- コミュニケーション(特にプレゼンテーション)
- リーダーシップ(ファシリテーション、議題とりまとめ、タスクへの落とし込み、ビジョン作成、メンバーのモチベーションの引き上げ等のスキル、人間性)
- クリエイティブシンキング(創造的思考)
各項目に関する詳細はお読みいただくとして、じつは本書をお勧めしたい一番の理由は、(5)クリエイティブシンキング(創造的思考)にあります。梅澤氏は本書の第五章すべてを使い、時代に即したキャリア戦略について「シナリオプラニング」で考える、という内容に割いておられます。「シナリオプラニング」のためには、このクリエイティブシンキング(創造的思考)のスキルを大いに活用しなければなりません。この不確実な時代には、大きなキャリアゴールに向けてひとつずつキャリアを積んでいくことが、必ずしも成功の秘訣といえないと、氏は自らの体験からも述べています。では、どうすべきなのか? そこで、シナリオプランニング的発想が役立つのです。
「シナリオプラニング」とは、不確実性の高い未来に柔軟に対応するために、考えられる環境変化のシナリオ(仮説の連鎖にもとづいてつくられる未来環境ストーリー)を複数用意して、それぞれのシナリオに対応した戦略を立案すること。キャリアの選択に際しては、キャリアプランをきちんと考えることも勿論重要です。しかし、決め込んだキャリアゴールに突き進むだけが人生ではありません。シナリオプランニング的発想を活用し、柔軟な考えを持っておくことが重要だと著者は説きます。そして、キャリアを選ぶのは最終的には頭ではなく、心から『感じること』。その時々で面白いと『感じた』ことに取り組むといったしなやかな思考が、これからのキャリアの成功には必要なのではないでしょうか。この点、ぜひ皆さんにも参考にしていただきたいと思います。
まさにこれまでの梅澤氏のキャリア形成は、クリエイティブシンキング(創造的思考)で成り立っています。本書の最後に、MITメディアラボの伊藤穣一所長の至言がそえられています。
「人工知能やロボットが我々の仕事を奪うことを恐れるのであれば、AIでも合格できるテストで評価するような教育をやめよ」
まさしくこれからの時代の教育、私たち自信の能力開発の指針ともいえる言葉で本書が締めくくられているのもまた、大変印象的でした。