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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2015年11月
世界基準の上司
赤羽雄二(著)
今月は、「上司」になったらぜひ読んでいただきたい一冊をご紹介します。スタッフ時代に上司の仕事の仕方について色々批判をしていた人も、実際にご自身が上司になり立場が変わると「部下をもつ上司の仕事」の難しさに気付かされます。高度成長時代の上司の在り方は、ある意味で楽でした。右肩上がりの成長で社内のポジション数はどんどん増加し、キャリアのインセンティブである出世がしやすかったからです。係長から課長、課長から部長、部長から本部長あたりまでは出世できるだろう、と誰もが容易に想定できました。つまり、上司と部下がすべてこの同じロジックで機能していたのです。しかし現在は、部下にとっても上司にとっても、将来与えられるはずだったポジションが必ずしも与えられない時代、それどころか正社員であり続ける保証などない時代になってしまいました。
本書はそんな新しい時代に、いかに「部下をもった上司として仕事をすべきか」を提言しています。タイトルにある“世界基準”あるいは“グローバル”という単語にアレルギーのある方もいらっしゃるかもしれませんが、筆者は決して外資はこうだ、世界ではこうだ、と主張するわけではありません。中小零細も含めて企業の規模に関わらず、どんな組織にも社員・管理職・経営者がいて、上司と部下の関係は存在します。筆者はそんなすべての会社において、上司(そしてひいては部下も)の働き方を考えるべき時代が来ていると主張しているのです。
本書の狙いは、あくまでも「上司」の働き方についてであり、経営者のそれではありませんが、部下を持つ者の在り方という意味では共通点があります。それは「上に立つものとして当然このくらいは行うべき」という最低基準です。しかし、この基準を満たせる「上司」が少ないことが、日本企業の大いなる問題だと筆者は指摘します。マッキンゼー時代から様々な企業において、数え切れない「上司」と関わってきた筆者には、痛烈にその実感があるのでしょう。高慢にならないよう注意深く筆を進めておられますが、いまの日本では現場の「上司」が時代に対応できていない、それどころかむしろ劣化しているとまで述べておられます。
筆者が挙げる「世界基準で活躍する上司の根本的考え方」10項目を、以下にご紹介します。
- 方針を明確に打ち出し、部門の成果を最大化する
- 部下の持つ力を最大限引き出し、成果を出す
- 成果を出しつつ、部下を最速、最大限育成する
- 部下の成長可能性を信じ、常にポジティブに接する
- 一人ひとりに合わせて部下育成を進める
- 部下育成は、上司の自己満足で行なうものではない
- 部下を罵倒したり感情の発散対象にはしない
- 部下は上司の奴隷ではない
- 部下育成は上司の責任、成長は部下の責任
- 部下に上司の意図を汲み、よいところだけ前向きに学ぶように教える
いかがですか。ご自分がもしこれらの視点に気付いていなかった、あるいは分かっているが実行は難しいと思われているのであれば、本書をぜひ手に取られることをお勧めします。上記の項目の説明のくだり、あるいはその他の章で、部下との効果的なコミュニケーション方法、チームから最大の力を引き出すための方法論、部下を育てるための心得など、非常に実践的な内容が書かれています。部下のやる気を引き出して、チームの成果を上げるきっかけを見い出していただけるかもしれません。
筆者が述べる心得の中で、とくに私が同感した内容はこちらです。
- 部下のできなかったところは上司が補う
- 外圧から部下を守ったときに初めて、部下との本当の信頼関係ができる
- ポジティブフィードバックは、慣れれば必ずできる
- 部下が失敗したときには「次回はこうすればうまくいく」と言えばいい
- 部下の心を無理にこじあけようとしない(のんびり待ち、焦らせない)
- 話を聞き出すのではなく、自然に話し出すのを待つ
- 話し出したら、無心に耳を傾ける
キャリア相談を行っていても、このような心得を理解し、身につけておられるマネージャー人材は少ないと感じます。ご自分よりポジションが上の経営者などを見て、リーダーシップを磨く努力をする方は多いのですが、部下との関係性を見つめ直してフォロアーシップを意識されている方は少ない印象です。
さて、私は経営者と上司の在り方や働き方は、組織のリーダーという意味では同じですが、かなり異なる点も多いと思っています。例えば本書では、部下の成長のためには「自分は無理」と思わせないことが大事であると指摘されています。有望な部下の心が折れてしまっては立ち直れなくなる、つぶれるのは上司の責任。これについては私も100%同感です。部下の力を伸ばす、力を引き出す方法として異論はありません。しかし、疑問もあります。本当にそんな環境から、未来の起業家や経営者が生まれてくるのだろうか、と。本書を読み、少しささくれだった感じが残ったのはこの点です。
小さな成功体験から偉大な経営者が生まれたという話は聞いたことがありません。大変な修羅場や周囲からの非難、仲間の反逆…そんな苦難を乗り越えて成功を掴んだ逸話の方が容易に浮かんできます。勿論、古典的な“上司”が無謀なタスクを部下に与えてつぶしてしまうのは、企業にとっても部下にとっても犯罪に近いことです。本書が主張する本来あるべき「上司」なら、仕事の与え方を工夫し、危うい状態や失敗しそうな状況なら全力で救助に入るのでしょう。しかし、そんな素晴らしい上司に巡り合わなくとも、苦境を打破して力を発揮し、成長を遂げる人は存在します。そしてそんな中からこそ、日本を背負うマネジメントが育つのではとも思うのです。経営者の在り方、彼らが担うべき次世代マネジメント人材の育成については、また機会を改めて考えたいと思います。