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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2015年7月
HARD THINGS ~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか~
ベン・ホロウィッツ(著)/滑川海彦、高橋信夫(訳)/小澤隆生(日本語版序文)
著者のベン・ホロウィッツは、シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラルパートナーとして、今も多くの若手ベンチャー企業の発掘と育成に力を注いでいます。
もともとコンピュータ・サイエンティストだった彼は、ブラウザを発明した若き天才マーク・アンドリーセン(当時22歳)に出会い心酔。自分より5歳も年下の彼が設立したばかりのネットスケープ社に入り、そこから起業家人生をスタートさせました。ネットスケープ社での紆余曲折に続き、ラウドクラウド社とオプスウェア社を起業し経営していくのですが、会社の急成長、資金ショート、困難な中での上場、妻の病気、バブル崩壊、株価急落、顧客の倒産、3度のレイオフ、上場廃止の危機…等々、これでもかという変化と困難が彼を襲います。壮絶な状況の中、彼はなんとかもがきながら問題を切り抜け、最後は会社を16億ドルで売却することにこぎつけました。
栄枯盛衰を繰り返すIT業界での凄まじい体験の数々。今はマーク・アンドリーセンと18年の長きにわたる最高のビジネスパートナーとして、前述のベンチャーキャピタルを運営し、多くの著名ベンチャーへの投資を成功させています。本書の第一章にはこんな記述があります。「18年経った今でも、マークは毎日のように私の考え方に誤りを見つけて私を当惑させる。しかし、私もマークに対して同じことをしている。我々にとってこれが実に効果的なのだ」。ベンチャーに関わるすべての人が知っておくべきことが、この言葉に凝縮されていると思いました。
著者ベン・ホロウィッツは、世界の有名起業家から最も尊敬されているキャピタリストだといっても過言ではありません。なぜ彼は、そこまで世界中の名だたる起業家から尊敬されるのでしょうか。その大きな理由のひとつは、彼が起業・経営を実践する中で、実際に困難に遭遇し、その中で培われた彼の考え方があくまでリアルだからではないでしょうか。ゼロから1を生み出す起業家も1から2に育てる経営者も、必要な能力は若干異なるものの、的確な判断力と実行力を必要とすることに変わりありません。本書には創業後に起こる出来事が、ゼロから1、1から2、さらに2の先までもれなく書かれており、その時々に彼が下した判断と行動が記されています。彼は本書の中で「成功するCEOの秘訣はない」ときっぱり語っています。と同時に「ただ際立ったスキルがあるとすれば、良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力だ。逃げたり、死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである」とも語っています。このような迫力ある言葉に、起業家たちの尊敬を勝ち得る理由が表れているように感じました。
皆さんの中で起業を目指している方がおられたら、本書を読むと起業をやめたくなるかもしれません。それほど起業とは、想定以上の困難の連続であることがよくわかります。しかしながら、そんな困難が歯に衣着せずに語られているからこそ、将来起業を目指す方、ベンチャーに参画してみたいと考えている方にはぜひ本書を読んでいただきたいのです。将来壁に突き当たった時、力強い助けとなる貴重なアドバイスが本書にはあふれています。
ベンチャーにとって人材育成は重要です。しかし同時に会社が成長するにしたがって、過去に成果を出したコアメンバーが会社の変化についてこられない場合もでてきます。そんな時、厳しいけれど経営者なら彼らを解雇しなくてはなりません。それが経営者の責任であり、能力であると彼はいいます。例えばそんな苦悩を乗り越えるためには、どうすればいいのか。「つらいときに役立つかもしれない知識」として助言が書かれていたので、抜粋してご紹介しておきます。
●ひとりで背負い込んではいけない
自分の困難は、仲間をもっと苦しめると思いがちだ。しかし、真実は逆だ。責任のもっともある人が、失うことをもっとも重く受け止めるものだ。重荷をすべて分かち合えないとしても、分けられる重荷はすべて分け合おう。最大数の頭脳を集めよ。
●単純なゲームではない
苦闘は戦略が必要なチェスだ。打つ手は必ずある。
●長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない
明日まで生き延びれば、今日はないと思えた答えが見つかるかもしれない。
●被害者意識を持つな
困難は、おそらくすべてあなたの責任だろう。誰でも過ちを犯す。どのCEOでも、無数の過ちを犯す。自分を評価して、「不可」を付けたところで慰めにもならない。
●良い手がないときに最善の手をうつ
偉大になりたいのならこれこそが挑戦だ。偉大になりたくないのなら、あなたは会社を立ち上げるべきではなかった。
本書にはたくさんの現実的な難題解決法が書かれているのですが、キャリアに関わる難問にも言及がされていました。それは「友人がCEOや上級管理職として経営している会社から優秀な人材を採用してもよいか」というケースです。大変悩ましく判断の難しい問題ですが、彼の答えはこうです。応募であってもスカウトであっても、その友人の承認を得ずに社員を決して採用してはいけない。採用前にとるべき手続きとして最善の方法は、開示と透明性を持つことだと。この点を守っておけば、友人のCEOが転職しようとする社員を引き留めたり、異議を唱えたりする最後のチャンスを与えられることになるからです。シリコンバレーやウォールストリートでは、問答無用の仁義なきスカウトが日常茶飯事だと思っていた方には、このようなビジネス倫理の重要性を語るお話は新鮮かもしれません。
このように、現役の経営者やベンチャー企業家にとっては本当に耳の痛い、心臓に悪いような命題が次々と登場し、ぐっさりと胸をえぐります。あるいは猛省を迫ってきます。しかし、だからこそ、ビジネスの最前線で本当に役立つ内容が語られていると思いました。最後の章で彼は「生まれつきCEOの器でなくても、CEOとして自分を鍛えることができる」と断言してくれています。スティーブ・ジョブスのような天才でなくても、鍛えれば偉大な経営者になれる…起業・経営を目指す方には、この言葉に勇気をもらいつつ、本書の内容を噛み締めていただきたいと思います。