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転職コラムキャリアに効く一冊
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2015年2月
渋沢栄一「論語」の読み方 ~人生の算盤は孔子に学べ~
渋沢栄一(原著)竹内均(編・解説)
論語、難しいですよね。精読された方もおられれば、まったく論語など関心のない方もおられることと思います。しかし、もしまだ論語に触れたことがない方がいたら、本書を最初の一冊とされることをお勧めします。
日本史上、論語を実学と捉えて人生に活かした偉人が二人います。徳川家康と渋沢栄一です。探究する心も必要ですが、教養や教えは生きている間に活かしてこそ役に立つという事を見事に実証したのだと思います。
かく言う私も、まったく「論語読みの論語知らず」であったことを打ち明けておきます。本書は、地球物理学者である竹内均先生が、編集解説しています。私事ですが、子供のころから、竹内先生のTV解説は、いつも論理立てた説明ながらも、何故かわくわくさせてくれるものがありました。小学校の先生のクラスでは味わえない、何か高揚感がありました。あの口調なのか、科学を子供にもわかるように説いてくれる優しさに惹かれていたのかもしれません。
ともすれば、固い話になる論語の話も、渋沢栄一や竹内均先生の手によれば、いとも簡単にわかった気にさせてくれるから不思議です。
論語は孔子(K?ng z?)と彼の高弟の言行を孔子の死後、弟子達が記録した書物で、『論語』『孟子』『大学』『中庸』を儒教の4書といいます。
儒教は「思想、信仰の体系」と言われていますが、孔子自身が「怪、力、乱、神を語らず」と述べているように、孔子の教えには宗教的要素もまか不思議な教えもありません。渋沢栄一もまた論語を宗教としては一切捉えておらず、徹底的に現実主義です。日常生活で役立つものです。ゆえに、論語は、「こんな考えもある。あんな考えもある。考えて、決めるのは貴方だ。」とせまってくるのです。そのような、相反する矛盾の箇所を発見して、論語を揶揄する向きもありますが、それは誤りでしょう。経営や人生において絶対的な方程式や答えはありません。しかし、物事を考えたいのであれば、論語は大変役立つはずです。
竹内先生が本書の最後で、以下のようにまとめておられます。
「孔子の教えは政治や哲学とかにかかわるものではなく、経済に代表される人間の日々の行為の基準となるものであった。(中略)渋沢の選択は適切だったといってよい。キリスト教や仏教ではそれぞれ神および仏のような超越者を必要とする。これに対する儒教でも聖人が出てくるけれども、それは超越者ではなくて、人間である。(中略)富を得ようとするには、正しい方法でしなければならないと説く点では倫理学であり、道を外れた方法で富を得ても長続きせず、正しい方法でなら富を求めることは大いに結構であるとする点で、立派な実学である。渋沢栄一がよく言う『論語と算盤は一致する』というのもこのことを指しているのである。」
渋沢栄一はご存知の通り、日本の偉大な実業家です。埼玉の豪農の出身で、徳川慶喜に仕え、欧州各地を視察し、資本主義文明を学び、帰国後は明治維新政府の今でいう大蔵省に入省、明治6年に退官。その後、91歳で亡くなるまで、第一勧業銀行や理化学研究所など500をこえる企業や団体の設立に関わっています。大いに日本の産業社会の発展に寄与した人物です。
今でいえば、企業派遣で海外MBAなど大学院留学をして帰国後、起業するようなものです。「経営を成功させるためには、実際の運営に当たる人に、事業上だけでなく一個人として守り行うべき規範・基準がなくてはならない」と考え、渋沢栄一は論語を自らの行動規範としたのです。欧米に範をもった資本主義ながらも、日本の偉大な実業家が『論語』を大事にしていたというのは特筆すべきことだと思います。
本書は、孔子の論語の言葉を、渋沢栄一が咀嚼し、実体験に基づいて説明してくれているものを、さらに竹内先生が現代語訳に変えてくれています。12編、161項目の行動規範といえます。全てを読んでもよし、断片的に読むもよし、読むたびに新しい発見があります。
最後に特に気にいった項目を少し紹介します。
■日々勉強してよい友をもつ、これが人生”最上の楽しみ”
子曰く、学びて時にこれを習う。また説ばしからずや。朋遠方より来たるあり。また楽しからずや。人知らずしていきどおらず。また君子ならずや。[学而]
学問をして、それを日常生活の中でいつも自分のものとして復習練習すれば、その学んだものすべて自分の知識となり、物我一体の境地に達する。これが知行合一である。 同学同志の友が、近くの者だけでなく、遠い地方の人までも、自分を訪ねてきて、ともに切磋琢磨すれば、ますます進歩する。また自分が学び得たものを友に伝え、その友はさらにこれを他に伝え、転々として善を多数の人に及ぼすことができれば、これまた楽しいことではないか。自分の学問が成就し、立派になったのに世間が認めてくれないこともあるが、人をうらまず、天をとがめず、ひたすらにその道を楽しむのは、徳の完成した君子にしてはじめてできることである。
■人を見るに間違いのない”視・観・察”の三段階視察法
子曰く、そのなすところを視、その由るところを観、その安んずるところを察すれば、人(ひと)焉んぞ(いずくんぞ)かくさんや。人焉んぞかくさんや。[為政]
第一にその人の外面に現れた行為の善悪正邪を視る。第二に、その人のその行為の動機は何であるかをとくと観きわめ、第三に、さらに一歩を進めてその人の行為の落ち着くところはどこか、その人は何に満足して生きているかを察知すれば、必ずその人の真の性質が明らかになるもので、いかにその人が隠しても隠しきれるものではない。
■自分を大切にせよ、だが偏愛するな
子曰く、いやしくも仁に、志す。悪しきことなきなり。[里仁]
人間が悪事をなすのは、他人と接触するとき、自分を偏愛することから始まる。つまり利己主義のなせるわざである。(中略)人間は自分の利益幸福のためだけでなく、他人の利益幸福のためにも働かなければけっして栄えることはできない。
■この心意気、この覚悟が人生の道を開く
子曰く、朝(あした)に道を聞けば、夕べに死すとも可なり。[里仁]
道を求めるには時間を惜しんで励めと孔子は説いている。(中略)老いて余命いくばくもないなどと言って学問を捨ててはいけない。人としての道を知ることがでれば、夕べに死んでも悔いはない。朝夕というのは時間の短さを極言して人を勧める言葉である。孔子が死を好んで厭世観を述べたものではない。
■人の上に立つ人は”弘”と”毅”の二文字に生きよ
曾氏曰く、士は以て弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し。仁以て己が任となす。また重からずや。死してしかしてのち已む。また遠からずや。[泰伯]
人の上に立つ男(士)は弘毅でなければならない。弘は大きいという意味で、その器量の大きく広いことをいう。小さいことにあくせくしたり、つまらぬことで立腹したりしてはいけない。毅は強く断行できる意味で、強く忍び堅く耐え、堪忍に堪忍を重ね、最後に断行する。
■ 困難こそ”幸福の母”なり! けっしてあきらめるな
子曰く、苗にして秀でるものあるか。秀でて実らざるものあるか。[子罕]
穀物が芽を出して苗になっても、なかには花もつけずに枯れてしまうものもある。また花をつけても実を結ばないまま枯れてしまうものもある。(中略)
すゑつひに、海となるべく やま水も しばし木の葉の したくぐるなり (古歌)
水が初めて深山の岩の間から湧き出て、まだ力弱い浅い細い流の時は、一枚の木の葉にさえぎられることもあるが、苦労して木の葉の下をくぐり抜け、いくつかの流れと合流して力を増せば岩石さえも壊して海に降って、ついに大海の水となって、大船をも浮かべることができる。
■四十歳、五十歳を“いい顔”で迎える準備
子曰く、後生畏るべし。焉んぞ来者の今に如からざるを知らんや。四十五十にして而して(しかして)聞ゆることなきはこれまた畏るるに足らざるのみ。[子罕]
後進の青年は恐るべき存在だ。学業を修めて進み続ければ、その到達するところは測り知れない。(中略)しかし、もし学問を怠け行いを修めず、四十、五十歳になっても名声が聞こえてこないようなら、恐れるに足らない。(中略)いたずらに年をとるだけで、つまらない棄材となることを戒めている。老人になると、とかく過去だけをかえりみてその感想を語る悪いくせが出る。(中略)これに対して若い人は、未来ばかりを説く。努力し続けて止めなければ必ず名を成すものである。
■ 松柏(しょうはく)に学ぶ周囲の変化に負けない忍耐力、毅然たる態度
子曰く、歳寒く然るのち松柏の凋むにおくるるを知るなり。[子罕]
天下無事のときは人々はみな同じように見えるけれども、いったん利害が絡み事変に遭えば、小人はみな萎縮して利に走り身を守るが、道を学んだ君子や節義を守って、生死禍福のために心を動かすことなく、あたかも松や柏が極寒に耐えているようだとたとえたものである。
■すべて自分の事と考えれば問題はおのずから解決する
子曰く、君子はこれを己に求め、小人はこれを人に求む。[衛霊公]
君子は自分を責めることが深く、全てこれを反省する。こうして徳を日々に積んで自分を磨いてゆく。小人はこれに反し、これを他人に求めて自分で反省しない。だから自分で得るものなく、いたずらに人をうらやむようになる。
■孔子流の人材登用・抜擢法
子曰く、君子は言を以て人を挙げず。人を以て言を廃てず。[衛霊公]
小人であっても、善言を云うことがあり、善言を云う人が必ずしも徳があるとは限らない。だから言葉だけで人を登用してはならない。
他にも孔子の教えを実践した渋沢栄一の逸話を踏まえたエッセンスが盛りだくさんの本書は、明治の奇跡の改革を成し遂げた、人々の思想、経営者の気骨を知ることができる点でも興味深い書です。そして、維新後の発展と停滞、戦後の発展と停滞、似たところがある今、本書はキャリアや経営、人生を考える人達に是非読んでいただきたい一冊です。
著者:渋沢栄一(原著)竹内均(編・解説)