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2014年10月

リーダーを目指す人の心得
コリン・パウエル(著), トニー・コルツ(著), 井口耕二(翻訳)

パウエルは始めに自らこう述べています。

「私は逸話が好きだ。本書には結論も提案もない。ただ、集めた逸話や体験、見たものがつづられている。これらは、人生やリーダーシップについて重要なことを教えてくれた大事なものである。これらについて私が確実に言えることはただ一つ、私はこれでうまくいった。これらの体験や逸話が皆さんの参考になるなら活用してほしい。」

章のタイトルだけでもすでに教えがあります。

  1. コリン・パウエルのルール 13か条のルール
    1. なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。
    2. まず、怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。
    3. 自分の人格と意見を混同してはならない。さもないと意見が却下されたとき自分も地に落ちてしまう。
    4. やればできる。
    5. 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
    6. 優れた決断を問題で曇らせてはならない。
    7. 他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
    8. 小さなことをチェックすべし。
    9. 功績は分けあう。
    10. 冷静であれ。親切であれ。
    11. ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
    12. 恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
    13. 楽観的でありつづければ力が倍増する。
  2. 己を知り、自分らしく生きる
  3. 人を動かす
  4. 情報戦を制する
  5. 150%の力を組織から引き出す
  6. 人生を振り返って-伝えたい教訓

第2章「組織における昇進」において、歩兵から将軍になるまでの組織について、ピラミッドを用いてうまく説明しています。

「皆最初は新人だが、そのうちピラミッドのなかを上昇し少しずつ幅の狭い層へと移っていく。一方経験を積み能力を証明するにつれ、球体が大きくなりピラミッドの内壁に当たる。この過程で人はリーダーになっていく。さらに成長し、上に上がりたいと思えば、ピラミッドの外へ延びるしか道はない。こうしてリーダーはピラミッドという狭い器の外に広がる世界について学び始める。」

軍隊では民間企業のように外部から上司を採用するという選択がないため、純粋にその組織内でポジションや責任を上げていくことで、リーダーとして認められていくことになります。当然リーダーになれば責任の質が変化し、その範囲が広くなっていきます。軍人であるパウエルは軍隊内のたたき上げでリーダーとなり、そのリーダーシップを身に着けているのです。

個人的には2.の「まず怒れ」は、残念ながら私には共有できる経験がなく理解できませんが、これは大きな会社に勤める人達、権威、責任の大きなところでは有効で理解できる点なのかも知れません。ただしリーダーが意図的に「怒り」を使う事は容易に想像できます。

それ以外の章は納得できることばかりです。逸話やエピソード、メンターとなった過去の将軍の言葉や教えを、誠実に守ってきたことがパウエルを支え成功に導いたのだと思えました。

私のお気に入りの逸話は、第2章の5、「常に問題を探して歩け」にありました。若いパウエルが大尉から学んだ話です。問題なく終わったはずの日でも、朝起きてみれば、部下が何か問題を起こしており、その不祥事から憲兵に呼び出しを食らうという逸話です。その日からパウエルは問題がない日はないと心得て毎日を過ごしているといいます。「皆、そういう経験をしているはずだ。問題は生きているだけでもいろいろ起こるし、責任ある立場になるほど増えもする。問題に遭遇したら、じっとこらえ、また動き出す。とらえられてはならない。問題解決こそリーダーがすることだと考え、私は生きてきた。問題を解決しなくなったら、あるいは問題にきちんと対処できなくなったら、もう人の上には立てなくなったということだろう。」

組織論として読んでも本書は大変示唆に富んでいます。たとえば第3章「人を動かす」では人の評価や配置などについても面白い話があります。いわく、「人の採用については、雇うべき人を見送ってしまうこともあれば、雇うべきでなかった人を雇ってしまうこともある。だいたい人は上司が必要とする強さを備えているものだ-バックアップしてやらなければならない弱みともずっと付き合う必要があるものかもしれないが。人選においては、打率5割を超えられれば御の字である。」

採用はどの世界でも難しいものであると痛感しました。

この3章ではパウエルが部下に求めること、そしてリーダーに必要な資質・心得について述べているので紹介しておきます。

「能力、知性、個性、倫理性、度胸、優しさを伴う厳しさ、士気高揚の力、忠誠心。このほか、私と徹底的に議論し、その上で私の決定を自らの決断であるようにしっかりと遂行することも求める。過去の実績も精査するが、将来性も把握したい。想像力や創造力に優れ、さまざまなアイデアを思いついたり将来を予測できたりする人も欲しい。私よりも前に問題に気づき、私が知らないうちに対処してくれる部下は宝だと思う。誰よりも早くチャンスに気づき、リスクや危険を早期に察知できる部下も宝だと思う。自分やチームと相性の良い人も欲しい。

(中略)私は目的をもって懸命に仕事をし、仲間を奮い立たせる、また、家族との時間を大切にし、楽しむ、仕事バカではない人物が好きだ。充実したチームにしたいと思う。だから、部下が懸命に仕事をするようにと私は懸命に仕事をするし、部下が仕事を楽しめるようにと私は懸命に仕事をする。部下がすることを信じていなければ、あるいは仕事に必要な準備や装備が部下に与えられていると感じられなければ、このようなことは不可能だ。

仕事の基準は高めに、ただし不可能ではないレベルに設定する。できるかぎり努力すれば達成できるものにする。恐れに支配される組織にはしたくないと思う。部下にどなりちらしたり、部下を虐待したりするような職権の乱用と怒りに満ちた組織やリーダーは不要である。そのようなやり方で、部下の力を引き出したリーダーなど知らない。

リーダーとは責任をもって受け持つ勇気のある人物。人々が反応し、この人にならばついていこうと思える人物だ。

まず、他人とのつながりや親近感を持って生まれた人でなければならないと思う。また子供時代に両親や教師がそのような感情を奨励し、引き出してくればければならない。さらには、訓練や経験、メンターの指導によってしっかりとした形にされていなければならない。その上で、いろいろ学べば、さらに優れたリーダーになることができる。逆に学び、成長することをやめてしまえば、生まれながらの才能も無駄になってしまう。」

彼はベンチマークする尊敬する人などについて語ることもなく、極めて謙虚に、「私にとって最大の幸運は、すばらしい家族のもとに生まれたこと」と述べています。

おわりに、「人生とは、さまざまな出来事の連続だ。人生とは、挑戦し、乗り越えた困難-あるいは乗り越えられなかった困難-を意味する。人生とは成功と失敗の連続である。だが、これらすべてを合わせたよりも大きいのが、出会った人々とどのように触れ合ったのか、だ。人生はすべて人なのだ。いま読み終えられた本書から、このことをくみ取っていただけることを願っている。」

ぜひ、上記に挙げた言葉だけではなく、パウエルが人々とどのような出会いや会話を交わしたか、本書を読んで各自がくみ取っていただければと思います。

リーダーを目指す人の心得 出版社:飛鳥新社
著者:コリン・パウエル(著), トニー・コルツ(著), 井口耕二(翻訳)