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転職コラムキャリアに効く一冊
キャリア開発に役立つ書籍を毎月ご紹介しています。
2014年6月
劣化するシニア社員
見波 利幸 (著)
産業カウンセラーの立場で書かれている良書に入ると思います。とは言え、劣化するシニア社員が生み出されている原因や、それを生み出さない解決方法が書かれているわけではありません。その点は本書の目的ではないのでご期待なさらぬよう。
本書は、定年退職制度を設けている日本企業において増殖中の「劣化シニア人材」の実態と、そのような定年退職制度を設けている会社が定年延長を行った場合の会社としての対処方法と、劣化したシニアを使わないといけない周りの人達の対処方法を述べています。国の政策として定年退職制度を引き続き認め、65歳迄年齢を引き上げ、再雇用を奨励する政策を選択した段階で、あるべき本当の社員の価値については議論が止まってしまいました。あるべき本当の社員の価値を議論すると、会社がもつ解雇権について議論しなくてはならなくなるからです。定年退職制度、年功序列、解雇権などは日本の労働慣行の中で根深い課題です。
私がキャリアに効く一冊としてここに挙げた理由は、本書がもたらしてくれている問題提起の意義は、決してシニアの問題ではなく、年齢に関係なく日本企業の労働慣行の中で、社員の劣化が起きているという点にあり、そして若い読者にもぜひご自分が知らない間に「劣化社員」となっていないか、セルフチェックをして欲しいと思ったからです。
定年退職制度というのは日本企業固有の制度で、海外の企業ではフルタイムかパートタイム、あるいは期間の定めの有無で違いがあっても、定年まで雇用を守るということがありません。定年退職制度を全否定するつもりはありませんが、同制度や年功序列を、まるで雇用制度の大前提のように思っている人達には改めて、同制度がもたらしている劣化社員の増加について目を向けて欲しいと思います。定年退職制度というルールの中で設計されてきたキャリアプランと、定年など期間の定めがなく会社も個人も対等に雇用関係を締結したり、終了させることができるルールの中で設計されてきたキャリアプランでは大きく異なります。
この書は、50歳の問題シニア社員だけではなく、「辞めない」そして「働かない」という劣化した社員の増殖を許してしまう企業体質について問題提起をしているように思います。20代でも40代でも、一人分の仕事をこなせない劣化社員は存在します。それが、たまたま定年を迎え、再雇用あるいは別の会社が雇用しなくてはならなくなってきた、55歳から65歳あたりの年齢層で、社外に放り出されたり、再雇用されたり、大量に社会に放出されてきたところに光があたり、問題が大きくクローズアップされているにすぎません。
定年退職制度に依存しなくても良い社会にしなくてはなりません。劣化社員は、会社にとっても社会にとっても、キャリアの資産としては利益を生み出さない不良資産になってしまっています。
本書は、劣化してしまったシニア社員に対しても、やさしく、何とか自己改善を促そうと具体的な対処法、改善すべき点を述べてくれています。突き放すようなことは書かれていません。また、再雇用を受け入れる側の社員や会社に対しても、どうすれば劣化した社員が改善点に気付いたり、あるいはさらなる劣化を食い止められるのかについても、対処法が述べられています。実に筆者の人柄の良さが出ています。単なる処方箋ではなく、現場で多くの劣化シニアに対する問題に対峙されているからこそ出てくる具体的な処方箋であることが分かります。
繰り返しになりますが、私が読者にお勧めしたい点は、セルフチェックです。自分だけはそうではないと思っていると、知らない間に会社の外で通じない、市場価値の下がった取り残された人材になってしまいがちです。以下のようなチェックポイントが書かれていますいので、是非再確認されることをお薦めします。20項目の中で当てはまるものが多ければ、筆者もその人の職場適応能力に関してかなりのリスク、問題を抱えていると述べておられます。
- 給料が下がるので、モチベーションも下がるのは当たり前だ
- 給料が半減するのなら、仕事も半分にしたい
- どのような状況でも残業はしないことに決めている
- 年齢的に新しい仕事は厳しい
- 難しい仕事は現役世代に担ってほしい
- 単純作業をするために継続するのではない
- 雑用などはプライドが傷つく
- 新しく配属された人には親切・丁寧に接するべきである
- 自分の役割はご意見番である
- マネジメント経験があるので、率先して部内をまとめあげることも必要だ
- 若い社員には、経験法な自分が鍛え直すことも必要だ
- 今さら、目標数字を持たされたり、ノルマが課されたりされたくない
- 今さら、第一線で働かされたくない
- 今まで培った技術や経験を生かす仕事内容にするべきである
- 今まで会社に貢献してきた人には敬意をもって接するべきである
- 社会経験・人生経験豊富な人の意見は素直に聞くべきである
- サポートや助言してほしい時には、相手側から教えを請うべきである
- 大変になったら、いつでも辞めればいい
- 会社にあまり貢献できなくても、大きな失敗さえしなければいい
- 制度上、会社に残るのは当然の権利である
上記のチェックポイントも非常に適切なものだと感心しましたが、劣化したシニア社員を数多くの典型的なタイプで説明してくれています。以下はその中の一例です。該当しそうな人、意外に多いのではないでしょうか?
- 逃避・回避の傾向がある人は「嘆きタイプ」に陥りやすい
- 本質的な解決から逃げるために現状を嘆きまわっている。
- 言い訳をする人は、「やらされ感」から脱却できない
- 「おんぶに抱っこタイプ」にみられる強い依存傾向
- 会社に対する帰属意識と依存心を混同しない
- 「わが道を行くタイプ」は意志疎通不足から陥りやすい
- 「聞く割合」より「話す割合」のほうが高い人は自己中心性が高い
- 同じ仕事をしているのに自分の不満ばかりぶつける人
- 自己中心性は、自分の大変さしか見えない
- 人の話を聞かない人は人間関係の構築につまずきやすい
- 心が一足先にリタイアしてしまった「ご隠居タイプ」
- 過去にとらわれているシニアは職場適応がしにくくなる
- 「無責任タイプ」の背景要因は当事者意識の完全な欠如
- 職場に横行している「やられたらやり返す」行動
- 「勘違いやり過ぎタイプ」には自己愛傾向が強い
- 特別扱いされないと不満を持つ人が一定数いる
もしセルフチェックの結果、該当するようであれば、もう一度ご自分のキャリアの適正を再考されることをお薦めします。